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2014/06/16

こどもからおとなへ、男性から女性へ。2つのあわいを越えた少年たちの物語。 お子様ランチ『転生少女図鑑』

『転生少女図鑑』

 人がこどもからおとなへと変わるとき、昆虫やは虫類のように蛹や繭に包まれて、あるいは脱皮によって「変態」を行う世界がある。『転生少女図鑑』はそんな世界で起こった特殊な事例――男から女への性転換を伴う変態を経験した少年たちに主眼を置いた物語である。

 桑野優(ゆう)は17歳の高校生。小柄で童顔、クラスでもみそっかすのような扱いの彼は、周囲の同級生が「メタモルフォーゼ」と呼ばれる変態を経て次々とおとなの体になっていく中で、唯一こどものまま残っている存在だった。そんな優の願いは、メタモルフォーゼを経て強靱な男となり、昔から変わらずに接してくれる幼なじみの少女・泉を守ること。泉から借りたエロ本をきっかけに待望のメタモルフォーゼを迎えた優だったが、変態を終えて繭の殻を破って現れた彼は彼の期待に反して女性の体になっていた。

 といった感じに、『転生少女図鑑』では第二次性徴を迎えた少年が繭になったり蛹になったり両生類のような変化を通じて少し大人びた少女になる顛末をオムニバス形式で描いている。
 階段を転げ落ちたことで中学生男女の中身が入れ替わってしまう映画や、水を被ると女の子になってしまう格闘家の少年を描いたマンガなど、性転換を扱った物語は枚挙に暇がなく、今では一大ジャンルを築いている印象がある。
 そんな中にあって『転生少女図鑑』は性転換のための舞台装置として、「メタモルフォーゼ」というこどもがおとなに成長するための仕組みとその際に性別まで変わることがあるという数奇な現象を用意した。ことこどもがおとなになるとき、1年で30センチも身長が伸びたり声が低くなったりふっくらしたりといった見た目の変化はあれど、それらは1日で一気呵成に変わるようなものではなく、毎日接している分には気づかない程度のやんわりとした遷移である。それをこのマンガでは「メタモルフォーゼ」という明示的な段階を取り入れることで、こどもからおとなへと変わる人の成長を目に見える現象として再定義した。だが、こどもがおとなになるということは、性格や心境、他者への対応や感情など、見えない部分の方が外見以上に大きく変わる過程でもある。その際に性別までが逆転してしまったら、少年が少女になってしまったら、当人はその事実をどう受け入れ、周囲の人はその現実にどう対処するのか。

 物語はいずれも性転換したことが原因で主人公である少年(元少年?)が絶望してしまうことはなく、どの物語も読後はとても爽やかだ。それはこの世界では成長の過程で男性から女性へ変わること、女性から男性へ変わることが稀な事象ではあってもあり得ない出来事ではないことに端を発するのだと思われる。逆にそのことは作者がこのマンガで描きたいことがどこにあるかを示唆しているようにも思える。
 現実ではこのマンガのようにこどもとおとなに明確な境目はない。こどもはいつしかおとなになり、準備が整っているかいないかにかかわらず社会の荒波に乗り出してゆく。こどもからおとな、男性から女性という2つのあわいを乗り越えて成長する少年たちを描いた『転生少女図鑑』は、これからおとなになろうとする少年少女たちへ向けたエールである。そんな気がしてならない。

 ところで、女の子になった優と泉がイチャイチャする第1話や水泳女子がライバルの第3話などではゆりんゆりんな描写があったり、主役とその相方が幼なじみの関係にあることが多いなど、『転生少女図鑑』は多角的な楽しみ方ができる1冊でもある。個人的にはゆりんゆりんなままでも一向に構いません(意味深)。

【出典】
・お子様ランチ 『転生少女図鑑』 少年画報社<TSコミックス>、2014/6/14発行
転生少女図鑑 全1巻 - 少年画報社 / comics→試し読みあり
お子様レストラン→作者のサイト

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