エイリアンの襲撃から秋葉原を守るのは人々のときめきを胸に歌と踊りで戦うメイドたち! くみちょうBOX『アキバのときめきが世界を救う!』
2026年、6年前に突然現れたエイリアンの侵略により世界は少しずつ滅びへと向かっていた。その中にあって秋葉原はエイリアンの襲来を受けながらも数少ない「安全な街」として生き残った人々を引き寄せている。人々のときめきを一身に集めてライブする(ルビは「たたかう」)4人のメイドアイドルに守られながら。
『アキバのときめきが世界を救う!』は幼い娘を連れて秋葉原へ避難してきた男の視点から「アキバ」を守るメイド喫茶の乙女(?)たちと男の再起を描いた近未来SF風コメディである。
滅びの美学とよく言われるように廃墟や廃工場、廃線路、廃止された遊園地などには一定の需要があるらしい。ただそれは多くの場合経年劣化して使われなくなった後の姿であり、意図的に破壊されたり、また現役で使われていたりするものではない。その意味において、『アキバのときめきが世界を救う!』の舞台となっている2026年の秋葉原は度重なるエイリアンの攻撃により崩れてはいるが、廃墟ではなく人々の生活が息づく生きた街である。
かつて電気街として名を馳せ、萌えのメッカとしてオタクたちを魅了したアキバ。そこにはライブで戦うメイドたちが詰めるメイド喫茶「ですとろ☆女学院」があり、フィギュアのショーケースを並べるショップがあり、電子部品や工具などを売る昔ながらの電気街の姿を留めた店がある。アキバで暮らす人々は美少女フィギュアのパンツが何色かを確かめ、極上のBL同人誌を求めて本棚を漁り、街頭テレビならぬ街頭パソコンで萌えアニメを視聴する。彼ら・彼女らはなぜ世界が崩壊しつつある今もそれ以前と同じような生活を続けるのか。
世界のどこかで今日も戦う人がいる。世界のどこかで今日も誰かがエイリアンの犠牲になる。今日隣にいた人が明日死ぬかもしれないし、自分が昨日を生き延びて今日を迎えたのはただ運がよかっただけかもしれない。そんな死と背中合わせの日々は今やその世界に生きる人々にとっては日常だ。人が毎日死に続ける中、辛気くさい顔をしていればいいのか。ひっそりと死んだように生きていればいいのか。崩壊したアキバの街をステージにライブを披露してエイリアンと戦うメイドたちの望みはそうではない。
このマンガの主人公はメイドではない。主人公はそれまで父娘2人で暮らしていた岡山を離れ、安全だと言われる秋葉原へやって来た男である。彼は岡山で絶望の淵に立たされ、娘の美花と2人で秋葉原へと流れ着いたが、早々にエイリアンに襲われたところをメイドの1人であるシンに助けられる。諦念に追われ藁にもすがる思いでアキバを訪ねた男は、メイドらしからぬ蓮っ葉な言動のシンにアキバの現実を見せられて最初は戸惑うも、それまで表情に乏しかった美花が徐々に感情を見せるようになる姿を目の当たりにして考えを改めてゆく。「この時代戦わなきゃ生き残れない」「だからこそときめきがいるんだ/どうせなら楽しまなきゃ損だろ?」(p.24)というシンの言葉は死が日常的にある世界においてアキバで生きる覚悟を決めているからこそ出たものだろう。それがときめきを忘れ、たまたま死ななかったから生きていた男にとって、どれだけ輝いてどれだけときめく言葉であったか。物語の外の絶対安全な領域にいる自分には想像すらも及ばない。
エイリアンのどこかユーモラスな外見と人々にときめくことを求めるメイドたちの言動も相まってコメディ面が強調されているが、物語のテーマは実に重く、また示唆に富んでいる。それはあれから3年が経った2014年の今だからこそ余計にそう感じるのかもしれない。
幸いにして秋葉原は電気街として、萌えのメッカとして今もあり続ける。だが、現実が物語に浸食されたとき、秋葉原に集う人々は果たして笑顔を保ち続けることができるだろうか。そんなおよそ非現実的とも言える問いに対して、まったく何の根拠もないけれど自分ならこう答える。どんなことがあってもアキバはときめきを集め続ける。どんな姿になってもアキバはそこに生きる人々の笑顔で彩られ続ける。『アキバのときめきが世界を救う!』はそう強く思わせる物語だ。
【出典】
・くみちょう 『アキバのときめきが世界を救う!』 くみちょうBOX、2014/11/23発行
・組長BOX→作者のサイト
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