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2014/05/24

ゆうべはおたのしみでしたね!(もふもふ的な意味で) 吉元ますめ『くまみこ』第2巻

『くまみこ』第2巻

 ナツの回想に出てくるまちが体操服を着ていることが多いのは単にそれ以外の服を持っていなかったからではないかいうことにようやく思い至った『くまみこ』第2巻。

 高校生の頃は田舎に住んでいた。そのため高校へは電車で1時間かけて通っていたが、高校の最寄り駅の近くにはジャスコがあった。当時はイオンではなくてジャスコだった。放課後は電車の待ち時間を潰すためにときどきジャスコへも行ったが、向かうのはもっぱら3階にある本屋だった。それはそうと、「次の電車が来るまでの待ち時間をジャスコで潰す」という行為が何となく田舎じみているように感じるのは、待ち時間を潰す場所が「ジャスコ」だからではなく、そもそもジャスコで時間を潰さなければならないほど電車を待つ時間が長いからだということに今気づいた。
 また、自宅から同じぐらいの距離に教習所がいくつかあった。何しろ田舎だったのでいずれも送迎バスで30分ほどかかるところにあったが、通う教習所を選んだ際の決め手はジャスコがそこそこ近くにあったからだった。
 といったようにジャスコ、今風にいうとイオンは田舎の住民にとって身近な商業施設である。ジャスコへ行けば小洒落たケーキが売っているし、31のアイスもマックもある。人はジャスコでスーパーよりも上位クラスのお買い物方法を学び、ファッションや音楽の流行を身に付け、やがてより都会に出たときのシミュレーションをする。ネットでは「ちょっとジャスコ行ってくる」とよくネタにされているが、真実なのでぐうの音も出ない。それほどジャスコは田舎民にとって切っても切れない関係にある。田舎民はジャスコで買った産着でくるまれ、ジャスコで買った子供服を着て育ち、ジャスコで買ったごはんを食べ、ジャスコで買ったランドセルを毎日背負い、ジャスコで買った参考書で勉強し、(中略)、ジャスコで買った線香で弔われる。ジャスコとはすなわち人生そのものである。

 などというどうでもいい話はさておき、中学生で巫女で田舎コンプレックスの塊のような少女・まちと、常識熊で保護者でもふもふの塊のようなクマ・ナツが、ガスも通っていないような山間の家で仲睦まじく暮らす様子を描いた『くまみこ』は2巻もまた田舎あるあるネタが目白押しだった。
 まちはナツが出した課題に従ってジャスコへ行ったり、カントリーヤンキーのひびきちゃんとファッションの中心地・しまむらへ行ったり、薪を割ってごはんを炊いたり、よくわからない目的で近所のお年寄りを集めたりする。
 また、まちはイオンへ行けばひとりパニックを起こし、しまむらへ行けば思わず「マチペディアさん」とでも呼びたくなるほどのしまむらに関するうんちくを披露し、炊飯器は使えないが冷蔵庫は使いこなせると豪語し、一応巫女らしい役目を果たしたりもする。
 まあ後半は田舎あるあるとはそれほど関係ないけれど、田舎暮らしゆえの苦労と楽しみ、巫女ゆえの特別な役割と面倒くささ、クマとともに生きるゆえのもふもふと(主にナツの)気苦労、それらがほどよい感じに調和してこの物語はできている。単にもふもふのナツがかわいい! 半袖体操服にブルマで薪割りするちびまちがかわいい! だけではないのがこのマンガのよいところだ。

 そして、何よりもこのマンガのいちばんの醍醐味は何かと泣いているまちの泣き顔だと思う。単行本カバー裏拍子の転んで泣いているまちを筆頭に、飯炊きに失敗しては泣き、店に入りたくないと言ってはガチ泣きし、癇癪を起こしては押し倒したナツとともに大泣きし、ヤンキーに小突かれては涙を浮かべる。何というかまあ嗜虐心を煽るよね。ナツでなくても責めてイジメたくなるよね。布団を被って泣き寝入りしているまちは本当にいい。
 などという変な虫が湧くからまちに対してナツが過保護になるんですね、わかります。

 田舎と都会のどちらが優れているという話ではない。どちらが不便だという話でもない。今やネットを使えばクマだってタブレットを買うことができる。まちとナツが愛する村にまちがいて、ナツがいて、だから2人は今日も楽しく暮らしている。

【出典】
・吉元ますめ 『くまみこ』第2巻 メディアファクトリー<MFコミックスフラッパーシリーズ>、2014/5/31発行
くまみこ(オフィシャルサイト) -吉元ますめ-→くまみこオフィシャルサイト
yoshimasu。→作者のブログ

【関連記事】
東北の田舎に暮らす巫女中学生とクマののどかな日常 吉元ますめ『くまみこ』第1巻

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