ぱんつ娘の悲痛な決意とガチ百合っ娘の遠大な野望に僕らは悶える。 深山おから『俺のぱんつが狙われていた。』第2巻
少女マンガ好きで少女マンガのような恋愛に憧れる男子高校生・村上祐希、彼が想いを寄せる正統派ヒロインのおさげっ娘・桃瀬ひいろ、そして執拗に彼のぱんつを欲しがることを除けば少女マンガから飛び出してきたかのようにピュアピュアなぱんつ娘・桜坂このみ。『俺のぱんつが狙われていた。』2巻では、ヴァン・アレン帯のお誕生日があったり春休みやクラス替えがあったり、3人が作るちょっと普通でない恋のトライアングルに新たな一角ができたり、1巻1枚目(『俺ぱん』の話数表記は「○枚目」)から存在が知られていたあのお方により一石が投じられたりする様子が描かれる。
『俺ぱん』のいちばんの魅力はタイトルどおり好きになった男の子のぱんつを狙うこのみの存在だろう。そのこのみが「人を好きになることあきらめます」(p.24)と言う。このみが村上くんを好きになることを諦めるということは「俺」のぱんつが狙われなくなったことを意味する。そんなことになったらこのマンガは「俺たちの戦いはまだ始まったばかりだ!」で第一部完になるか、タイトルを変えるかするしかない。1巻は感情の高ぶりからこのみのぱんつスイッチが入ったところで終わっていたが、2巻の最初7枚目でこのみはかつてないまでに暴走しヤンデレと言ってもおかしくないような状態になっている。それはもはや性癖というレベルではなく、全く別の人格に取って代わられている=二重人格と言っても過言ではない。さらに冒頭では幼女このみがこのみの祖母と思しき人物から「私と同じだから人を好きになってはいけない」(p.3)という忠告を受ける回想が差し挟まれている。今のこのみにとって、ぱんつ衝動を止める方法は祖母の言に従い好きになることを止めるしかない。
だがしかし。駄菓子菓子。一度知ってしまったらもう知らなかった頃には戻れない。このみが村上くんを好きになり、その感情の持つ温かさや悔しさ、悲しさ、そして嬉しさを知ってしまったらもう忘れることなどできはしない。このみの性癖、ひいてはこのみの恋が普通でないことなど村上くんは1巻まるまる1冊を通じてよく知っている。仮に好きになることを止める、ぱんつを欲しがらない恋をするなどとこのみが言っても、村上くんにとっては今さらのことだろう。恋しい恋しい村上くんのぱんつを欲しがらないこのみはもはやこのみではない。
そしてまた、冒頭の回想を踏まえれば、このみの祖母の存在、換言すればこのみの存在自体がこのみの恋路を照らすことになる。このみと同じく好きになった相手のぱんつを欲しがる体質を持っていた祖母が祖母になった=孫を持ったということは、それを知った上で理解し受け入れた人物=このみの祖父がいたはずである。かつてこのみと同じように性癖に悩み、普通でない恋に悩んでいたこのみの祖母を全て包み込むような懐の深い男がいたはずである。
なぜ、このみの祖母がこのみに「人を好きになってはいけない」と言ったのかは回想からはわからない。このみの祖母との回想は祖母の言葉の途中で切れている。書かれなかった祖母の言葉の先、このみが祖母から聞いて忘れていること、その辺りにこのみと同じ体質を持っていた祖母の恋の秘訣のようなものがあるのではないか。このみがそれを思い出すのか、自分で見出すのかはわからないが、このみの存在が彼女自身を照らす希望の星だと思いながら、一読者としてこのみのちょっと変わった恋路を生温かく見守っていきたい。
さて、『俺ぱん』2巻ではもう1人触れておかなければならないキャラがいる。ひいろのお友だちとして1巻1枚目から登場し、4枚目の体育祭話ではひいろの腕に抱きついてハートマークを飛ばしていた女の子。ただのモブにしては百合キャラとしてあまりにも目立っていた人物。香林咲野その人である。
ひいろからは「サキ」、後にお友だちになるこのみからは「こーりんさん」と呼ばれる香林は、ひいろとは小学生の頃からの幼なじみであり、ひいろを「ひーろ」と呼んで恋い慕っている。その片鱗は前述のとおり1巻でも見られていたが、2巻8枚目にして遂に名前が明らかになったと思ったらそれがこーりんの主人公回で、しかも強烈な印象を読者に残すこととなった。
いわゆる百合マンガではない普通のラブコメ(『俺ぱん』は「普通の」ラブコメではないけれど)に出てくる百合キャラは貴重である。それは登場すること自体が稀であることに加え、百合キャラがその恋愛対象(♀)を通じて彼女にとっては恋敵であるはずの主人公(♂)を憎からず思ってしまい、恋愛感情のようなものまで持ってしまうことがままあるからだ。百合キャラのはずなのに物語が進むうちに純粋な百合キャラではなくなる。ラブコメにおける百合キャラはそのような危険を孕んでいる。
一方、こーりんにはその恐れがない。こーりんが村上くんに好意を抱くことはまずない。なぜならば、こーりんの目にはひいろとひいろとの恋路を邪魔する女の子しか目に入らないからだ。そう、こーりんはひいろがこのみのことを好きだと思っている。男子という種の存在を認識できないこーりんは、ひいろがこーりんにとってはいないも同然の村上くんではなく、ちっちゃかわいいこのみに片思いしている思い込んでいる。こーりんにとって恋敵はこのみ。こーりんにとって村上くんは存在しない。ゆえに、こーりんという百合キャラが百合キャラでなくなる可能性は皆無と言ってもいいだろう。
また、こーりんのひいろへの愛は重い。途轍もなく重い。ひいろが単に慣れてしまっているだけなのか意識していないだけなのか、こーりんのひいろに対する想いはこのみの村上くんに対するそれに勝るとも劣らない。こーりんのお菓子作りの腕はひいろに喜んで欲しいという一心で上達したものだし、こーりんの夢にはひいろが毎日出てくるし、あわよくばひいろと結婚したいと思っているし(p.165より)、ひいろ自身よりもひいろのことを知っている(カバー下より)。その上、ひいろ以外はほぼアウトオブ眼中なのだ。今風に言うとクレイジーサイコレズ。こーりんはそういう意味でもこのみに匹敵する強烈なキャラを持っている。どうしよう。このマンガ、主人公とその想い人の周囲にいる人が特殊すぎて主人公カップルが霞んじゃうよぅ。まだカップルじゃないけど。
そんな百合キャラであるこーりんはこのみがひいろではなく村上くんを好きだということを知るや、このみの恋の後押しにかかる。このみが村上くんとくっつけば、ひいろはこのみを諦めざるを得なくなり、こーりんはこのみとの恋を成就できる。そんな打算からこーりんはこのみに近づき、やがて恋敵(勘違い)であるはずなのに仲良くなる。そうして、『俺ぱん』の恋愛模様は1巻の感想でも予想していたとおり、村上くん、ひいろ、このみという三角関係にこーりんが正式に加わって見事な四角関係を形成するに至った。これはもうこーりんの百合恋を全力で応援するしかないではないか。
『俺ぱん』2巻はこのみのヤンデレ化が進んだり、こーりんが大活躍したりした巻だった。もちろん、例えばカバー絵のこのみが「しばらく忘れてたけどこれが普通の女の子の反応」(p.83)をぱんつに対して示すことを思い出させてくれたり、「『俺ぱん』ってこんなピュアピュアな話だったっけ?」と思わせるようなピュアピュアなラブコメを村上くんとこのみの2人で見せつけてくれたりと、村上くんとこのみも見せ場を持っている。ただぱんつ娘とガチ百合っ娘が悪目立ち(褒め言葉)しているだけで、村上くんとこのみもしっかり悶えるようなラブコメをしている。が、がんばれ、男の子。なにやら村上くんの言動に対して核心を突いてくる子も現れたけれど、がんばれがんばれ男の子。
そうだ、このみちゃんにがんばれ♥がんばれ♥してもらおう(提案)。
ところで、このみちゃんは8枚目で見せたようなポニテ新妻エプロン仕様で迫れば、村上くんを落とせると思うの。これで落ちない男子高校生はいない(確信)。
あと、8枚目p.16で村上くんの2つ前の席にいるハートマークの付いた表紙の本を読んで赤面しているモブ子がただのモブとは思えないほど地味に存在感を醸し出しているのが、私、気になります。
【出典】
・深山おから 『俺のぱんつが狙われていた。』第2巻、アスキー・メディアワークス<電撃コミックスNEXT>、2014/10/27発行
・俺のぱんつが狙われていた。 | 月刊コミック電撃大王公式サイト→試し読みあり
・kirazu | 創作同人サークル→作者のサイト
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