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2014/02/07

すこし・ふしぎな特徴を持った女の子たちが日常を送る姿にどうしようもなく惹かれる。 すこやかペンギン『針ヶ谷さんと右向き三角』『セーブはこまめにしたいのに』

『針ヶ谷さんと右向き三角』と『セーブはこまめにしたいのに』

 サークル「すこやかペンギン」によるC85の新刊『針ヶ谷さんと右向き三角』と続くコミティア107の新刊『セーブはこまめにしたいのに』には、ネットやゲームでおなじみのある特徴を持った女の子が登場するという共通点がある。

 『針ヶ谷さんと右向き三角』は文字どおり右向きの三角形が体の正面に浮き出た針ヶ谷さんと、その三角がたまたま見えてしまった主人公の巻尾くんの物語だ。巻尾くんとは1年前も同じクラスだったのになんだか印象の異なる針ヶ谷さん。そんな針ヶ谷さんに付きまとう丸囲みの右向き三角形はネットでよく見かけるあれなのか。でも針ヶ谷さんはちゃんと生きているではないか。ではあれはいったい……。
 このマンガ、まず表紙がいい。ジト目でこちらを見据える針ヶ谷さん。その前には丸囲みの右向き三角。ついついクリックしてみたくなる。タイトルの文字もいい。「右向き三角」の「右」と「三」の横棒が普通の明朝体ではなくて矢印になっている。
 そして話がいい。主な記録媒体がカセットから円盤やハードディスクに変わっても、右向き三角はとある意味を示す変わることのないアイコンだ。なぜ三角形なのか、なぜ右向きなのかはわからない。とにかく右向き三角を見れば人はその先が見たくなる。マンガの表紙を開いて物語を追いたくなる。まるで魔法が込められているかのように表紙をめくって先を読みたくなるその感覚は「すこし・ふしぎ」の意味でのSFをまさに体現しているかのようだ。
 そうして辿り着いた先、物語の最後の最後のページを開いたらもうニヤニヤせずにはいられない。これはやられた! と思った。そしてまた表紙へ戻る。右向き三角を押す。最後の最後まで読み通してやられた! となる。この「やられた!」という感覚、それを何度も味わいたくて繰り返し読んでしまう。何とも不思議な中毒性を秘めた動……静画、『針ヶ谷さんと右向き三角』はそんなマンガだ。

 最近のゲームはわからないが、昔のRPGはお城に行って王様に話しかけたり薄暗い洞窟の中で燦然と輝く魔方陣を見つけたりしてそれまでの冒険を記録していたものだった。『セーブはこまめにしたいのに』は昔のRPGのように寝る前にセーブを行わないとその日の記憶を持ち越せない女の子が主人公のマンガだ。
 セーブをした日の記憶はいつまで経っても薄れないが、セーブをしない日の記憶は永遠に失われてしまう。それだけでもやっかいなのに、1年間に記憶をセーブできる回数には上限があるという枷を嵌められている。本作の主人公である森田さんはそういうやっかいな体質(?)を持った女の子だ。彼女がいったいいつそのことに気づき、どうやって折り合いを付けてきたのか興味深いところだが、劇中では詳しく語られていないため彼女が重ねてきた苦労や努力は想像するに任せられている。
 そんな森田さんに気になる男の子ができた。よく話しかけてくるクラスメイトの墨屋くん。森田さんもお年頃の女の子なれば何かと近づいてくる彼に興味を抱くようになるのも不思議はない。そうして覚えておきたい言葉が増える。記憶に残したい思い出が増える。いきおいセーブ日数も増える。でも1年にセーブできる回数は決まっている。そこで森田さんはどうするか。
 この物語の森田さんはどこまでもポジティブだ。記憶がセーブ制になっていても悲観することなく、その事実を受け入れ、どうやって克服すればよいかを考え、みんなと同じように生きている。そんな森田さんだからこそ墨屋くんは吸引されるのではないか。セーブしないと今日の思い出を明日に持って行けない森田さんの不思議は、そのこと自体よりもそのことと共存していることの方にあるような気がした。

 「ある特徴」などと無理矢理括ったような感じがしないこともないけれど、『針ヶ谷さんと右向き三角』や『セーブはこまめにしたいのに』のような日常と隣り合わせのすこし・ふしぎがすこやかペンギンの魅力であることは間違いない。

【出典】
・ふかさくえみ 『針ヶ谷さんと右向き三角』 すこやかペンギン、2013/12/30発行
・ふかさくえみ 『セーブはこまめにしたいのに』 すこやかペンギン、2014/2/2発行
すこやかペンギン→作者のサイト。

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