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2014/09/14

アンドロイド少女は自らとともにいつまでも空世界を旅する青年の夢を見るか? 空飛ぶ島を舞台にした青年×アンドロイド少女の冒険活劇! 梅木泰祐『あせびと空世界の冒険者』第1巻

『あせびと空世界の冒険者』

 『あせびと空世界の冒険者』は空飛ぶ島を舞台に古代の文明遺産を求めて旅をする青年とアンドロイド少女を描いた、ほんのりラブコメ風味の冒険活劇である。

 島が空を飛び、人々は飛行船で島々を渡る。島々の間を「竜魚」という魚のような巨大な怪物が悠々と飛び回る。その竜魚から人々を守る役目を負うのは「衛士」と呼ばれる特別な訓練を経た者たちだけ。
 そんなファンタジーな世界で衛士の青年であるユウとアンドロイドの少女であるあせびはいにしえの超文明ウォルテシアが残した遺産を求めて旅をする。なぜなら、あせびこそウォルテシアの科学が生み出した人工生命であり、人として生きることを望まれた存在なのだから。あせびのルーツを訪ねる旅、その行き着く先にあるものは――。

 王道と言えば王道。中世ヨーロッパ風の町並みにモンスターが蔓延るという空想世界にしても、少年(あるいはおっさん)とアンドロイドの少女という組み合わせにしても、それらを題材にしたマンガや小説は枚挙に暇がない。また、空を飛ぶ島と古代の超文明、その世界を冒険する少年と少女というと空から女の子が降ってくるかの映画を思い出す。
 そんな王道を辿りながらも本作を興味深いものにしているのは表題にもある「空世界」とあせびの存在だろう。
 島と呼ばれる岩が空中を飛び、その上に町が作られている。その島に住む者も島を渡る船乗りも、筋骨隆々とした古代魚のような出で立ちの巨躯の獣に命を脅かされながら生きている。だが、ただ一方的にやられるのではなく、衛士とその衛士が操る狙撃銃により人々はその生活を保っている。ウォルテシアが栄えていた頃の10分の1にも満たない領域に人間の制空権を押さえ込んだ竜魚とは何なのか。竜魚はどこから現れたのか。竜魚は何らかの意図を持つ存在なのか。それはユウとあせびが探し求める超文明と並んで解明が待たれる存在である。そんな謎の巨獣と謎の古代文明が息づく世界にユウとあせびは生きている。

 そしてもう1つ、なによりあせびの造形がいい。おさげ、スレンダー、ですます調にツンデレ、さらにおさげと、萌え要素としてはポピュラーながらなかなかどうしてツボを突いてくる。おさげは大事なので2回言いました。特にアンドロイドなのだからどうせならダイナマイトバディにでもしておけばあせびがその体型で悩むこともなかったのに、あせびを凹凸のそれほど目立たないほっそりした体つきとしたところにウォルテシアの開発者が相当のこだわりを持っていたことを感じる。開発者グッジョブ。あなたが神でしたか。
 また、アンドロイドでありながらあせびは多彩な表情を見せる。この「アンドロイドでありながら」というのもアンドロイドは感情を持たないのではないかという前提に立った物言いなので適切かどうか議論が必要なのかもしれないが、あせびはとても豊かな感情表現を見せる。ユウがナイスバディなお姉さんの依頼を引き受ければその巨乳に嫉妬し、ユウに「一緒にいたい」と言われれば照れ隠しでツンツンする。もっとも、あせびが当初は今よりもずっと人間離れした言動をしていたことが作中では語られているが。
 物語の冒頭ではあせびが眠りから覚め、1人の人物に託されたことが描かれている。その人物は後にあせびの育ての親となる元船乗りで、おそらく身寄りのなかったユウを引き取った者でもある。彼に育てられたこと、なによりもユウとともに成長する場を与えられたこと。そうして、あせびはおよそ人間と同じように喜怒哀楽を持ち、およそ人間の少女と同じように特別な誰かに特別な想いを抱く存在へとなったのだろう。
 すると気になるのはやはりあせびと特別な誰か、すなわちユウとの行く末である。仮にあせびの想いが成就してもユウは人間、どんどん年を取っていくだろう。その事実からいよいよ目を逸らせなくなったとき、あせびはどのような選択をするのか。作中にあせびと恋人の待つ島へ帰る際の護衛を依頼したお姉さんが会話をする場面があるが、「一緒に旅をするなんてうらやましい」(p.26)と言ったお姉さんに対してあせびは「うらやましいのは私の方」(同)と返している。このことはあせびがユウを好きでいることはできてもユウと恋仲になることはできないと思っていることを表していると思われる。たとえ今この瞬間、夫婦漫才のように息の合ったノリツッコミをユウにしていても、アンドロイドであるあせびはユウと異なる時間軸で生きることを課せられている。

ユウとあせびのノリツッコミは既に夫婦漫才の域

 あせびは「人生を与えて欲しい」(p.4)という願いを込めてウォルテシアの遺産を継ぐ者から1人の船乗りに託された。人生を与えること、それは人として生きることであり、やがて人として死ぬこと。ユウとあせびが空中世界を股にかけて追い求める古代超文明の遺産が何であるかはまだわからないが、ユウとともに行く旅こそがいつしかあせびの人生そのものになるのだろう。

【出典】
・梅木泰祐 『あせびと空世界の冒険者』第1巻、徳間書店<RYU COMICS>、2014/10/1発行
あせびと空世界の冒険者|月刊COMICリュウ→試し読み
雲形発着場→作者のブログ

【関連記事】
寄り添い合うユウの夢とあせびの夢、四つ巴の様相を呈する物語 梅木泰祐『あせびと空世界の冒険者』第2巻(2014/12/15追記)
ルーツを探し求める青年とプライドを見失った壮年。それぞれの夢を追う冒険者たちが辿り着く先は。 梅木泰祐『あせびと空世界の冒険者』第3巻(2015/6/14追記)

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