本の重みは歴史の重み。 コミティア実行委員会・編『コミティア30thクロニクル』第1集
アニメやゲームのパロディではない、オリジナルの創作系同人誌の即売会であるCOMITIAが30周年を迎えるにあたり、時代を象徴するような作品や商業誌で活躍する作家の原点となるような同人作品などを集め、3分冊2000ページにも及ぶ記念作品集を企画した。その1冊目となる『コミティア30thクロニクル』第1集が一般書店での販売に先立って5/5開催のCOMITIA108で頒布された。
COMITIAの第1回は今からちょうど30年前の1984年11月に行われ、委託も含めて101のサークルが参加したという(p.626、「COMITIAヒストリー第1回」より)。直近のCOMITIA108では公式サイトによれば4800超のサークルが参加したそうなので、重ねた月日にしても開催規模にしても隔世の感がある。そんなCOMITIAだが、自由な表現を求める作家の腕試しの場として、商業作家を目指す同人作家の修行の場として、読者の反応を直接見て聞くことのできる交流の場として、30歳になろうとし体が大きくなった今も昔と変わらず精力的に活動を続けている。
本書『コミティア30thクロニクル』第1集には24人の作家の同人作品が収められている。それらにはファンタジーもあればみょーなSFもあり、百合もあれば飯テロマンガもある。マンガや同人誌という媒体を活かした作品もあれば、『コミティアスタッフ募集マンガ』のように公式のカタログである「ティアズマガジン」で発表された作品もある。それらには読んだことがないのにどこか懐かしさを感じさせる作品もあれば、今すぐ続きを読みたくなるような作品の第1作目もある。それらには同人誌として持っている作品もあれば、商業単行本が本棚に収まっている作家の作品もある。それらには今も第一線の作家として商業誌や同人誌で新作を生み出し続ける作家の作品もあれば、今は筆を置きマンガとは違う世界に生きる場所を見出した作家の作品もある。そして、直接作品が収録された作家だけでなく、30周年記念のコメントを寄稿した作家や作品紹介という形で掲載された作家、「COMITIAヒストリー」で言及される作家も含めると、40余人の作家がこの1冊の本には登場する。
だが、それは30年という時間、数千というサークルの規模から見たらごく一部でしかない。どこかで紹介されているのを見かけて気になり、実際に読んでその画期的な表現と物語に衝撃を受けた作品がこの本には収められている。初めて読んだときから今に至るまで、折に触れては読み返し泣かされてきた作品もこの本に収めて欲しい。限りがある紙幅にどの作品を入れるか、その検討が難航したことは想像に難くない。COMITIAで同人誌を頒布したことのある人、COMITIAで足が棒になるまでお気に入りとなる1作を探し求めた人、COMITIAの存在は知っているけれどまだ行ったことのない人、きっとそれぞれにそれぞれが思う「この1作」がある。そういう意味で『コミティア30thクロニクル』第1集から始まる一連の作品集は、そこに収められている作品だけでなく、収められていない作品やこれから描かれる作品も含めたあらゆる同人作品を内包する存在であり、COMITIAの歴史だけでなく、創作系同人の歴史、ひいてはマンガの歴史を物語る生き証人である。
30年の間に作品の制作環境も大きく変わっていれば、作品の流通を取り巻く状況も大きく変わった。今やブログやtwitter、pixivやニコニコ動画などのサイトを見れば数ページの短編マンガや4コママンガ、音楽やゲームなどの新作を見ない日はない。専門家でもないので明らかなことは言えないが、いつか紙媒体としての出版・流通、紙媒体としての同人誌がなくなる日が来るかもしれない。それでもCOMITIAは「ずっとやります」宣言(p.628、「COMITIAヒストリー第1回」より)のとおり、同人誌即売会としての場を作り続けるだろう。同人誌が1冊でもあれば即売会の会場を準備するだろう。作家と作家が顔を合わせる場として、読者が作家に直接感想を届ける場として即売会の会場を用意するだろう。
作品を描く作家がいる。作品を楽しみに待つ読者がいる。明確なことは言えないけれど、時代と歩調を合わせて変えるところは変えながら、いつまでも変わらずCOMITIAはあり続ける。COMITIAは永久に不滅です。『コミティア30thクロニクル』第1集はそう思わせる1冊だった。
【出典】
・コミティア実行委員会・編 『コミティア30thクロニクル』第1集、双葉社、2014/5/18発行
・COMITIA(コミティア)→公式サイト
・コミティア30thクロニクル→刊行告知ページ
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