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2015/06/01

青春が加速する。通信制高校に集うさまざまな高校生たちの、恋と友情の物語。 佐々木ミノル『中卒労働者(ワーカー)から始める高校生活』第4巻

『中卒労働者(ワーカー)から始める高校生活』第4巻

 『中卒労働者から始める高校生活』は中卒で工員となり働きながら通信制高校へ通う真実(まこと)と訳あって通信制高校へ通うことになったお嬢様の莉央による恋の話なのだと思っていた。でも4巻を読むと、作者の描きたい物語が決してふたりのことだけではなかったことにいまさらながら気づかされる。このマンガは年齢も生き方も背負うものも異なりながら、たまさかひとつの通信制高校に集ったさまざまな高校生たちの恋と友情の物語だったのだから。

『中卒労働者(ワーカー)から始める高校生活』第4巻p.57

 4巻ではようやく付き合い始めた片桐真実と逢澤莉央の前にひとりの女子大生が立ちはだかる。莉央にとっては真実を巡る恋のライバルとなる人物。真実にとっては中学までの同級生で彼の過去を知る人物。あかりという名の彼女は真実と莉央の恋路で新たなハードルとなる存在である。
 父親の一件が理由で姿を消した真実を4年も追い続け、公認の恋人がいるのを知りながらも真実に執着するあかりはある意味とても一途だ。そしてそれゆえに非常に危うい。4巻で描かれているあかりの怖さはまだ一端に違いない。あかりがこの先何をしでかすか、また同時に真実と莉央があかりをどう変えていくか、楽しみで仕方がない。

 ところで、今までこの物語は通信制高校の生徒という視点から描かれてきた。そこへ登場したあかりは通信制高校の外部から中にいる彼らを見るほぼ初めての人物だ。つまりは多くの読者と同様に通信制高校に対して何らかの想像を抱いている。自分の場合、1巻の感想で書いたように通っていた高校には定時制があったため、昼間の高校で日常を送る者にとっては非日常ともいうべき夜の校舎で日常を過ごす人たちという認識だった。誰かにとっての非日常は他の誰かにとってはいつもの日常。そんな中二病的な視線を向けていたように思う。それが偏見といわれる類いのものであるならば、実際に彼らと対面する機会を持っていたら本作のあかりと同じように接していたかもしれない。
 だからこそ、このマンガの存在意義はとても大きく、あかりが果たす役割はとても大きい。通信制高校という日常を持つ真実や莉央は自分を含む多くの読者にとっての非日常を生きている。そこには小さな子どもを育てながら仕事と学業を両立させるヤンママがいる。そこには友だちとの付き合い方を忘れてやさぐれてしまった年相応の少年がいる。そこには仕事を務め上げて学校へと舞い戻り今まさに二度目の青春を送る76歳のおじいちゃんがいる。そんな彼らが集う校舎は彼らにとってごく普通の日常だ。それを見せてくれる『中卒労働者から始める高校生活』はただのニヤニヤラブコメではない。『中卒労働者から始める高校生活』は年齢や生き方、背負うものを違えながら偶然通信制高校で出会うことになった高校生たちの恋と友情と青春を描いた物語だ。

『中卒労働者(ワーカー)から始める高校生活』第4巻p.36

 や、しかし、まさかブラコン真っ盛りの片桐妹がお兄ちゃん以外にこんなこと言う日が来るなんて。あいつ完全に落ちたな(ニヤニヤと生温かい視線を彼に向けながら)。

【出典】
・佐々木ミノル 『中卒労働者(ワーカー)から始める高校生活』第4巻、日本文芸社<ニチブンコミックス>、2015/6/10発行
中卒労働者から始める高校生活 1 - ニコニコ静画 (電子書籍)→試し読み

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