文学作品をモチーフにした女の子同士の心のふれあいがすばらしい、世界名作百合劇場。 カザマアヤミ『星をふたりで』&「ひらり、 vorl.14」より『真夜中のマーメイド』
ヤッタヨー! 遂にカザマアヤミ先生の百合マンガが単行本になったよー! どれだけこの日を待ち望んだことか!
ということで、文学作品をモチーフにした一連の物語や2人だけの身体測定を描いた話などを収めた作者初の百合短編集『星をふたりで』は、女の子同士の心のふれあいをときにコミカルに、ときにしんみりと表現していて、月並みな言い方しかできないけれど本当にすばらしい1冊となっている。
以前、『恋愛3次元デビュー~30歳オタク漫画家、結婚への道。~』の際に触れたが、マンガ家・カザマアヤミの描くラブコメは甘くておいしい。中学生の男の子と女の子から社会人の男女まで、胸焼けしそうなほどに甘ったるい関係をふわっとした絵柄でとじ、胸を焦がすほどに羨ましい関係に仕立て上げる。作者の手になるラブがコメる物語を読む度に何度壁を殴りたくなったことだろうか。そして、その最たるものが作者自身の体験を描いた前出のエッセイマンガだというのだからもう面従腹背するしかない。本当にごちそうさまです。
さて、そんな素敵ラブコメを生み出す作家が女の子同士の物語を描いたらどうなるか。それを体現したのが本書である。本書には表題作となる『星をふたりで』を含む5つの短編とそれらの描き下ろしの後日談、それに『星をふたりで』のこれまた描き下ろしの番外編が収められている。
フランスの作家サン=テグジュペリの代表作である『星の王子さま』に着想を得た『星をふたりで』は、他人とのコミュニケーションが苦手な菜摘と、外国から日本の学校へ転校してきた金髪ツインテールのリアという2人の少女の話だ。言葉を選びすぎるがゆえに自分をうまく表現できない菜摘と、日仏ハーフの生い立ちとそのルックスからどこへ行っても珍しがられたであろうリア。その2人が『星の王子さま』という1つの物語を媒介にして、王子とキツネのように少しずつ会話を重ね心を重ねてゆく。
ただもちろんそこには行き違いも生まれる。フランスの風習を持ち込むリアに菜摘はドギマギさせられ、それをなかなか受け入れられない菜摘にリアはついイライラさせられる。だがそれさえも菜摘とリアの2人にとってはお互いが歩み寄るための道程となる。
そうして菜摘とリアが紡ぐ2人の物語は恋と言うよりは友情に近く、でも友情と言い切るにはドキドキが過ぎる。『星をふたりで』はまさに『星の王子さま』を換骨奪胎した物語であり、百合版星の王子さまというにふさわしい物語となっている。
『健康診断ふたりきり』は女子校の違うグループに属する2人の少女が2人だけで健康診断を受ける話だ。
本来の健康診断の日に欠席していたことからロングホームルームの時間に健康診断を受けることになった知花と穂坂。クラスでも地味な部類に入る知花は当初クラスの上位カーストに位置する穂坂に近寄りがたさを感じていた。だが、穂坂の人なつっこい性格やふんわりとした雰囲気が飼い犬に似ていたことから知花は穂坂に親近感を抱くようになる。そして、穂坂が思いの外こどもっぽい行動を見せたり、それに反して健康診断ならではのハプニングから妖艶な姿を見せたりといったことが、知花をして穂坂を住む世界の違うクラスメイトからかけがえのない存在に変えてゆく。
吊り橋効果と言ってしまえば身も蓋もないかもしれないが、2人が健康診断という短い時間を共有したことは紛れもない事実であり、お互いに心を通わせたこともまた揺るぎのない事実である。健康診断という学校の日常の中の非日常に綴られた2人の物語は、2人がお互いの日常に戻っても永遠にほどけることはないのだろうと思わせて余韻を引く。
上記2話の他にも童話の『銀河鉄道の夜』と古典文学である『枕草子』を引き合いにした物語、親友に初彼ができた女子大生の物語が『星をふたりで』には収録されている。それらはいずれも作者が今までに描いてきた少年と少女のラブコメに勝るとも劣らない珠玉の百合語りとなっている。
男女の恋愛にまつわる機微を巧みに描いてきた作家が性別という最大のギャップがない世界で女性同士が惹かれ合う姿を描くということ。そこには似通った部分も勝手が全然違う部分もあるだろう。それでも、少なくとも自分は、これらの物語を何度となく読み返してはそのたびに感銘を受け、それがいつまでも記憶に留まっている。このことはカザマアヤミというマンガ家の作家性を如実に表していると言えないだろうか。
作者を百合マンガに挑戦させたピュア百合アンソロジー「ひらり、」は大変残念なことにvol.14を最後に休刊することになったが、そのvol.14で作者は『真夜中のマーメイド』なる物語を発表した。人間の少女と人魚の少女の歌を巡るその物語は、これまでとは打って変わって人間と空想の存在との種族を越えた話であり、これまで以上に恋を前面に押し出した話でもある。このことは、「ひらり、」という紙の舞台がなくなったとしても女の子同士の恋物語をこれからも描いていくという、作者の決意表明に思えてならない。いつかまたどこかで作者が百合マンガを描き、それがいつの日か百合単行本としてまとまる日が来ることを願って止まない。
最後に『真夜中のマーメイド』に登場する人魚は魚形態の下半身だけでなく、人とほぼ同じ姿の上半身もすっぽんぽんであることを付け加えておきたい。
【出典】
・カザマアヤミ 『星をふたりで』 新書館<ひらり、コミックス>、2014/8/15発行
・アンソロジー 『ピュア百合アンソロジー ひらり、 vol.14』 新書館、2014/8/15発行
・ひらり、コミックス情報!!→表題作『星をふたりで』の試し読みあり
・新書館/ひらり、 vol.14→新書館HP内の「ひらり、 vol.14」と同時刊行コミックスの告知ページ
・ザマログ→作者のサイト
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