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2022/02/28

【アイうた感想】劇場アニメ『アイの歌声を聴かせて』がどうして刺さったのかを5つの要素で考えてみた #アイの歌声を聴かせて

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 「アイうたはいいぞ」と言い続けて4か月。『アイの歌声を聴かせて』(以降、アイうた)が昨年2021年10月末に劇場公開されて以来、幾度となく映画館へ足を運び、合間合間に感想や考察や妄想をTwitterに書き殴ってきました(※1)。ただ、Twitterは簡便な反面、長い文章を書き連ねるにはあまり向きません。何度も見るほどアイうたが好きなのなら、せっかくだから少し長めの文章で何か書き残しておきたい。そう思ってこの文章を記しました。
 とはいえ、言いたいことや思いついたことはだいたいその都度書いてしまっているため、いまさらそれらを取りまとめるのも面倒です。そこで、ここではアイうたがどうしてこんなにも自分に刺さったのか、特に刺さった5つの要素、「幼なじみ」「百合」「AIロボット」「2回目」「行って帰る物語」について感想と考察、および妄想を交えながら書き綴っていきます。

※1 #アイの歌声を聴かせて 感想や考察や関連ツイートなどのバックアップ(2022年2月末現在その7まであり)

 以降ではアイうたのネタバレを多分に含んでいるのでご注意ください。また、アイうたをまだ1回も観ていないという方はこれを読むよりも、まず一刻も早く劇場へ行ってアイうたを観てください。2022年2月末現在、日本全国どこかしらの劇場で上映されています。あと、是非2回目も観てください。

 それでは5つの要素について、以下1つずつ順に取り上げていきます。

1.幼なじみ

 幼なじみこそ至高であり、地球上で最も尊い関係の1つだと思います。かの名作RPGではビアンカ以外の選択肢が考えられず、マンガやアニメに幼なじみが登場すれば2人の恋路を無条件で応援してきました。幼なじみの片割れがぽっと出の転校生や偽物の恋人に持って行かれるなどもってのほか、幼なじみは幼なじみと幸せになって欲しい。いわば幼なじみ至上主義です。

 アイうたは公式サイトや予告PVで、既にサトミとトウマが幼なじみの関係にあること、しかもぎこちないことが示されていました。なにそれ……最高じゃないか……! 今にして思うと、アイうたは予告の段階で既に勝利が約束されていました。実際にアイうたを観てみると、小学3年以来疎遠になっていたとか、トウマからは一方的に監視、もとい見守っていたとか、トウマはずっとサトミに恋い焦がれていたようだがサトミはそうでもなさそうだとか、幼なじみ最高要素のオンパレードでした。特にサトミとトウマが幼なじみであることを強く感じさせたのは、シオンの転入2日目にサトミとトウマが8年のブランクをものともせず昔のようにごく自然に会話するところと、祝勝会の日にサトミとトウマが幼い頃の思い出をそれぞれ懐かしむところです。いいわいいわ、幼なじみっぽい♪ シオンのそんな喜びの声が聞こえてくるようです。
 アイうたでは、このサトミとトウマの幼なじみという関係が物語の重要な位置を占めていることは言うまでもありません。そもそもトウマがサトミにたまご型AIを改造してプレゼントしなければ高度に発達するAIは生まれず、サトミの幸せを願わなかったらロボットのシオンは生まれませんでした。物語の根幹に幼なじみのサトミとトウマがいます。これを究極の幼なじみの物語と言わずして何と言いましょう?

 ところで、アイうたには幼なじみがもう1組いると考えています。アヤとマユミです。
 アヤとマユミは同じバス停からバスに乗る描写があります。つまり、2人の家は比較的近くにあると考えられます。
 また、吉浦監督によるとアヤの趣味である手芸の成果はアヤのスマホのアイコンとして使われているそうです。アヤのスマホのアイコンは祝勝会の後、トウマがシオンからの返信を受ける際に明らかになりますが、そのアイコンと同じ顔のぬいぐるみがマユミの鞄にぶら下がっています。
 これらのことからアヤとマユミが幼なじみの関係にあり、マユミのぬいぐるみはアヤが趣味の手芸を活かして作ったプレゼントであると推測されます。またさらに一歩踏み込むと、2人は毎年誕生日にプレゼントを贈り合っていて、アヤが左手首に着けているシュシュはマユミからのプレゼントであるという可能性も出てきます。
 もちろんアヤとマユミに関してはそこまでの言及はないため、これらは想像に過ぎません。ただ、アヤは学校ではマユミ、リョーコと3人で過ごしていることが多く、アヤが心を許している人間は実はそれほど多くはないのではと思います。アヤがサトミを「告げ口姫」呼ばわりしたのもゴッちゃん絡みの八つ当たりから憎まれ口を叩いただけで、サトミを「告げ口姫」と呼び蔑んでいる生徒達と仲がいいわけではないと考えています。

 そんなアヤが手ずから作ったぬいぐるみをマユミが持っている理由は何か。それを突き詰めたときに、アヤとマユミが幼なじみの関係にあると考えたらしっくりきたのでした。

 アイうたの舞台は離島の田舎です。そのような環境では比較的家が近くて年も近い者は限られてくることでしょう。サトミとトウマの2人と同じようにアヤとマユミが幼い頃の思い出を共有している。もしかするとゴッちゃんやサンダーも過去にどこかで繋がりがあったのかもしれない。そう想像するだけでアイうたはよりいっそう幼なじみの物語としての色彩を濃くします。これって、すごいことだと思いませんか?

2.百合

 何を隠そう、映画館で見た予告PVでシオンがサトミに「私が幸せにしてあげる!」と言うのを聞いて、女子高生型のロボットと女子高生の百合では!? と思ったことがアイうたを観ようと思ったきっかけでした。その後公開されたアイうたを観て、8年間も一方的に見守りながら呼びかけ続けるという巨大感情をぶつけられたり、馬乗りになったり身を挺してかばったりおでここつんをしたりと、濃厚なサトシオサト(※2)をこれでもかと見せつけられるに至り、アイうたは百合であるという評価を不動のものにしました。

※2 サトミとシオンのカップリングを表す言葉はサトシオとシオサトがありますが、サトシオサトは両者をひっくるめた表現です。サトシオとシオサトは雰囲気、またはその言葉を使う人の信条で使い分けられています。

 百合作品を謳っていない一般向け作品の中で描かれる百合は格別です。アイうたは青春群像劇であり、劇中で描かれるカップリングはサトシオだけではありません。サトシオの片割れであるサトミにはトウマという幼なじみがいて、前述のとおりトウマとの関係性が物語の核の1つになっています。また、アヤとゴッちゃんというクラス公認カップルの仲を修復することも大事な話となっています。このようにアイうたはあくまで一般作であり、百合ジャンルにカテゴライズされるものではありません。そんなアイうたにおいてサトシオ/シオサトという百合ップルが物語の大きな位置を占めている。これって、すごいことだと思いませんか?(2回目)
 サトミを幸せにするため、幸せの意味がわからないながらもサトミを見守り続け、サトミのために歌い続けたシオン。「芦森詩音」という機体を得てからは、サトミにとっての幸せの意味を考え、サトミの幸せのために東奔西走したシオン。サトミを幸せにするためにした行動が他ならぬ自身の幸せであることを知ったシオン。そんなシオンとサトミの関係に名前を付けるとしたら何でしょうか? シオンとサトミの関係が百合でないとしたらどんな名前がふさわしいでしょうか? エピローグでトウマは、シオンが命令ではなく自身の心にしたがってサトミを幸せにしようとしたのではないかと指摘しました。シオンのために泣くサトミを元気づけようとして「綺麗なお月様、だよ」とシオンが言ったのは「月が綺麗ですね」の逸話を踏まえたからだと考えたくなるのも無理からぬことでしょう。

 ところで、サトミにはトウマがいるからサトミとシオンの百合は成り立たないという意見もあると思いますが、シオンはロボットだからセーフだと考えています(※3)。何がセーフなのかはいまいちよくわかりませんが、トウサトとサトシオは両方同時に成立すると自分は考えています。

※3 それをいったらロボットと女子高生のカップリングを百合と言っていいかどうかについても議論が必要ですが、ここはすべてありということでひとつお願いします。

3.AIロボット

 人間とAIロボットの交流を描いた物語が昔から好きでした。もしかすると子供の頃に初めて買ったマンガが『ドラえもん』16巻だったからかもしれません。まあ、ドラえもんはAIのロボットというよりはもう「ドラえもん」という存在のように思いますが。
 ということで、ここではシオンのAIロボットという属性に関連して2つのマンガ作品に触れてみます。

 1つ目は『ドラえもん のび太と鉄人兵団』(藤子・F・不二雄著)です。アイうたでサトミとシオンの関係性に特に惹かれた理由が『鉄人兵団』のしずかとリルルにあることに気づいたのはアイうたを何回か見たあとでした。『鉄人兵団』のリルルは地球外のオーバーテクノロジーによって作られたロボットであり、地球人をさらうために派遣された経緯からのび太たちとは対立する存在です。そのため、リルルとアイうたのシオンは似ても似つきません。それでもサトミとシオンを見てしずかとリルルを思い出した人はけっして少なくないと思います。幼い頃に『鉄人兵団』を見てしずかとリルルの関係に新たな扉を開かれた人が、アイうたのサトミとシオンに惹かれるなという方が難しいでしょう。『鉄人兵団』でしずかとリルルが束の間育んだ友情や想い、それらをサトミとシオンに重ね、幸せな2人として昇華させている。そんな気がします。

 2つ目に挙げるのは『ぼくらのよあけ』(今井哲也著)という、宇宙好きの少年・ゆうまと外宇宙からやって来た無人探査機のAIとの交流を描いたマンガです。作中の舞台は西暦2038年と少し先の未来ですが、AIなどの技術が社会や生活に取り入れられつつ、団地に住むゆうまが毎日学校に通う様子が描かれるなど、現在の延長線上にある世界であることをうかがわせます。


『ぼくらのよあけ』

 『ぼくらのよあけ』でとりわけ注目したいのが、ゆうまの家にいるお手伝いのAIロボット「ナナコ」です。ナナコは「オートボット」と呼ばれるロボットで、頭と2つの腕だけがあってそれぞれ分離した状態で宙に浮いています。オートボットには性別や種族などの設定があるようで、ナナコは人間の女性タイプです。ただ、それゆえにゆうまはナナコとの接し方に悩んでいるという背景があります。
 ナナコはゆうまとともに探査機のAIと関わりを持つことになりますが、そのことをきっかけにAIとして飛躍的な進化を遂げ、やがて嘘を吐くようにもなります。そんなナナコに対して作中で使われたある言葉(ネタバレになるためここでは伏せます)はそのままシオンにも当てはまるものでした。ナナコもアイうたのシオンも現在の技術から見れば強いAIを実現した存在ですが、両作品が持つ現実との地続き感はナナコやシオンのようなAIロボットがいつか本当に現れることを予感させてくれます。
 『ぼくらのよあけ』は他にも親子二代に渡る物語になっていたり、「友達」という言葉が効果的に使われていたりと、日常と隣り合わせのSFであること以外にも様々な魅力が詰まったマンガなので、興味のある方は読んでみてください。

4.2回目

 1回観た映画の2回目は解像度を高くして観られるため、物語に対する理解が進み考察も捗ります。アイうたは張り巡らされた伏線や細かい描写が多いから2回目を観ればいろいろ気づきも多かろう。そう思っていつも他の映画で2回目を観るときと同じようなノリでアイうたの2回目を観に行きました。

 ところが。1回目を観た状態で観るアイうたはまるで世界が違って見えました。どう違うかは2回目をご覧になった方であればもう言うまでもないことですが、まず冒頭からシオンの視点になってしまうのです。ネットの海をさまよい、やがて「芦森詩音」の機体へとたどり着くシオン(になる前のAI)。それが「ララーララーララー♪」と歌う、もうそれだけで涙があふれてしまいます。
 実際、1回目を観たときは終始サトミの視点で物語を見ていました。しかし、冒頭の映像が話の導入にありがちな抽象的な表現などではなく、シオンが本当に見ていた景色であることを知っている2回目は、容易にシオンの視点に立ててしまうのです。この仕掛けを作った制作陣は本当にすごいと思います。この世界がひっくり返るような衝撃は「2回目」を観たときにしか味わえない体験でした。

 アイうたのエンドロールでは、キャストはシオン役の土屋太鳳さん、サトミ役の福原遥さんの順になっています。これはアイうたがシオンの歌を主軸に据えているだけでなく、シオンというAIを主役にした物語であることの証左ではないかと思っています。ただ、実際はサトミの視点で話が進むことが多いため、どちらが主役というよりはシオンとサトミのダブル主演といった方がよいのかもしれません。

 ということで、もしアイうたを1回観たけれど2回目をまだ観ていないという方は是非2回目を観てください。

5.行って帰る物語

 過去の記事「円環の理に導かれた物語――ストーリーが円環構造や螺旋構造を持つマンガには名作が多いという説を唱えたい!」で以下のような主張をしたことがあります。

話の始まりと終わりで同じ場所へ戻ってきたり、その形は多少変わることもあるけれど元の関係に戻ったりなど、円環の理に導かれたようにストーリーが円環構造や螺旋構造を持つマンガには名作が多いように思う。

円環構造を持つ物語は円環構造を持たせるために充分に練られた上で物語が作られている、ということ。

 この記事を書いてからだいぶ時間が経っていますが、円環構造を持つ物語、行って帰る物語には名作が多いという認識は少しも変わっていません。

 これを念頭に置きつつアイうたの物語を振り返ってみます。
 アイうたは、実体を持たないプログラムとして光に彩られるネットワークをさまよっていたシオン(に入る前のAI)が「芦森詩音」の機体に飛び込むところで幕を開け、再びプログラムのみとなって実証衛星つきかげに身を寄せたシオンが再度地上のネットワークに降りてくるような描写で幕を閉じています。また、前者で流れる劇伴の曲名は『シオンの世界』であり、後者で流れる『シオンの世界(再奏)』の曲名と対になっています。これらのことから、アイうたは明確な円環構造を持った物語になっていることがわかります。

 プロローグの時点で機体に飛び込んだシオンはたまご型AIから自己進化した存在であり、まだサトミにとっての幸せの意味やサトミたちの感情の機微についてはまったくといっていいほど理解していませんでした。しかし、エピローグのシオンは、音声による会話と身体的な活動を通じた学習を重ねて劇的に成長し、サトミの幸せだけでなくサトミの友達や自らの幸せの意味についても考えるまでになりました。ネットワーク=シオンの世界から飛び出したシオンがサトミたちとのふれあいを通じて「成長」し、またネットワーク=シオンの世界に戻る。これは元の場所から行って元の場所へ帰る、だけど少しだけ成長しているという、「行って帰る物語」の構造をアイうたが持っていることに他ならないと思います。
 ただこの場合、ネットワーク上にいる状態がシオンの本来の姿ということになりますが、シオンはそもそもAIのプログラムであり、たまご型のおもちゃも芦森詩音もつきかげもプログラムを実行するための器でしかないと考えれば、実体を持たないシオンが本性であるとしても差し支えはないと考えます。とはいえ、芦森詩音の機体に入って歌い踊るシオンがもっともシオンらしいと思う自分もいるので、なかなか理屈では割り切れないところではありますが。

 上記はシオンの物語として見た場合の話ですが、サトミたちの物語として見た場合も、突然現れた(あるいは再会した)シオンが最終的には姿を消すもののシオンがつなげた縁は残る、という「行って帰る物語」の構造が見て取れます。
 アイうたは、ひとりぼっちだったサトミがトウマとの仲を回復してゴッちゃん、アヤ、サンダーという友達を得るまでの物語と、サトミのそばを一度は離れたAIがシオンとして舞い戻り「サトミを幸せにする」という命令を遂行する物語が並列的に存在し、さらにゴッちゃん、アヤ、サンダー、そして美津子の小さな物語が枝葉を伸ばすという複雑な構造になっています。それらをさらに円環構造を持った物語に仕立てた制作陣が、いったいどれほどの苦労を重ねてアイうたの物語を練り上げたのかは想像だにできません。だからこそ、自分はこの物語に、アイうたに強く惹かれるのだと思います。

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 以上、5つの要素からアイうたがどうして刺さったのか、アイうたに感銘を受けた理由を探ってみました。この5つ以外にも、アイうたで好きな要素は挙げきれないほどあります。そればかりか、アイうたを見てからというものシオンのように常にワイプで反芻しているため、日を追うごとにアイうたの感想や考察が進み、好きな要素も増えているような状態です。これからもきっとアイうたを観るために何回も劇場へ行くし、メディア化後もサトミのムーンプリンセスよろしく1138回再生することでしょう。

 最後になりますが、『アイの歌声を聴かせて』という「一番好き! ぶっちぎりの一番! 殿堂入り!」の映画を作ってくださった吉浦康裕監督ならびに制作者の方々、キャストのみなさま、アイうたの感想や考察や妄想を紡いでくださるファンの方々、いつも映画の感想を語り合ってくれる友人たちに厚くお礼申し上げます。『アイの歌声を聴かせて』に出会えて、私、幸せだよ!

出典

  1. 吉浦康裕監督、『アイの歌声を聴かせて』、BNArts/アイ歌製作委員会、2021
    https://ainouta.jp/
  2. 藤子・F・不二雄著、『大長編ドラえもん7 のび太と鉄人兵団』、小学館<てんとう虫コミックス>、1987
  3. 今井哲也著、『ぼくらのよあけ』全2巻、講談社<アフタヌーンコミックス>、2011~2012

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