仕方ないしーなメモ

　軽空母の鳳翔と後に正規空母となる赤城と加賀。艦娘を半ば引退していた鳳翔は指導艦として赤城と加賀を幼少の頃からそれこそ我が子のように手塩に掛け、一人前の艦娘へと育て上げた。ところがそれからまもなく、提督の無謀な作戦により赤城と加賀がたった2人で戦地へと出撃させられる。訓練が明けたばかりで経験の浅い2人の身の上を案じた鳳翔は提督の命令に背いて2人の援護に向かうが、2人の下へと辿り着いた鳳翔が見たのは深海棲艦に囲まれて窮地に陥った2人の姿だった。我が子を守るため、鳳翔は赤城と加賀に最後の勇姿を見せる――。

　正直なところずるいと思った。繰り返しになるが、「母は強し」という直球のタイトルに表紙と冒頭に描かれた母娘3人の姿は、この先に展開される物語が間違いなく感動を引き起こすものであることを容易に予感させる。そういうのはずるい。だから多少身構えて読む。それなのに。それなのに読んでいる間中、ひとときも涙が止まらない。感動させられるぞ、とわかっている物語なのに、だからこそ簡単には感動させられないぞ、と構えていたはずなのに、いとも容易く心に響いてくる。だがそれは、この物語が単に鳳翔と赤城、加賀の母娘を描いただけの話だからではない。
　提督にロートル呼ばわりされた鳳翔が窮地の赤城と加賀を助けに行くまでを前半では描いているが、それを受けた後半部こそがこの物語の核心となっている。後半部で語られるのは母娘のそれまでとは異なる新しい形。後半部で鎮守府を吹き抜けるのは新しい風。ここではその具体的な内容には触れないが、そこに描かれているのは無理解や横暴がどれだけ愚かで、理解し認め合うことがどれだけ大切であるかということだ。
　たとえ上官に認められずとも己の信じる最善を尽くして赤城と加賀を育て、教え導いた鳳翔。たとえ軍紀に違反しようとも命を尊び、身を挺して未来ある赤城と加賀を助けようとした鳳翔。そんな鳳翔から優しい眼差しを受けて育った赤城と加賀のなんと幸せなことだろう。娘を守るために最後の勇姿を見せた鳳翔の背中を見て育った赤城と加賀のなんと幸せなことだろう。

「いえ、私たちをここまで導いてくださったのは鳳翔さんです」「そぉーです！　鳳翔さんだから私たち頑張ってこれたんです」（p.6）
　いつか鳳翔のように赤城と加賀にも幼い艦娘の面倒を見る日が来るだろう。そのときはきっと赤城と加賀は自分に鳳翔を重ね、鳳翔がくれた教えと愛を思い出すだろう。そしてそれを赤城と加賀は自分の教えと愛として娘たちに受け継いでいくだろう。

　『母は強し』には作者の作品である『曙さんとクソ提督』にあったようなコメディ色はほとんどない。あるのは『曙さん』にあったシリアス部分だけだ。って、そりゃ泣くしかないわ。『母は強し』は描き下ろしの後日談を除いたほぼ全編がpixivで公開されているが、手元に置いていつでも何度でも読み返したい1冊だ。

【出典】
・シノ　『母は強し』　ぽんじゆうす？、2015/5/2発行
・COMIC1☆9　新刊サンプル→本文サンプル
・艦これ漫画「母は強し」→本文そのもの
・ぽんじゆうす？→作者のサイト