歩み寄る恋心と本気で叱ってくれる大人が身近にいることの幸せ。 佐々木ミノル『中卒労働者から始める高校生活』第2巻
みんなわかってくれないと嘆いているうちは相手だってわかることなどできはしない。本当にわかることなどできなくてもお互いにわかろうとすることはできる。そこに恋が生まれる。生まれ育った背景も生き方も違う2人が惹かれ合う、これぞ青春、これぞラブコメ。『中卒労働者から始める高校生活』2巻はそんな印象を抱いた1冊だった。
大学全入時代と言われて久しい。そんな時代にあってこの物語の主人公である真実(まこと)は中学を卒業するとすぐに社会人として工場へ勤めに出て、その3年後、妹とともに通信制高校の生徒として高校生活を送り始めることになる。父親代わりに妹を養う必要があるという境遇があったかもしれないが、それは彼が納得の上で自分で行った選択の結果であり、彼以外の誰かがそのことをとやかく言えるものではない。
だが、真実は他でもない自分自身で自分を追い込んでしまっている。「それに引きかえ俺はって自分のダメなとこだけに目がいくんだ」(p.72)と中卒である自分を言葉で追い詰めていく。1巻で真実が担うはずの役割を突然現れた大卒の新人があっさりと奪っていったときもそうだったし、マンガでは描かれていないところでもきっと真実はことあるごとに精神的な自傷行為に走っているのだろう。
そんな真実が恋をした。中卒の自分とは住む世界が違うと見なしているお金持ちのお嬢様で、たまたま同じタイミングで通信制高校に入学した莉央を好きになった。その恋が真実の成長を加速させる。
2巻で描かれる物語はまさに怒濤だ。胸糞の悪い導入から始まり予想外のニヤリング展開を経て、再び胸糞の悪い思いをした後に訪れる心と心のぶつかり合い。なぜ真実は自分で壁を作ろうとするくせに困っている他人を放っておけないのか。どうして真実はわざわざ面倒な方を選ぶのか。一見矛盾するような行動と思考は彼に何をもたらすのか。
なんてことはない。それこそが真実が無意識に最適と認めた、自分を成長させるための方法なのだろう。有り体に言えば真実はバカだ。一度両極端に振れて自分で確かめてみなければ納得できない。だが、時には誰かを巻き込んで、誰かを傷つけて、それはようやく彼の腑に落ちる。そうして真実は一歩前進する。
そして、もう一つ、真実の成長を支える者たちがいること。「自分(テメエ)が自分を決めつけてんだ」(p.156)と看破し、真実のために本気で叱ってくれる大人が真実の身近にはいる。真実が紡ぐ言葉をただ静かに聞いてくれる相手が真実の同級生にはいる。特に前者のような大人は本当に大人になってしまった大人にはそう簡単に巡り会えるものではない。なんだかんだ言っても真実はまだ20歳にもなっていない。そんな若造が作った壁をあっさりと乗り越えて頭ごなしに叱ってくれる大人がいること、それが幸せだったと気づく頃、少年は本当の大人になっているのだろう。
ところで、「ブラコンの作り方2」で安定のアホの子っぷりを発揮していたとはいえ2巻は妹成分がやや少ないように感じた。3巻は妹ちゃんの出番がマシマシになっているといいなあ……。あと、最後に炸裂したとんでもねえ予告の陰に隠れて泣いているかもしれないあの子が気になる。そんな感じで3巻がとても待ち遠しい。
【出典】
・佐々木ミノル 『中卒労働者(ワーカー)から始める高校生活』第2巻、日本文芸社<ニチブンコミックス>、2014/2/10発行
【関連記事】
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