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2014/07/21

俺たちの痔久戦はまだ始まったばかりだ! 読んでためになる異色のラブコメ痔ィ完結編。 大見武士『KISS MY ASS』第2巻

『KISS MY ASS』第2巻

 「日本人の3人に1人が患う」(1巻帯より)国民病である痔。その痔を主題に1人の男子高生と2人の女子高生の、恋と友情と闘病にまつわる悲喜交々を描いた『KISS MY ASS』が2巻で無痔に完結した。

 『KISS MY ASS』1巻では、重度のいぼ痔に悩まされる高校生の薬師寺充輝がクラスメイトの三浦栞に恥ずかしげもなくパンツを脱がされて症状を観察されたり生活の改善指導を受けたり、憧れの小松紗那に痔バレの危機を迎えたりする姿を描いていた。完結編となる2巻では小松が「痔友人(じゆうじん)」として薬師寺と三浦の仲間になったり、三浦が痔主として遂げたくない再起というか再発を遂げたり、薬師寺が遂に手術の日を迎えたり、三浦の想いが炸裂したりする様子を描いている。

 このマンガのおもしろいところは読み進めていくうちにいつの間にかニヤニヤの質が変わっていることだと思う。普段は話題にしづらいシモの話だけに薬師寺と三浦のやりとりをニヤニヤしながらこのマンガを読んでいると、そのニヤニヤは三浦から薬師寺へのラブコメ的な反応に対するものにいつの間にか取って代わられてしまうのである。
 最初の頃こそデフォルト無表情で、顔色1つ変えずに薬師寺のパンツを下ろして薬剤注入していた三浦が、放っておくと不摂生に走る薬師寺の世話を焼く間に淡い恋心を抱くようになり、小松に焚きつけられるに至ってようやくそれを自覚する。痔を観察するために薬師寺と一緒にいたいという三浦の目的が、ただ薬師寺と一緒にいたいという気持ちに変化する。そしてそれを彩るのは他ならぬライバルの背中を押すことになった小松の存在だろう。
 200人中170番台とさりげなくアホの子っぷりを露呈された小松は、感情の機微に人一倍敏感な子としても描かれている。なにしろ小松が鞄に付けた人形さえ小松自身の感情に連動して表情豊かに動くほどである(p.9、28、29など)。その小松が自分よりも三浦の感情を優先するのはなぜか。単に小松が三浦の薬師寺への気持ちには気づいたが三浦は小松の気持ちには気づいていないからではなく、「痔友人」という関係を通じて小松が三浦に恩義を感じているからというだけでもないだろう。小松が三浦ほど薬師寺に固執していないからというわけではなさそうだし、薬師寺には三浦が必要だからというだけでもなさそうだ。人の感情に敏いことは得てして貧乏くじを引くことに繋がるのかもしれない。
 そうして、そんなニヤニヤの変遷を通じて痔に対する知識や対処法も身につくが、こんなにも役に立つマンガは小学校の図書館に並んでいた偉人や歴史の学習マンガ以来のような気がする。薬師寺の闘痔姿にニヤニヤし、三浦の初々しい恋心にニヤニヤし、本書をきっかけに痔の治療に取り組んだ読者が完治の喜びにニヤニヤする。『KISS MY ASS』は1冊で3度おいしい。

 薬師寺の痔の露見から手術までと併走するラブコメを描いて物語は幕を下ろしたが、薬師寺の長い痔ん生でいつかまた痔が再発しないとも限らない。そのときは続編が作られることになるのだろうか。薬師寺と三浦と小松が描く三角関係のその先を見てみたいとは思うが、願わくは薬師寺の痔が再発しないことを。

「大見武士 KISS MY ASS」でググると……

 ところで、某検索サイトにて「作者名+作品名」でググると、このブログが痔久戦の記録のような見出しで検索結果に表示されることを知って戦慄している(2014年7月21日現在)。

【出典】
・大見武士 『KISS MY ASS』第2巻、少年画報社<ヤングキングコミックス>、2014/7/30発行
ガムテで固定→作者が代表を務める同人サークルのサイト。

【関連記事】
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