頬の痩けたおっさんに肩を抱かれた泣き顔ダブルピースのブレザー少女。その涙の理由は……? ミルメークオレンジ『●REC』
女の子の泣き顔に定評のある作家、水あさと。どのマンガを読んでも作者が描く女の子は必ず一度は泣いているのではないかと思うほど泣いているし、どこかの本で「女の子の泣き顔が好き」と書かれているのを見たように思うし、実際にどの女の子もその泣いている姿にしてもその涙の理由にしても非常に魅力的で魅惑的である。個人的には某本屋さん5巻28話で描かれたつもりんの涙にはかなりぐっと来るものがあった。未だに心を置いている元彼とその彼に惹かれている後輩ちゃん、2人の間に流れる空気が以前と変わっていることに気づいたつもりんが、その糸目を見開いて2人の姿を目に焼き付ける。そこからの、つもりんの涙。ようやく終わりを告げたひとつの恋をデンキ街がただ静かに見守る。それは全国1億3千万のつもりんファンが思わずもらい泣きせずにはいられない、某本屋さんでも屈指の名場面の1つである。
話が逸れたが、作者の特徴を尋ねられたら女の子の泣き顔を挙げる読者は多いと思う。そしてもう1つ、水あさとという作家を語る上で外せないもの。それはこっぱずかしいまでのラブコメ……もそうだけれど、ここでは下ネタを挙げたい。インモーだの「君のつくし」だの下衆いこと極まりない下ネタの数々はラブコメだろうが何だろうが否応なく差し挟まれ、まるで自分の描く物語がただラブラブするのを、ただシリアスになるのを作者自身が恐れているかのようでもある。そんな下ネタの応酬で読者の腹が捩れたところをイイ話で落としにかかる。だから作者のマンガはクセになってしまう。
そんな作家のCOMITIA108新刊同人誌である『●REC』も女の子の泣き顔と下ネタが際立った1冊となっている。
本の表紙を見るとベッドの上に座る少女と少女の肩を抱く男がいる。「●REC」という表示と電池マークから読者はビデオカメラのモニター越しに2人を見ていることがわかる。ビデオとベッドと少女とおっさん。何とも犯罪臭のする組み合わせである(偏見)。何よりも少女の様子がおかしい。着ている制服はぶかぶかで、きこちない笑顔は無理矢理笑わされているよう、力ないダブルピースは無理強いさせられているよう、さらにその目には涙が浮かぶ。どう見てもただ事ではない。極めつけは背景と同色のグレーで塗られたおっさんだ。痩けた頬、困ったようにハの字を描く眉、そして緩められたネクタイ。もうこれだけで通報できるレベル(偏見)。なのにその手は少女の方に回されている。「この人です!」表紙を見ただけでその羨まs……じゃなくてその鬼畜さに声を上げたくなる。
そうして本を開いて2ページ目、「今日は僕のことパパって呼ぶんだよ」という台詞を見て疑念は確信へと変わる。へ、変質者だー! ガチの□リコンだー!
ところが、話を読み進めて見開きのページへ辿り着いたとき、おっさんに対する見方が360度変わる。って変わってないし。小学6年生だという少女に対する視線が180度変わる。ビデオに期待する役割ががらりと変わる。パパと少女、2人の小さな背中とその背景の描写に唸らせられる。
作者の泣き顔や下ネタに対する執着は偏執的と言ってもいいかもしれない。つまり偏執者。だが、水あさとという作家を偏執的に見ていたのはむしろ読者の方だった。むしろ自分の方だった。つまり読者が偏執者。自分が変質者。おい、誰が変質者だよ。
いつものノリかと思って読んでいると思わぬ不意打ちを食らう。一度通読した後に読み返すと「今日は僕のことパパって呼ぶんだよ」という言葉の重みに気づく。だから作者の描く物語はクセになってしまう。
【出典】
・水あさと 『●REC』 ミルメークオレンジ、2014/5/5発行
・●REC→表紙
・●REC サンプル→ある意味見ない方がいい、本編のサンプル。
・ミルメークオレンジ→作者のサイト
【関連記事】
・セーラーマジック、それはかわいい女子中学生の恥ずかし(がって)い(る)姿や泣き顔を見るための素敵な魔法 水あさと『制服魔法みどりちゃん』(2014/8/21追記)
・泣き顔に定評のある作家の変態性癖百合マンガ ミルメークオレンジ『ふくしょくじょし』(2015/5/6追記)
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