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2015/08/11

かつて想いを寄せた少女が16年の時を超えて当時のままの姿で再び目の前に現れた。そんな青春の残滓と対峙することになった男の物語。 緑のルーペ『青春のアフター』第1巻

『青春のアフター』第1巻

 昔好きだった相手と10年以上もの年月を経て再び巡り会う。しかも喧嘩別れのようになった相手と。しかも別れたときと同じ姿形のままの相手と。
 『青春のアフター』は16年前の高校生だった頃の時間からタイムスリップして現れたかつての想い人、いわば青春の残り火と向き合うことになった男の物語だ。

『青春のアフター』第1巻p.17

 クラスで気になる女の子。高校生の鳥羽まことはクラスで浮いた者同士という親近感からクラスメイトの十和(とうわ)さくらに恋心を抱く。やがてあることをきっかけにゲーム好きという共通点を知り、まことはさくらとお互いに下の名前で呼び合う仲になった。しかし、その日々はさくらがまことではない、別のクラスメイトに好意を持っていることが露呈したことで終わりを告げる。さくらが好きだったのはクラスで孤立するさくらをちょいちょい構ってはからかっていたチャラい金髪の倉橋。さくらが倉橋に想いを告げるその現場を目の当たりにしたまことは思わずふたりの邪魔をしてしまうが、それに激怒したさくらがまことを拒絶すると彼女はそのままかき消えるようにいなくなってしまった。

『青春のアフター』第1巻p.31

 それから16年の歳月が流れる。かつてさくらと遊んだゲームの続編でキャラデザを務めるまでになっていたまことは、仕事先からはキンパツくんと呼ばれ親しまれ、ゲーマーで眼鏡っ子の彼女・みい子と同棲を始めるなど公私ともに充実した生活を送っていた。

『青春のアフター』第1巻p.50

 その同棲2日目、さくらが消えてからちょうど16年目のその日。みい子とともにさくらが消えた場所を訪れたまことは思いがけずさくらと再会する。消えたときと同様に突然目の前に現れ、16年前と同じままの姿をしたたさくらと。

 というのが第2話までの話。こちらから見ると昔好きだった女の子が好きだった頃と同じ姿で現れる、しかもこちらは当時その子が好きだった男の真似っこのような頭をしている。もうそれだけで小っ恥ずかしいというか痛々しいというか、合わせる顔がないというか「いっそ殺してー!」と叫びたくなるというか。そんな後ろ向きの感情を抱きそうな気もするが、そこはさくらに強く執心していたまことのこと、タイムスリップというSFじみた状況を即座に理解した彼はさくらを受け入れようとする。
 しかし、まことはみい子と同棲を始めたばかりであり、さくらは見かけ上まこととは16歳も年下の女子高生である。それがまこととさくらとみい子に何をもたらすのか。まことは綺羅星のように輝かしい青春の1ページを刻んでくれたさくらをどうするのか。さくらはかつて(さくらからすればごく最近の出来事だけれど)遊び相手になり、自分を好いたまこととどうありたいのか。みい子はそんなふたりに対してどう思っているのか。まこととさくらとみい子、三者三様の感情と思惑が交錯する。それが面白くないはずがなく、切なくないはずがない。

 ただひとり青春の時間に留まったままのさくら。それはまことにとっては青春そのものであり、また今となっては青春の残滓でもある。だが夢でも幻でもなくまことの前にいるさくらは本来あり得ない時間の重ね合わせを体現した存在だ。いつかのあのときの出来事を甘酸っぱい、あるいはほろ苦いと思えるのはそれが既に終わった関係、過ぎ去った時間だから。過去に執着し、過去の想いに囚われていたまことはある意味その望みを果たしたと言えるのかもしれないが、望み切れなかった望みが叶うことほどやっかいなことはないものだとまことを見ていると思う。はたしてまことはどうするのか。さくらはどうなるのか。みい子はどうしたいのか。物語の続きが気になって仕方がない。

『青春のアフター』第1巻p.9

 しかし、意中の女の子と体育の授業でイチャイチャしたり一緒にゲームしたりするようなバラ色生活を一度でも経験してしまったら、もう元のぼっち生活には戻れないし、まことがさくらに未練たらたらになったのもわかる気がする。というか、高校生時代にそういう経験をしただけでもぶっちゃけ羨ましい。できることなら代わってくれ。

【出典】
・緑のルーペ 『青春のアフター』第1巻、双葉社<アクションコミックス>、2015/8/10発行
青春のアフター / 緑のルーペ - ニコニコ静画→試し読み
青人草の日曜日→作者のサイト

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