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2014/12/31

好きなマンガやアニメが終わっちゃった? 元気ないわねー、そんなんじゃ駄目よ! 二次創作があるじゃない! 二次創作を愛するすべての人に声援を送る同人のための同人誌、Circles' Square『CIRCLES' vol.3』

『CIRCLES' vol.3』

 15年間読み続けてたマンガが完結しちゃった? 心ぴょんぴょんしながら毎週見てたアニメが終わっちゃった? 元気ないわねー、そんなんじゃ駄目よ! 二次創作があるじゃない!

 同人を愛する人には同人をもっと好きになるために。これから同人の世界に飛び込もうとする人にはその背中をそっと押すために。サークル「Circles' Square」の同人誌は同人をもっと楽しむ術を広く遍く伝達する、言わば伝道師のような存在である。その活動は同人そのものに切り込むだけでなく、時に修羅場におけるごはんの面倒を見て、時に世界初となる同人コンテの提案まで行うなど、今や非常に幅広いものとなっている。
 そのサークルのC87新刊がこの『CIRCLES' vol.3』だ。テーマに「二次創作を前向きに話そう」とあるとおり同人の中でも二次創作同人に焦点を当て、読み手、作り手、そして同人を大々的に扱う本屋である「コミックとらのあな」の書店員の三者から二次創作を大いに語った一冊である。

『CIRCLES' vol.3』目次

 この本について、ここで言えることはあまりない。この本には普段自分が感じていること、二次創作を嗜む人の多くが考えていることがこれでもかと詰め込まれていて、その上思いも寄らなかったようなことまで披露されている。読者である自分にできることは同人誌の読み手たちの座談会で出た意見に快哉を叫び、作り手や書店員の熱い想いに唸らされ、提起される問題にしばし頭を悩ませるだけだ。特にいつもお世話になっているわりに話す機会のあまりない書店員へのインタビューでは、彼らが「中の人」として二次創作同人に向ける真摯な眼差しを知り、独自の文化とルールを持つ同人イベントにハードルの高さを感じる人への窓口、言わば伝道師(※)たらんとする姿勢を知るにつけ、思わず目頭が熱くなった(親指立てて溶鉱炉に沈みながら)。※「Circles' Square」が作り手=内側から生じて外側へ向かったのとは逆にとらは外側から内側への流れを作ろうとしている。その動きは真逆でありながら目指す方向は同じという意味で両者ともに伝道師という喩え方をした。ところで、とらは自身で店舗を構えるだけでなく、一般書店に同人頒布の出張所を作るなど、その伝道師っぷりには頭が下がる。
 なので、ここでは二次創作にまだ手を出したことがない人に向け、『CIRCLES' vol.3』には多分なかったこの一言だけを言うに留める。
 「二次創作同人、買わずに後悔するなら買って後悔しよう」
 念のため、「買って後悔」の後悔には自分が思ったような展開ではなかったという負の後悔も少なからずあるけれど、多くの場合はまたこんなに沢山買い込んでしまって置くところがないよーという嬉しい悲鳴を挙げる方の後悔であることを付け加えておく。

【出典】
・シアン、かつゆー 『CIRCLES' vol.3』 Circles' Square、2014/3/16発行
CIRCLES' vol.3 : Circles' Square <<サークルズスクエア>>→『CIRCLES' vol.3』紹介ページ
Circles' Square <<サークルズスクエア>>→サークル「Circles' Square」のサイト

【関連記事】
夏といえば白いワンピースと麦わら帽子の女の子だよね!(現実逃避) Circles' Square『修羅場より愛を込めて』
わたしのはじめて、教えます…! うれしはずかし黒歴史? 温故知新にあふれるあの同人サークルの今昔物語。 Circles' Square『処女作、集めました。』(処女作本)
同人活動の修羅場に、仕事の修羅場に、俺の彼女と幼なじみの修羅場に、心ぴょんぴょんするごはんのレシピ集! と、思いきや。 Circles' Square『ご注文は修羅飯ですか?』(ごち修羅)




 以下はわりとどうでもいい「私と二次創作」について。

 コミケに初めて行ったのは今を遡ること十何年前のことだった。それ以来毎回のように行っていたが、そのときは主にオリジナルの同人誌ばかりを読み漁り、二次創作同人には手を出さなかった。その理由は今となってはもう思い出せないが、大方オリジナルこそ同人誌の醍醐味だと思い込んでいたか、二次創作のスペースはいつ見ても混雑していて二の足を踏んでいたかのどちらかだと思われる。その後、2000年代半ば頃に一時期コミケに行かなくなった。これも大した理由はないと思うが、好きなマンガを描いていたサークルが活動を停止したとか、会場まで行かなくても同人誌を買える環境が揃ってきたとかといったことが原因ではないかと思われる。
 それなのに一昨年の夏、彼の地に舞い戻ってしまった。それには「まどマギ」や「なつまち」などでアニメを見るようになったことと2011年の暮れにtwitterを始めたことが大きく関係している。

 前者について言えば、『CIRCLES' vol.3』で二次創作のよいところとして書かれているように、「まどマギ」や「なつまち」のifを見たかったからというのがその動機である。
 「まどマギ」は『叛逆の物語』が公開された今でこそ公式が二次創作の斜め上を行ってしまった感があるが、TV版しかなかった当時はおそらく多くの人がそうであったようにまどかとほむらが離れ離れになった結末を受け入れつつも納得できずにいた。そこでネットで検索したり情報系ブログなどの記事を頼りにまどかとほむらのifを探すことになる。するどどうだろう、そこにはまどかとほむらが幸せそうにしている世界があった(出典(1)(2)(3))。まどほむがゆりんゆりんしている世界があった。ついでにマミさんが30歳になっている世界もあった(ついで?)。『CIRCLES' vol.3』に「触手に世界を広げてもらった」(p.13)という名言があるが、まさにまどほむが世界を広げた。『まどか☆マギカ』という物語は完結し、まどかとほむらが再び出会うことはない(当時は)。だが、二次創作の世界ではまどかとほむらは笑い合っている。いちゃいちゃしている。そういう世界がいつまでも続く。これを至福と言わずに何と言おう。
 そういう訳で、まどほむ百合をもっと見たいという欲望が自分を彼の地に駆り立てている。まどほむください。
 とは言え、TV版完結から4年近くが経とうとし、『叛逆』から1年が過ぎた最近はまどほむを前面に押し出したサークルが少なくなってきたことも事実だ。特定の作品が二次創作のジャンルとして成熟し、やがて少しずつ下火になっていくのは致し方ないこととは言え、一抹の寂しさを禁じ得ない。けれども、オリジナルの同人が作者が商業で忙しくなった(それはそれで大変喜ばしい)、本業に専念することになったなどでサークル活動の停止が即新作を読めなくなることを意味するのと比べ、二次創作はその同人を出し続けるサークルがいる限り新作を読み続けられるという特徴がある。本当になくなったらそのときは自分がやればいいじゃない、という最終手段がないこともない。そういう意味で二次創作同人は非常に息が長く、10年後でも20年後でもその作品を好きな人がいる限りいつまでも生き続ける。俺たちのまどほむはまだ始まったばかりだ!
 なお、「なつまち」は青い子が報われる世界を見たかっただけ。幼なじみ原理主義なもので。

 後者については今さらSNSの効用を言うまでもないと思う。自ら探さなくても好みの情報を受動的に得られることが、ネットの普及前やネットが普及しても能動的に探さなければならなかった少し前と比較してどれだけ二次創作へのハードルを下げたか計り知れない。ここではその一例として「艦これ」を挙げる。
 去年2013年の半ば頃からtwitterのTLで提督を名乗るアカウントがちらほらと見受けられるようになった。その数は少しずつ増え、夏を迎える頃にはかなりの数になっていたと思う。その中に艦これに登場する艦娘たちの史実を描いた同人誌を作った同人作家提督がいた(出典(4))。当時の自分は特に旧日本海軍の戦艦に興味はなかったが、その提督があまりに楽しそうに艦これをプレイしていたこととギャグや百合といったマンガではなく史実の面から艦娘に迫る同人誌を作ったことに興味を覚え、その夏の間に提督としての着任を済ませ、その同人誌を買って読んだ。そういう意味では艦これを始めたきっかけは二次創作である。
 だが、その後艦これのゲーム自体はほとんどプレイしていない。公式が関わる本やグッズにもほとんど手を出さず、ただ二次創作の薄い本ばかりをどんどん増やしている。いわゆるこれがデータベース消費というものなのだろう、大きな物語にはあまり触れず、「電ちゃんマジ天使!」「鈴熊ktkr!!」「クソ提督の私めをもっと罵ってください!」と萌え要素や萌えシチュを楽しんでいる(この辺りの話は『CIRCLES' vol.3』でも取り上げられている)。
 そして今年は別の提督を通じて海上自衛隊のイベントに2回(カレーサマー)行き、入間の航空祭にも行った。艦これを知らなかった頃であれば「そんなものにはきょうみがありません」と一蹴していてもおかしくなく、まさに艦これの二次創作が次元を超えて影響を与えたと言っても過言ではないだろう。海自空自のイベントに連れ出してくれた提督には感謝の念しかない。また連れていってください。

 ということで、(元々同人イベントへは行ったことがあるとは言え)「まどマギ」と「なつまち」がきっかけとなって二次創作の世界に入り、SNSを経由して艦これの二次創作からその原作へ、さらにそのルーツへと至ることとなった。紛れもなく二次創作が世界を広げたと言っていい。
 二次創作は原作を楽しむ上では特に必要なものではなく、それがないと生きていけないというものでもない。だが、二次創作だからこそ知ることのできるものがあり、触れられるものがある。二次創作を嗜んだからこそ知り合える人がいて、行ける場所がある。二次創作に初めて触れようとするとき、二次創作を改めて理解しようとするとき、『CIRCLES' vol.3』は確かな道標となってくれることだろう。この本は「二次創作の(明るい)未来は『自分』たちこそが切り開く」(p.37)という言葉で結ばれているが、換言すれば二次創作は自分たちのあり得た未来、あり得る人生、ifの世界を作るものだ。そうだ! 俺がっ……! 俺達が二次創作だ!!

【出典】
(1)ナナセミオリ、コキリン 『みえないココロ ひとつのココロ』 山猫BOX、2013/12/29発行→サンプル感想。新鮮なまどほむを安定して供給してくれるサークルの1つ。
(2)まいたけ 『デビカノ』 きのこなべ避難所、2013/12/29発行→サンプル感想。新鮮なまどほむを安定して供給してくれるサークルの1つ。
(3)たまつー 『きらきら(キラキラ)』 福屋、2013/12/31発行→サンプル感想。新鮮なまどほむを安定して供給してくれるサークルの1つ。
(4)文・おおたいさお、絵・たこみや 『うんちくかんこれ 1』 ナノハチ、2013/8/12発行→サンプル感想。艦これ二次創作にはまったきっかけとも言える同人誌。

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