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2014/06/11

かつてひとりの女性に「光」を灯した青年は今、殺し屋の少女にとって何になろうとしているのか。 板倉梓『ガール メイ キル』第2巻

『ガール メイ キル』第2巻

 2つのマフィアが牛耳る中華街を舞台に、ビデオ屋の店員として働く気弱な青年・五本木と、マフィアの殺し屋として働く15歳のおさげ少女・芽衣との関係を描いた『ガール メイ キル』。2巻ではいくつかの「出来事」を経て五本木と芽衣がまた少し歩み寄る様子が描かれている。

 2巻のハイライトを挙げるなら。対立するマフィアの自称真性□リ野郎にさらわれた五本木を助けるため芽衣が○リコン野郎に貞操を狙われたり、□○コン野郎に下着を引ん剥かれたり、□リ○ン野郎にぺろぺろされたりと、いずれの場面も甲乙付けがたい。しかし1つだけ選ぶとしたら、ニーハイだけにされた芽衣が五本木を前にして年相応の恥じらいを見せるシーンを挙げたい。ありがとう! そして、ありがとう! よくぞニーハイだけ残してくれた!

 さて、1巻からの続きとなる敵対勢力に属する売人の司との一件も、芽衣に手を出そうとする変態野郎との一件も、その事象だけを追っているとこの物語の本質を捉えることはできない。元より敵か味方か、殺るか殺られるか、という単純な二元論で生きている(ように思われる)芽衣にとって、目の前に現れる人物は殺すべき相手かそうでないかの違いしかない。それを知っていてなお芽衣の人生に絡もうとするのだからまあ五本木は物好きな男である。こちら側の世界にいる読者と違って、物語の中に生きる五本木はその命を芽衣に預ける必要があるのというのに。
 2巻の後半では以前の五本木を知る女性が登場する。裏世界の住人を診る医師として生きる彼女、香月はとある理由から厭世的になっていたが、かつて幼少の頃の五本木と出会い、彼の中に「光」を見出した。幼い五本木に手を引かれながら「こういう人生もあったかもしれない」と夢想する香月は、だが当時から自分がそういった世界にはもう戻れないことを知っていたのだろう。けれど五本木は違う。少なくとも当時の、幼かった頃の五本木は違う。まだこれからいくらでも明るい世界を歩むことができるはず。だが、その五本木が大きく成長した姿で再び現れ、魑魅魍魎の渦巻く街に留まる決心を告げたとき、香月が抱いた絶望は想像を絶するものだったのではないだろうか。
 それでもそのことを知っていながら五本木は芽衣の側にいようとする。何ができるわけでもなく、時には足手まといにすらなっても、芽衣が望むなら五本木は芽衣の側にいるだろう。芽衣が望まなくとも居続けるだろう。

 芽衣は香月と同じように五本木の中に「光」を見出したのか。五本木は芽衣の敵にならない存在。五本木は芽衣の味方で居続ける存在。五本木は何人もの人を殺めてきた芽衣を年相応の少女として扱う存在。かつてひとりの女性に「光」を灯した青年は今、殺し屋の少女にとって「光」などというあやふやなものではない確たる何かになろうとしている。そう、芽衣が五本木にとってつかみ所のないサソリなどではない何かになろうとしているように。

【出典】
・板倉梓 『ガール メイ キル』第2巻、双葉社<アクションコミックス(月刊アクション)>、2014/6/10発行
WATTS TOWER→作者のサイト

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