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2014/10/12

そう言えば「大長編ドラえもん」でもドラえもんの秘密道具は便利すぎると言われていたっけ。想像力を奪う小さな魔女たちと想像を意のままに具現化する紗名の出会い。 今井哲也『アリスと蔵六』第4巻

『アリスと蔵六』第4巻

 ひとの想像力を奪う魔法を操る小さな魔女たちと赤の女王たる紗名の邂逅、一方で京都に突然現れた巨大な観覧車を皮切りに奇妙な変容を見せ始める世界。『アリスと蔵六』4巻で描かれているのは紗名の小さな身に起きている変化――成長と、紗名の与り知らぬところで起きている変化である。その両者が関係しているのか独立した事象なのかはまだわからないけれど。

 魔法。小さな魔女たち――魔女本人である羽鳥と小学校での親友である歩(あゆむ)が、羽鳥の持つ超能力「アリスの夢」をそう称したのはそれ以外に説明する言葉を持たなかったからだろう。あらゆる実験を経て羽鳥と歩が辿り着いた結論は羽鳥の魔法は「ひとの想像力を奪う」ということ。想像力を奪われた人間はその行動をぴたりと止めてしまう。また想像力を保っている人間から与えられた命令に従うようになる。人がその意思で何かをしようとするときに想像力を働かせているというのはなかなか意識しにくい観点だと思うけれど、想像力を奪われた人間が外部から与えられた命令(それは想像力と言い換えていいかもしれない)によってのみ動くという結論に至ったことは、羽鳥と歩の2人の観察力、推理力、なにより想像力がかなり優れていることの証左であるように思う。そして、作中で雛霧姉妹が言及しているように意図しない魔法の発動によって自分たちだけが取り残された世界で孤独に苛まれていた羽鳥と歩が、それでも冷静に現象の解明を続けたことは2人が並々ならぬ精神の強さを持っているとともにどれだけお互いを信頼し合い依存し合っているか窺い知ることができる。
 その2人が意図的に止めた原宿の町には2人の意図に反して自立的に動く存在がいた。主人公であり、想像力の化身であるかのような紗名である。

 紗名がなぜ羽鳥の魔法によって想像力を奪われなかったかについては明確には描かれていない。とは言え、想像を具現化する能力である「アリスの夢」を封じられているあたり奪われていないわけではないのだろう。紗名の想像力が豊かなあまり羽鳥の魔法では行動を抑制するまでには至らなかったのか、紗名が想像力とは別の機序で動いているのか。それはわからないが、とにかく紗名が羽鳥の支配下において「アリスの夢」を使えなくなったことは確かである。自意識を獲得するよりも前に「アリスの夢」を使っていた紗名が「アリスの夢」を使えなくなるとはどういうことか。想像したとおりに何でもできる能力。生活の補助として娯楽として、ときに無意識に発動されるそれはそれこそ生物にとっての空気のようなものだろう。それを奪われた紗名は四次元ポケットを封じられただドラえもんのようなものだ。
 大長編(映画版)のドラえもんが四次元ポケットを失ったりドラえもん自身がポンコツになってのび太たちが望む道具を出せなくなったりするのはドラえもんの秘密道具があまりに便利で冒険物語が成立しにくいため、とF先生が語っていたという話を以前どこかで読んだことがある。紗名の持つ「アリスの夢」は何でも願いが叶う、まさに夢の道具だ。それを打ち消す存在が紗名の前に現れたことが紗名に何をもたらすのか。羽鳥の魔法が影響を及ぼす中では紗名は超能力を使えない一介の子どもに(体力が並以下であることを考えると一介の子ども以下に)成り下がる。そこでは紗名は蔵六や雛霧姉妹がおかしくなった――紗名を見なくなったことを嘆き悲しみ、そういうことをする人間に対して怒りを抱くごく普通の子どもになる。そう、ごく普通の子ども。数奇な出自を持つ紗名が、蔵六がいくら注意しても手足のように「アリスの夢」を使ってしまう紗名が普通の子どもになるきっかけを羽鳥たちは持っている。それは羽鳥の魔法の中でも紗名が動けることを示し、小学生にして既に人生を達観してしまったかのような羽鳥を普通の子どもに戻せるのではないかという一縷の望みを歩が紗名にかけていることと裏返しだ。人は便利な翼を失ったら自分の足で歩くしかない。(便利かどうかはともかく)人にはない翼を持つ紗名と羽鳥が自ら歩き出すように促す存在が「歩」という名の少女であることは偶然ではないのかもしれない。

 4巻では蔵六の紗名への関与がそれまでよりも薄くなっているように思った。それは何も蔵六が羽鳥たちに動きを止められていたからというだけではない。紗名が羽鳥と歩との出会いを通じて、朝霧姉妹と過ごした夜を通じて、紗名は自分の力で問題を解決しようとする過程に入っている。自分の感情を「モシャモシャする」と表現する紗名がモシャモシャの正体に気づく日は存外近いのかもしれない。

『アリスと蔵六』第4巻p.98

 まあでも、こういうp.98のような蔵六にべたべたする場面を見ると紗名もまだまだお子ちゃまだなあという感じがする。お子ちゃまというか、刷り込みを受けた雛というか。紗名の親離れ(ジジイ離れ?)はいつの日か。

【出典】
・今井哲也 『アリスと蔵六』第4巻 徳間書店<RYU COMICS>、2014/11/1発行
アリスと蔵六|月刊COMICリュウ→試し読みあり
タイトル:未定→作者のサイト

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