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2014/11/05

「大切な事はいっつもマンガが教えてくれるんよ」という言葉に僕らは快哉を叫ぶ――すべてのマンガ好きに読んで欲しい1冊 緒方てい『ラフダイヤモンド まんが学校にようこそ』第1巻

『ラフダイヤモンド まんが学校にようこそ』第1巻

 ラフダイヤモンドとはダイヤモンドの原石のこと。『ラフダイヤモンド まんが学校にようこそ』は講師役となる現役高校生マンガ家と幽霊マンガ家、そして文字どおりマンガ家を目指す若者たちの、愛と勇気と希望で彩られ友情と努力と勝利に満ちた日々(多分)を描くマンガ家マンガである。

 高校生マンガ家・高槻勇斗は初連載を終えて1つの決心をする。普通の高校生に戻って高校生らしい青春を謳歌する、と。ところがその矢先、同業の泉大津しおんに修羅場の助っ人を頼まれたことから勇斗は即座にマンガの世界へ戻ることになる。そしてそのことが、いつからか自宅の「まんがべや」に居着いていた80年代の幽霊マンガ家・天王寺あきらとの出会いと、修羅場の縁で声がかかった専門学校のマンガ学科講師としてマンガ家を目指す若者たちとともに送る青春を招くことになる――。

 『ラフダイヤモンド~』を一読して感じたことはマンガを描くことについての豆知識が豊富で、パロディネタや小ネタが多く、お約束と言ってもいいレベルで設定や伏線(というよりフラグ)がわかりやすいことだった。それらがこのマンガをとてもおもしろいものにしている。
 最初についてもう少し詳しく言うと。自分はマンガ家という仕事やマンガを描くことについては完全に門外漢であるため、その方法やかける苦労、得られる喜びについては想像することさえできない。このマンガはマンガ家マンガなのでマンガ家やマンガ描きについての詳細な描写があることは当たり前と言えば当たり前だ。だが、お好み焼きにたとえてマンガの描き方を説明するくだりには素人にもわかりやすく、勇斗が泉大津の修羅場で寝落ちした泉大津の代わりに現場の采配を振るところなどはマンガ制作だけでなくあらゆるチーム作業に当てはめることができるだろう。他にもカケアミの描き方の講義や4限目(第4話)で勇斗が生徒たちに見せたマンガ家をすることに対する覚悟など、マンガ家を目指していなくても見聞きしてみたくなるような魅力と情熱を秘めている(それもそのはず、作者はアミューズメントメディア総合学院マンガ学科で講師をされている)。そして、これらからは作者がマンガとマンガを描くことに対して真摯に取り組んできたであろうことが窺え、同業でなくとも頭の下がる思いがする。そんなマンガがおもしろくないわけがない。
 また、ここぞと言うときに使われる主にジャンプ作品からのパロディやマンガ学科の教室が801号室だったりする小ネタには元ネタを知っている者にとっては思わず膝を打ちたくなるし、フラグ立てすぎの勇斗にはフラグとはわかっていても回収することを期待し、マンガのような性格をしている勇斗のツンデレ妹にはテンプレとわかっていても勇斗とのその先を切望してしまう。そして、これらからは『ラフダイヤモンド~』はある意味それ自体マンガの描き方の教科書になっているのだろうと思わせる。そんなマンガがおもしろくないわけがない。

 マンガとは人生において「とてもちっぽけであってもなくてもいいもん」(p.90)である。ただ、自分自身生まれてからこの方いくつものマンガを読んできてマンガが単なる娯楽でも無益でないものであることを知っている。マンガを読むことで何人もの彼女と付き合ってきたしあの子とゆりんゆりんな関係にもなったし、医者にもマンガ家にもなったし、宇宙の果てに冒険したし剣と魔法のファンタジー世界にも召喚された(あくまで一般論です)。マンガは1回限りの人生では得られないような多くの成長と現世だけでは得られないような多様な経験をその絵とセリフでもたらしてくれる。『星の王子さま』(サン=テグジュペリ)の中で王子は「ぼく」に「大切なものは目に見えない」と言ったが、『ラフダイヤモンド~』の中で幽霊マンガ家は悩める高校生マンガ家に「大切な事はいっつもマンガが教えてくれるんよ」(p.92)と言ってその背中を押した。なぜ幽霊になったか、素性がわからず得体の知れない幽霊マンガ家ではあるけれど、あきらのその行為と言葉には快哉を叫ばずにはいられない。前述のとおり自分は門外漢ではあることを承知で言うが、マンガ家の人もそうでない人も、マンガを愛するすべての人に読んで欲しい1冊である。

 それにしても家に「まんがべや」があるとは羨ましい。勇斗のツンデレ妹は「どの雑誌でどの年代に掲載されているかきっちり分類している」(p.39)という重度のマンガマニアとのことだけれど、自分は軽度のマンガマニアなので本棚を作者名でソートすることはずいぶん昔に諦めた。だって買ってきた本を後から後から隙間に詰め込むうちにいつの間にかバラバラになっているんだもの。

【出典】
・緒方てい 『ラフダイヤモンドまんが学校にようこそ』第1巻、集英社<ジャンプコミックス>、2014/11/9発行
ラフダイヤモンド まんが学校にようこそ | 少年ジャンプ+→連載中
AMGが舞台!集英社「ジャンプLIVE」連載中「ラフダイヤモンド」|マンガ学科BLOG→作者が講師をされている専門学校の紹介記事

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