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2014/08/25

陽炎型であること、ネームシップであること、陽炎が存在する理由――それは貴女が陽炎だから。 茶々畑。『其の名に意志を』(艦隊これくしょん~艦これ~二次創作)

茶々畑。『其の名に意志を』

 『其の名に意志を』は陽炎と不知火の関係を史実を踏まえて描いたどシリアスな物語……と見せかけて、陽炎と不知火がお互いにお互いを好き過ぎるがゆえにすれ違ってしまう犬も食わない痴話げんかを描いた物語、なのだろうと思う。

 陽炎たち第一艦隊と深海棲艦の激しい戦闘シーンから物語は始まる。作戦を成功裏に終えて鎮守府に帰投した陽炎は、だが陽炎型のネームシップである自分に納得のいく戦いができず物に当たり散らし、その上労をねぎらいに来た不知火にまで八つ当たりしてしまう。己の存在理由をぐだぐだと悩みつつ不知火に当たったことでさらにぐだぐだと自己嫌悪に苛まれる陽炎だったが、そんなときに不知火が思わぬ行動に走ったことを知り――。

 それにしても。ここまで艦娘たちの戦いを血生臭くリアルに描いた同人誌は同じ作者の手になるものを除けばそうそうないと思われる。傷つくことを恐れずに深海棲艦に立ち向かう艦娘たちの姿は艦娘という存在が戦うためにあることを思い出させる。ときに手足が千切れ飛び、身体が貫かれるような描写は艦娘が死と隣り合わせの日常を生きていることを再認識させる。そういった中での鎮守府での暮らし、食堂でのたわいのない会話は艦娘たちに訪れる束の間の平和であり、日常の中の非日常なのかもしれない。かつて世界の海を股にかけた旧海軍の戦艦、その生まれ変わりである艦娘は戦うべき運命を背負った存在だ。
 ただ、それは死すべき運命を背負うことと同義ではない。それは艦娘や彼女たちを戦地に赴かせる提督の望むところではない。そうでなければ、陽炎が不知火のことでぐだぐだと思い悩み、不知火が陽炎のことで思い詰めることもないではないか。
 シリアス一辺倒かと思えばギャグ顔を見せる場面がいくつもある。黒潮や霞が陽炎に投げる軽口のひとつひとつに重みがある。しょーもない会話かと思えば陽炎を突き動かす源となる言葉が散りばめられている。全編を通して見たときのその緩急のつけ方は実に巧妙で、そのことが物語を読み終えたときの余韻をよりいっそう深いものにしてくれる。そしてまたそのことが、陽炎と不知火がどれだけお互いのことを想っているかをなによりも物語っている。このマンガはやはり、相手のことが好き好き過ぎて痴話痴話と喧嘩してしまった陽炎と不知火の話なのだと思う。いやぁ、かげぬいって本当にいいものですね!

 そう言えば作者の既刊に、駆逐艦「雷」が沈没した英駆逐艦の乗組員を救ったという史実を土台にした『少女が見たモノ』というマンガがある。その作中にある「まああと必要な物と言えば貴方の意思ですかね」(p.29)は艦娘を建造しようとする新米提督に妖精さんが放った台詞であるが、物語の前半で描かれている駆逐艦「雷」の救出劇で工藤艦長が見せた敵兵ではなく人を助けるという強い意思を彷彿とさせるものがあった。本作のタイトルに使われている「意思」という言葉は、陽炎と不知火が互いに強くなるという決意、互いを護り抜くという想いが込められているだけでなく、「助けるわ」という艦娘・雷ちゃんの台詞、ひいては工藤艦長のそれに通じていると思うのは単なる妄想だろうか。

【出典】
・茶々畑あたる 『其の名に意志を』 茶々畑。、2014/8/15発行
其の名に意志を→サンプル
茶々畑。→サークル「茶々畑。」のブログ

【関連記事】
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