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2015/05/31

素敵な王子様との出会いを夢見る乙女と王子様の衣装をまとうバレー部のエース。そんなふたりのお姫様の物語はまるで本当のおとぎ話のような百合マンガだったのです。 森永みるく『お姫様のひみつ』

『お姫様のひみつ』

 王子様との出会いを夢見るふつーの女の子と女子校の王子様として同性からの憧れを一身に集めるバレー部エースの女の子。ひょんなことから始まった偽物の恋物語はやがてふたりのシンデレラの物語へと昇華する。まるでおとぎ話のような百合物語。シンデレラや白雪姫を踏まえて描かれた『お姫様のひみつ』はそれ自体一節のおとぎ話のようにメルヘンチックな百合マンガだ。

 母親から王子様との劇的な出会いを吹き込まれて育ち、日々かわいさに磨きをかける西江美羽。ある放課後、トイレの鏡を相手にお色直しをしていた美羽が何かが割れるような物音を聞いて駆けつけると、そこにいたのは砕けた壺を前にしてばつが悪そうに佇む藤原凪(なぎさ)だった。1つ上の先輩であり、バレー部でエースを務める凪は学年を問わず人気を集める王子様。そんな凪から口止めとして何でも言うことを聞くと言われた美羽は、凪にいつか出会う王子様のシミュレーターになって欲しいと頼む。かくして偽の恋人としてみんなが憧れる王子様と付き合い始めた美羽だったが、凪との時間を重ねるうちに凪の王子様のような振る舞いとそれに反した意外な側面の両方に惹かれるようになる――。

『お姫様のひみつ』p.74 美羽の百面相も『お姫様のひみつ』の魅力のひとつ

 最初の方こそ美羽は凪をいつか出会う王子様の代わりとして、凪は美羽を女子校でよくある(らしい)同性の王子様に憧れる女の子たちに対する防波堤として付き合っていた。それがお互いを知ってゆくうちにいつしか本当の恋になる。その始まりがたとえ凪の男子小学生じみた行動が招いた不運だったとしても、ふたりにとってこれほど幸運だった出来事はないに違いない。
 森永みるくという作家はふたりの出会いから想いが通じるまでの過程をとても丁寧に、とても丹念に描くことに特徴があると思う。かの名作『GIRL FRIENDS』では黒髪おかっぱの地味っ子と茶髪ロングのイマドキっ子の恋をなれそめからABCの行き着くところまで5冊に渡って丁寧に丹念に描いていた。本作でもその傾向は変わることがなく、美羽と凪の嘘から始まった恋を丁寧に丹念に描いている。
 もう1つ、「相手は同性なのに」という葛藤が描かれることが多いのも森永みるく作品の特徴だろう。本作では凪に憧れるガチ百合っ子とミーハーっ子を美羽の友だちとして配置し、凪と人気を二分するもうひとりの王子様を凪の部活仲間に据えることで、元々同性を恋愛対象として見ていなかった美羽と凪がお互いをかけがえのない存在として見るようになるまでにどういう複雑な想いを経たかが際立つようになっている。女子校という空気の中で生まれる同性への憧れ。それがファン心理なのか擬似的な恋愛なのか、あるいは本当に恋なのか。その辺りの機微を巧みに物語へと織り込む手腕はもうさすがというほかはない。

 素敵な王子様との出会いを果たすお姫様になりたかった夢見る乙女とみんなが憧れる王子様の衣装をまとうお姫様だったバレー部のエース。ふたりのお姫様が描いた物語はまるでおとぎ話のようで、でも紛れもなく等身大の百合恋話だ。

【出典】
・森永みるく 『お姫様のひみつ』 新書館<ひらり、コミックス>、2015/6/15発行
ミルミルム→作者のブログ

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