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2014/04/13

もうやめて! いがみ合いながらもだんだん惹かれ合う「ぼっちな僕ら」のラブコメにリアルぼっちな僕らのライフはゼロよ! 志摩時緒『ぼっちな僕らの恋愛事情』第1巻

『ぼっちな僕らの恋愛事情』第1巻

 一条はじめは高校1年生。家業である甘味処のバイトに励んだ夏休み、明けて登校したら自分以外は全員彼氏彼女持ちになっていた。そこへまだフリーな身の上の二宮ちとせが転校してきて……。『ぼっちな僕らの恋愛事情』はリアルぼっちな高校生活を送ってきた僕らの傷を抉るような極甘のぼっちボーイ・ミーツ・ぼっちガールだった!

 志摩時緒という作家が今までに商業誌で描いてきたマンガでは主人公カップルは既に彼氏彼女として成立している。高校の吹奏楽部を舞台にした『7時間目の音符(ノート)』(芳文社刊)では先輩女子と後輩くんという既にできあがったカップルを主人公としていたし、『あまあま』(白泉社刊)では物語開始当初は中学生だったにもかかわらず各話が常に事後から始まる超絶リア充な主人公カップルを描いている。
 しかし、そんな主人公たちの壁殴り不可避なイチャラブを見せつける一方で、これから付き合おうとする初々しい恋愛模様を主人公の友人たちが描いていて、これがまた家屋倒壊必至なのである。メインディッシュとして恋人同士のイチャラブを提示し、デザートとして未来の恋人たちの赤面姿を描く。それが作者の得意技だと思っていた。『ぼっちな僕らの恋愛事情』を読むまでは。

 『ぼっちな僕らの恋愛事情』は前述のとおり主人公であるはじめとちとせ以外の登場人物は物語開始時点でカップルとしての相手がいる。『7時間目の音符』では恋人になると女子生徒が男子生徒のネクタイを着用するというぼっちをダークサイドに陥れるような風習があったが、『ぼっちな~』の主人公以外は彼氏彼女がいるという状況はぼっちをジェノサイドするための最終兵器であると言っても過言ではない。
「この教室の中で」「おまえだけ非リア充ってことだな」(p.6) アアアッ
「周りのせいにして自分から行動しなかったのははじめじゃん」(p.8) アアアッ
(もういいやぼっちのままで その方があれこれ考えなくて 気楽だし 平穏だし うん)(p.157) アアアッ
 もうやめて! リアルぼっちな僕らのライフはゼロよ!
 そうしたぼっちなはじめをいじる友人たちの台詞やはじめの独白をよそに、展開されるのはぼっちなはじめとぼっちなちとせの恋愛模様! なんてったってタイトルが『ぼっちな僕らの恋愛事情』なんだもん! 極めつけはいがみ合いながらもイチャイチャしているようにしか見えない表紙! うおお……お前もか……ブルータス!
 もう、ね。はじめとちとせの初々しさったらないわけですよ。ちょうどいいからぼっち同士で付き合えとクラスメイトたちにけしかけられては考えなしの言葉足らずで言い合いになり、お互いのプライベートな姿を見るという特別な時間の共有を経て仲直りするかと思いきやまた行き違いになり。そして何気にチョロいちとせ。はじめの連絡先を知りたがり、さらにはじめ自身を知りたがり。でもそれをはじめの方から見ると。「この前からちとせの態度が変わった気がする/気がついたら一緒に行動することが多くなったし」(pp.131-132)じゃねえよ! どう見てもフラグだろ! 男なんて女の子に連絡先を聞かれただけで「こいつ、俺に気があるんじゃね?」と思うようなかわいそうな生き物なのに「変わった気がする」ってお前なんなんだよ! ち○こ付いてんのか! まあ、そんな鈍感なはじめくんもやがて「なんかこいつが側にいるとくすぐったくて落ち着かない」(p.136)なんて思い始めるし、うん、もうダメ、読むに堪えない(顔を気持ち悪いまでにニヤニヤさせながら)。

 『7時間目の音符』や『あまあま』で世のラブコメスキーを悶絶の彼方に葬ってきた作者が放つ超弩級のティロ・フィナ○レ。『ぼっちな僕らの恋愛事情』はそういうマンガだ。

【出典】
・志摩時緒 『ぼっちな僕らの恋愛事情』第1巻、芳文社<まんがタイムKRコミックス フォワードシリーズ>、2014/4/27発行
SCARECROW→作者のサイト

【関連記事】
人は恋愛ぼっちでは生きられない? ぼっち同士な2人が描いた恋模様は――。 志摩時緒『ぼっちな僕らの恋愛事情』第2巻(完結)(2014/11/13追記)

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