仕方ないしーなメモ

　『花はニセモノ』は男性同性愛カップルが初詣で「ずっと一緒にいられたら」と願ったところ、勘違いした神様がカップルの片方を女の子にしてしまったことから始まる物語だ。一方が女になってしまったことによる戸惑い。相手が男だからこそ好きになったのに、女になったら好きではなくなってしまうのではないかという不安。それらがとても丁寧に、見事にあぶり出されている。性別が変わったことを知っているのは当事者たちだけで周囲の人間は記憶が改竄されているというご都合主義を始めとしてコミカル色の強い前半と、徐々にふたりの内面へと迫ることでシリアス基調になってゆく後半の対比もおもしろい。あとがきに「よく見かける「朝起きたら女になってた」を私も書いてみようとおもって書きました」（p.125）とあるが、その着想をゲイカップルの恋物語に仕立て上げてしまうところはさすがというほかはない。見た目はBLではないのに確かに男同士の恋愛を描いている本作は不思議な読後感をもたらしてくれるだろう。

　『あなただけ宝石』は作者の十八番である姉弟の禁断の恋を描いた表題作、食べ歩きが趣味のデブと彼が大好きすぎる青年を描いた話、『ひらり、』に掲載された百合5作、そして「姉弟、BLぽいの、百合と来たので、いっそカオスに拍車をかけるため」（p.125）に描かれた兄弟、姉妹、兄妹もの3作と、実にバラエティ豊かな短編集となっている。なにしろBLとGLとNLが揃い踏みしているし、姉弟と兄弟と姉妹と兄妹と「きょうだい」の組み合わせもすべて揃っている。さらにいうと最後の兄妹はどうしてこういう発想ができるのかと思うほど尋常ではない話だ。まったく本当に作者は何と戦っているのか、「普通の」恋愛ものを描いたら負けだとでも言うかのように少し変わった恋の形、愛の形を作者は描く。読者である我々はその術中にはまったら最後、作者の描くマンガの虜になってしまう。仙石寛子のマンガにはそんな一種麻薬のように蠱惑的なおもしろさがあるが、本作は特にそれを濃縮したような不思議な味わいをもたらしてくれる。参考までに、この本の中では水着をダシにベッドの上でいちゃつく自称ふくよかさんと貧乳ちゃんを描いた『夏が終わっても暑い』が好きです。

　2冊はいずれもまさにこれが仙石寛子だ！　的な「っぽさ」を醸し出している。ふつーのラブコメだけでは足りない人、ちょっと変わった恋愛を見たい人、百合好きBL好き近親好きな人には是非とも読んで欲しい。

【出典】
・仙石寛子　『花はニセモノ』　白泉社<楽園コミックス>、2015/8/5発行
・仙石寛子　『あなただけ宝石』　白泉社<楽園コミックス>、2015/8/5発行
・空豆人間→作者のサイト

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