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2014/11/27

男女2人の恋の始まりから女子高生の百合に幽霊譚まで、特別な2人の特別な関係に彩られた珠玉の短編集 ハルミチヒロ『夜をとめないで』

『夜をとめないで』

 行きずりの男女、あるいは会社の先輩と後輩、その2人の間に芽生えたもの。お互いに想っているのに一歩を踏み出せない2人の女子高生。大学生の彼女の下に現れた幽霊の彼氏。『夜をとめないで』はそんな特別な2人による唯一無二の特別な関係を描いた短編集である。

 時に淫靡な空気を纏い、時に爽やかな空気を醸し出す。絶望から始まって清々しく終わる話もあれば、鬱々と始まりもやもやとしたまま終わる話もある。この短編集に収められた6つの物語は主人公の年齢や背景も話の毛色も異なり、女子高生の同性愛や幽霊が出てくる話があるなど多彩な色に満ちている。あえて共通点を挙げるとすれば、いずれも特定の2人に焦点を当てた話であること、登場する女の子が軒並みかわいいこと、そしてどの話も30ページ前後の短編でありながら強い余韻を残すことだろう。
 以下では特に印象の深かった2編について言及したい。

 表題作である『夜をとめないで』は出張先の地方支社に転勤になったサラリーマン・塩田が、付き合っていた彼氏に振られて感傷旅行へやって来た女の子・夕夏に頼まれて温泉宿で一夜を共にする話だ。意に反して飛ばされることになり半ば自棄になっている塩田と体に傷をこさえてどこか厭世的になっている夕夏。2人の出会いとその後のあれやナニやは傍目から見ると傷の舐め合いなのかもしれない。ただ、たった一夜と言えどもお互いの弱さをさらけ出しお互いの優しさを見せ合う。それは2人にとってはかけがえのない時間となったに違いない。なお、自分はこの話をきっかけにして作者が「楽園」で描くマンガの虜になった。

 『シャンプーリンスコンディショナー』は男のロマン、女の子のシャンプーの匂いにまつわる話である。長い髪の女性からほのかに香るシャンプーの匂い。あれ何でいい匂いがするんですかね? とは世の男子が常々疑問に思っていることだろう。だって三十路の男が真似したところで数時間後にはカレー臭しか漂わなくなるからね。おいこらやめろ。
 閑話休題。この話は彼女の浮気が原因で振られたばかりの男・佐々木が、元彼女と同じシャンプーを使っている会社の後輩・あやに酔っ払って抱きついたことから始まる。あやが元彼女と同じ匂いをしていたために勘違いした佐々木と、佐々木が元彼女とあやを混同したことがおもしろくないあや。佐々木が元彼女の匂いを克服できるようにあやは自分が使っているシャンプーを佐々木に贈るが、38歳という妙齢にして元彼女と間男との浮気現場を目の当たりにしてしまった佐々木はウジウジと煮え切らない。そんな佐々木にあやはどういう行動に出たか。

『夜をとめないで』p.128より佐々木をビンタするあや

 とにかくこのマンガは佐々木に対するあやのストレートな愛情表現がいい。あるときはビンタを張り、あるときはシャンプーをプレゼントし、あるときは最近流行りの壁ドンで攻める。正直なところ佐々木のどこがいいのだろうとは思うけれど、きっと描かれていないところであやにとってのスキスキポイントが佐々木にはあるのだろう。泣いたり笑ったり怒ったりとまるでボールのように佐々木へ感情を投げつけるあやと、後ろ向きながらもなんだかんだでその好意を受け止める(受け止めさせられる?)佐々木。2人の掛け合いは本当に素晴らしく、またオチで予想外にくすりとさせられるところもいい。何かもう上手くは言えないけれど、この話大好き。自分もあやちゃんに壁ドンされたい♥

『夜をとめないで』p.144より佐々木を壁ドンするあや

 と、ここまで書いてもう1つ共通点があったことに気づく。いずれの話においても少女/女が芯の通った強さを持っていることだ。確かに話によっては彼女たちは傷ついていたり凹まされたり悩んだりしている。だが、どの彼女も自分と向き合い相手と向き合い、自分の足で大地を歩いている。そんな彼女たちを描いたマンガがおもしろくないわけがない。
 偶然出会った男女、元々見知った仲の男女、本心を知ることが怖くて一線を越えられない百合ップル予備軍、今生の別れを乗り越えて再び巡り合った彼氏彼女。まさに珠玉という言葉が相応しい物語がこの短編集には詰まっている。2人のその後を知りたいと望んでいた『夜をとめないで』を含む描き下ろしの後日談も2編あり、「楽園」本誌で読んだ人も買って損はない。むしろマストバイ。

【出典】
・ハルミチヒロ 『夜をとめないで』 白泉社<楽園コミックス>、2014/12/3発行
Harumichihiro INFO→作者のブログ

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