ほむらが望んだまどかの姿がここに。『魔法少女まどか☆マギカ』の世界のどこかにきっとあるまどかの幸せな日常。 みさちゅう/Nash『かなめけ』第1巻
『かなめけ』は『魔法少女まどか☆マギカ』の主人公である鹿目まどかが家族やクラスメイトと過ごすゆるい日常を描いたまどマギスピンオフ4コママンガである。原作まどマギでほむらが望んでいたのはきっとこういうまどかの幸せな日常だったんだよ!
『かなめけ』は文字どおりまどかが鹿目家の3人、大黒柱のママ、専業主夫のパパ、弟のタツヤと過ごす場面の多いことが特徴だ。まどかとクラスメイトのほむらとさやかも学校やクリスマス会などのイベントで登場する機会が多い。ただ、同じクラスメイトでも仁美はカバーイラストにいなかったり鹿目家でのクリスマス会にいなかったり、巻頭のキャラ紹介では後ろ姿でしかも見切れていたりと、結構扱いが雑、もといお稽古事に忙しいためか出番が限られている。逆に同じ中学校に通ってはいても杏子(クラスかグループが違う?)とマミ(そもそも学年が違う)の出番は少なく、中盤から登場した上にマミと同居している設定のなぎさはさらに少ない(セルフツッコミあり)。これは何を意味しているのか。
作中ではほむら、さやか、杏子、マミは魔法少女であることが明かされているが、一方でまどかは魔法少女ではなく、ほむらやさやかの言動からまどかには魔法少女の存在自体が隠されていることが示唆されている。一方で魔法少女はいても魔女や魔獣、ナイトメアなどの魔法少女に敵対する存在は登場しない。また、ほむらはおさげにメガネのいわゆる「メガほむ」であり、まどかを「鹿目さん」と呼ぶ。
これらから導かれるのは『かなめけ』の世界はほむらが繰り返した時間軸のどこにも存在しないということだ。原作まどマギではほむらが時間遡行をして同じ1ヶ月間を繰り返しているが、まどかを魔法少女から遠ざけようとしたのは気弱なメガほむではなく覚醒後(?)のほむらだった。また、まどかだけが魔法少女でないというと『叛逆の物語』のエピローグが思い出されるが、ほむらがデビほむではなくメガほむの姿をしていることと矛盾する。『かなめけ』で描かれるまどかの日々はそれこそ『叛逆の物語』でマミが「これって昔の私が夢に見ていた毎日なのかもね」と言っていたように誰かが夢に見た毎日なのかもしれない。もし誰かの夢だというのであれば、まどかが魔法少女を通じて出会ったマミや杏子が『かなめけ』では比較的縁が薄いことがヒントになるのだと思う。
という詮索が無粋に感じられるぐらい理想の幸せなまどかが『かなめけ』には描かれている。原作まどマギのOPや序盤で見られたようなまどかのなんてことのない日常、『叛逆の物語』のエピローグで描かれたようなまどかの明るく幸せな日常。誰も傷つくことがなく誰も不幸な目に遭わないまどマギの世界。視聴者の誰もが望んでいながら原作では描かれることのないまどマギの世界。それがずっと続くとしたらどれだけ幸福なことだろう。
『かなめけ』の世界はほむら、またはまどか自身、あるいは視聴者が夢に見ている毎日なのかもしれない。それでもそれが夢だったとわかるまではその夢の世界に興じていたい。どういう形にしても『かなめけ』の世界はまどマギの世界のどこかに今確かに存在しているのだから。『かなめけ』を象徴するような、劇場版まどマギの「ルミナス」で描かれたまどかの成長記録を思い出させる単行本描き下ろしの導入ページは連載の読者も必見だ。
ところで、作者2人は同人サークル「ライジングホース」でまどマギ二次創作を描いている。中でも『もぶ☆マギカ』シリーズはまどマギのモブキャラに焦点を当てているが、『かなめけ』にもそんなモブキャラたちが台詞付きで登場していて作者の同人誌を知っている読者には嬉しい仕掛けとなっている。
【出典】
・みさちゅう/Nash 『かなめけ』第1巻、芳文社<まんがタイムKRコミックス>、2015/3/14発行
・ライジングホース -Rising Horse-→作者のサイト。
【関連記事】
・もぶキャラでも主役に立てるとしたら、それはとっても嬉しいなって、思ってしまうのでした。ライジングホース『もぶ☆マギカ』シリーズ(魔法少女まどか☆マギカ二次創作)
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