休刊した「ひらり、」に代わって「百合姫」から登場! 黒髪メガネっ子な転校生と金髪ヤンキーな一匹狼によるぼっち同士の主従関係が微笑ましい百合コメマンガ くみちょう『愛羅武勇より愛してる』
成績優秀な黒髪メガネっ子の転校生と誰もが恐れる金髪ヤンキーの一匹狼。本来接点のないはずの2人がひょんなことから知り合いになり、やがてお互いに特別な想いを抱くようになる。『愛羅武勇より愛してる』はそんな女子高生2人の恋愛感情? 主従関係? をコミカルに描いた百合マンガだ。
ことあるごとに言っているが、百合ップルはその2人の外見や性格が離れていれば離れているほど見ている方は滾るものである。お互いにないものを求めるのが百合ップルの基本。それは地味っ子とイマドキ娘だったり、おかっぱのこけし娘と金髪のちっこい留学生だったり、ねこ耳アイドルとロック風アイドルだったりする。「絶対こいつら合わねーよ!」と思うぐらい違っていた方が実際に百合ップルになったときの高揚感がぱないのだ。特に某アイドルアニメに登場したねこ耳アイドルとロック風アイドルの組み合わせは原作ゲームからのファンにも予想外だったようで、11話の放映時期を境にして世界は2人がイチャイチャするイラストやマンガで包まれた(大げさ)。しかも公式は公式で2人の曲を収めたCDに、ケンカップルの解散芸という形で2人のイチャイチャっぷりをラジオの電波で全国に流す話をボーナストラックとしてぶっ込んでくるからたちが悪い(褒め言葉)。おい何が味噌汁作りに行ってあげるだよ! 通い妻か! イチャイチャっぷりを見せつけた責任取ってみくりーなの薄い本ください!
話が逸れた。このように百合ップルはその2人がかけ離れていればかけ離れているほど滾るのである。
『愛羅武勇より愛してる』に登場する理沙とかずみの2人も外見から性格までおよそ一致するところがないほどかけ離れている。
1人は黒髪メガネっ子の理沙。関東から関西へ転校してきた理沙は学年トップの座を奪取、そこそこのルックスにメガネの効果もあって男子からの羨望を集める存在となった。だが、それが原因で過激派の女子集団に目を付けられることになり、他人に拘らない性格も相まって理沙は見事なぼっち生活を送ることになる。性格は至ってマイペースで押しが強い。そして無自覚でモテ仕草を発揮する能力の持ち主でもある。
もう1人は金髪ヤンキーのかずみ。巷でも有名な不良のかずみは相手が先輩だろうが他校だろうが男だろうが集団だろうが売られた喧嘩は買わずにはいられない。クラスメイトからは恐れられ近寄られず、一匹狼なので仲間もいない。性格は凶暴だが弱い者イジメは見過ごせない。そして留年しそうになると勉強しようとするなど変に真面目なところがある。
そんな2人が出会い、惹かれ合う。それが滾らないはずがない。
それにしても、始めは一匹狼を気取っていたかずみがマイペースで天然タラシの理沙に首輪をはめられ、なす術もなく飼い慣らされていく様子は本当に微笑ましい。最初に過激派に絡まれている理沙を助けたのはかずみの方なのに、理沙に勉強を見てもらうことで気を許したばかりにかずみはどんどん理沙のペースに巻き込まれてゆく。対する理沙は理沙で自分に懐くかずみを見て「一匹狼もしょせんはただの犬科じゃん」(p.19)と早々に看過し、自らの気持ちに気づいてからは過剰なスキンシップと言葉責めでかずみが理沙なしではいられないように仕向ける。まったく理沙に言い寄られてたじたじになっているかずみは不良にあるまじきかわいさを発揮するし、かずみを懐柔してものにしようとする理沙はまさに小悪魔という言葉がぴったりだ。そうして2人のやりとりをニヤニヤと眺めているうちにいつの間にか物語に深く引き込まれてしまう。理沙がかずみを引き込むのと歩調を合わせるように物語が読む者を引き込んでゆくのはひとえに作者の力量がなせる業だろう。
このマンガは元々新書館が刊行していた百合アンソロジー「ひらり、」で連載されていた。「ひらり、」は2014年7月に惜しまれながらも休刊となったが、今回一迅社から百合姫レーベルの単行本として世に出たことは望外の喜びだ。しかも本書には同じく新書館から刊行された「ほうかご! vol.2」所収の幼なじみ的ガールフードマンガ「お腹をすかせて帰ってくるね」と理沙とかずみの描き下ろし後日談も収録されており、「ひらり、」で理沙とかずみの物語に浸った読者にも嬉しい仕様となっている。
『愛羅武勇より愛してる』は「ひらり、」で読んだ人もそうでない人も、黒髪メガネっ子と金髪ヤンキーというか転校生と一匹狼というか飼い主とわんこのような百合ップル好きなら手元に置いておきたい1冊だ。
【出典】
・くみちょう 『愛羅武勇より愛してる』 一迅社<IDコミックス 百合姫コミックス>、2015/5/1発行
・ニコニコ百合姫2015年6月号→第1話を試し読みできる。
・組長BOX→作者のサイト
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