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2014/04/08

駆逐艦「雷」とともに生きた男たちの魂を見よ。 茶々畑。『少女が見たモノ』(艦隊これくしょん~艦これ~二次創作)

『少女が見たモノ』

 サークル「茶々畑。」の『少女が見たモノ』は旧大日本帝国海軍の駆逐艦「雷」と工藤俊作艦長を始めとしたその乗組員たちの史実を基にした物語である。

 艦これにおける雷(いかずち)といえば、姉妹艦である電(いなづま)とセットで愛でられたり、提督を甘やかすようなその台詞から「ダメ男製造機」の二つ名をほしいままにしたりと人気の高い艦娘の一人だ。そんな雷のモデルとなった駆逐艦「雷」は沈没した英駆逐艦「エンカウンター」の生存者を救っており(雷 (吹雪型駆逐艦) - Wikipedia)、電のモデルとなった駆逐艦「電」による英重巡洋艦「エクセター」の救出(電 (吹雪型駆逐艦) - Wikipedia)とともに戦時中の救助劇として知られている。『少女が見たモノ』ではその救出劇から雷が戦艦としての最期の時を迎えるまでの話と、艦娘として現世に転生する場面が描かれている。
 時は1942年3月2日。スラバヤ沖を航行中の雷は前日に撃沈したエンカウンターの乗組員が漂流しているところに遭遇する。敵である英国の兵士を殲滅せんと鬨の声を上げる雷の乗組員を前にして、だが艦長である工藤は漂流者を救助せよという命令を下し422名の命を救う。しかしそれから2年が経った1944年4月13日、雷は米国の潜水艦からの攻撃を受けて全乗員とともにグアム島の西の海に沈んだ。そして時は流れ21世紀の今、艦これというゲームで雷は艦娘としての生を受ける。

 このマンガの特徴は2つある。
 まずその描写。まえがきに「実在した人物が登場しますがそれらの言動は作者の妄想であり実際のものとは異なります。」とあるが、漂流する敵兵に対する日本兵の態度や工藤艦長の台詞回し、救助に当たった若き兵士がその2年後に当時を振り返って語った最期の独白など、本作に描かれた駆逐艦「雷」とその乗組員の姿からはまるでタイムスリップして見てきたかのような印象を受ける。
 次に雷の立ち位置。雷は艦娘の姿で登場するものの、ある種の守り神的な、ある意味で傍観者のような役割であり、乗組員と一緒に航海し、戦い、感情を共有することはできても、自身の意思で何かをすることは(ほぼ)できない。それゆえに雷のやるせなさが引き立てられ、また既に起こってしまった過去の出来事は変えることができないという現実を読者に突きつける。
 そうして結実したこの物語は史実をなぞったフィクションかもしれないが、かつてあり得た可能性の1つと見ることもできる。国を挙げて敵と味方に分かれた者同士は殺し合うしかないのか。人は本当にわかり合えないのか。その答えの一端がこのマンガでは描かれている。

 『少女が見たモノ』はpixivで本編のほぼすべてが公開されているが、pixivでは公開されていない作者あとがきを読むためだけでも現物を求める価値がある。

【出典】
・茶々畑あたる 『少女が見たモノ』 茶々畑。、2014/1/19発行
少女が見たモノ→本編がほぼすべて公開されている。
茶々畑。→サークル「茶々畑。」のブログ

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