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2014/02/01

幼なじみBLも姉×弟の禁断の関係もいいけれど、男も女もどっちもイケちゃう女の子×女の子っていいよね! 仙石寛子『夜毎の指先/真昼の果て』

『夜毎の指先/真昼の果て』

 幼なじみBLと姉×弟と不倫百合を1冊の本としてまとめられるマンガ家を答えよ、という問いがあったら仙石寛子の名前を真っ先に挙げる。

 同人、商業を問わずこの作者のマンガには様々な恋の形、愛の形が描かれているが、『夜毎の指先/真昼の果て』に収められている3つの作品も作者の本領が発揮された物語となっている。

 『夜毎の指先』は「毎度毎度の姉弟」もので、大学生の姉と高校生の弟を描いたマンガだ。弟がソファで寝ているときに行った姉の行動のせいで姉の気持ちに気づいてしまった弟の視点から、実の姉弟による禁断の恋がストーリー形式で綴られる。その想いをずっと知られずに抱いていたかった姉と、家族としての姉を大事にするがゆえにその想いに応えようとする弟の、葛藤や温度差。親も友だちも登場するのに、まるで姉と弟の2人しかいないように感じられる世界。姉の方が少しだけ大人で、弟の方が少しだけ子どもで、その些細な差が姉弟のお互いに対する想いの埒外へ目を向かせるか向かせないか。そういった微妙な表現をするのが作者はひどく上手いなあと思う。
 ところで、この姉弟には名前がない。名字は何回か出ているが(p.77の回想シーンでは「柏木」だが、p.139では「清水」になっている。回想と今との間で何かあったのだろうか)、見落としがなければ名前が出たことはない。姉弟がお互いを呼ぶときも「あんた」「姉さん」であり、一度も名前で呼びかけていない。そのことが姉弟の2人だけの世界というこの物語の特徴をいっそう際立たせているように思う。

 もう1つの表題作『真昼の果て』は芳○社では叶わなかったBLもので、男男女の幼なじみ3人組のうち少年と少女の2人が付き合うことになったら余った少年がカップルになった少年に対して胸に秘めた想いを告げるところから物語は始まる。幼なじみなんていうこれまた狭苦しい世界でそんな面倒な関係にならなくても、と思うが、そんな面倒な関係を3人の視点から作者お得意のストーリー4コマで描いている。
 それにしても少年と少女の2人から好きと言われ、板挟みになってしまった少年のどこをいったい2人は好きになったのか。客観的に見ると優柔不断でグジグジと思い悩み、時に女々しいこの少年のどこを2人はよいと思ったのか。それには3人が幼なじみだという背景を持っていることを差し引くことはできないだろう。高校生になるまでの時間をともに過ごし、喜怒哀楽を共有してきた3人。そんな3人のうち2人の関係が変わってしまったことを知ったら、残った1人が何もしない方がいいとは思いつつも何かせずにはいられないのも無理もないことだろう。幼なじみという変わらない事実、恋人という新しい関係、いつかは変わってしまうかもしれない気持ち。マンガには描かれていないが今高校生の3人が大人になったとき、高校生だった頃の自分を振り返って甘酸っぱい気持ちになるんだろうなと考えると羨ましいと思わずにはいられない。

 描き下ろしの『どうせまた、朝が来るから』は会社の先輩とお嫁に行ったばかりの後輩の朝チュン不倫百合で、男も女もどっちもイケちゃう女の子×女の子の関係っていいよね! と声を大にして言いたくなるマンガとなっている。男も女もどっちもイケちゃう女の子×女の子っていいよね! 大事なことなので2回言いました。

 繰り返しになるが、BLとか姉弟とか百合とか、この本ではないけれど人×タコとか人×青虫とか人×雪女とか、あえて普通という言葉を使うが「普通」の枠に収まらない恋や愛の形を描くのが作者は本当に上手いなあと思う。そしてその関係の特異性だけではなく、好きだから好き、でもそれだけじゃダメ、という単に好き好きに終始せず、その関係に一歩も二歩も踏み込んで心理や心情を紡いでゆく。そういうところに自分を含む仙石マンガの読者はぞっこんになっているのだと思う。

【出典】
・仙石寛子 『夜毎の指先/真昼の果て』 白泉社<楽園コミックス>、2014/2/5発行
空豆人間→作者のサイト
大切なものは目に見えないんだよ――近すぎて見えない一番星。 仙石寛子『一番星のそばで』→先月出版された4コママンガの感想

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