骨の髄まで愛してる、もとい、ぱんつのゴムまで恋してる。 深山おから『俺のぱんつが狙われていた。』第1巻
好きになった相手のぱんつを欲しがらずにはいられない。そんな特殊性癖を持った女の子と、その女の子にぱんつを狙われる男の子と、その男の子が想いを寄せている女の子とのトライアングル・ラブコメディである『俺のぱんつが狙われていた。』、その1巻が遂に登場した。ここ半年ほど月刊誌での連載を楽しく読んできたけれど、単行本としてまとめて読むとこのみちゃんもひいろちゃんも村上くんも思うようにいかない恋に悩み悶える姿がかわいくて仕方がない。新連載として始まった頃から単行本になるのを今か今かと穿き古してすっかり伸びきったぱんつのゴムのように首を長くして待ち続けていた甲斐があった!
「今日のぱんつは何色ですか?」と尋ねられた経験があるだろうか。少なくとも自分にはない。だいたい世の男なら当然ないだろうと思う。ぱんつの色を尋ねると言えば、「げへへへへ……姉ちゃんぱんつ何色?」と無差別にかけた電話でおっさんが姉ちゃんに対して行うものと相場が決まっている。じ、自分はそんなことしないよ!? だいたい知らない姉ちゃんのぱんつの色なんて知ってどうするというのだ。実はおっさんは衣料品メーカーのマーケティング担当か何かで、ぱんつの流行色を調査する人なのではないだろうか(メーカーの人に謝れ)。
ところがである。『俺ぱん』では主人公の少年がヒロインの少女に「今日のぱんつは何色ですか?」(p.36)と質問される事案が発生する。連載でその回を読んだとき、以下のようなツイートをしていた。
某誌の『俺のぱんつが狙われていた。』2枚目(第2話)がおもしろすぎて悶絶している。ヒロインが主人公(♂)に「今日のぱんつは何色ですか?」って聞くとか普通逆だろ!(それもどうか) pic.twitter.com/Rm1qCvrMPp
— しーな (@sikatanaisi) 2013, 8月 28
……悶絶していたらしい。
また、事案はこれだけではない。そもそもこのマンガは主人公の少年・村上くんはヒロインの少女・このみちゃんに「私にっ/村上くんのぱんつをください!!」(p.4)という愛の告白を受けるところから始まっている。一体どこの誰が好きだからぱんつをくれという告白を受けたことがあるだろうか。少なくとも自分にはない。そもそも告白自た……それは置いておくとして、普通であれば誰もそんな経験はないだろう。なお、連載でその回を読んだとき、以下のようなツイートをしていた。
昨日売り某誌の新連載『俺のぱんつが狙われていた』がおもしろかった。憧れの女の子との少女マンガみたいな恋を夢見る主人公が好きな相手のぱんつが欲しくなる体質の女の子に好かれる話。どこかで見た名前と絵柄だと思ったら薄い本がうちにあったわ。 pic.twitter.com/ggxJ1ziwO5
— しーな (@sikatanaisi) 2013, 7月 28
……薄い本があったようだ。
しかし、村上くんはこのみちゃんからそんな変態チックな告白を受けた。村上くんには想い人がいる。その娘は同じクラスのひいろちゃんというおさげ女子。同じ小説を読んで同じ場面を好きと言ってくれる女の子。そんな彼女との少女マンガのような理想的な恋愛をすることが村上くんの望みだ。村上くんは隠れ少女マンガファンである。少女マンガに描かれているような理想の純愛をひいろちゃんとすることを思い描いている。
だが、そんな少女マンガ的な恋愛を体現していたのはこのみちゃんの方だった。このみちゃんは大好きな村上くんのぱんつを手に入れてそのぬくもりに顔を埋めずにはいられないという変態性癖の持ち主である。いや、性癖というのは語弊があるかもしれない。このみちゃんは自分の変態性を認識していて、直したいと思っている。村上くんのぱんつを欲しがるというやっかいな癖を直して村上くんと普通の恋愛をすることを切望している。それなのに、村上くんへの想いが高まるとトランス状態に陥り、このみちゃんはいつの間にか村上くんの家のベランダに忍び込んだりズボンを脱がすことなくぱんつだけかすめ取ったりする。そこにはこのみちゃんの意思は介在していない。このみちゃんはまるで空気を吸うように村上くんのぱんつを欲し、時間操作の魔法でも使えるかのように村上くんのぱんつを奪う。それはもはや性癖などという単純な言葉では表せないものだ。
そうして物語は動き出す。村上くんはこのみちゃんの恋の告白を受け、好きになった相手のぱんつを欲しがるという衝撃の告白を受け、その少女マンガに描かれるヒロインのように健気に、一途に自分を想う気持ちを知るにつけ、このみちゃんに仏心を出した。このみちゃんをこっぴどく振って自分に近づくことを拒絶することもできただろうに、村上くんはそうしなかった。このみちゃんの表情が自分に対する感情に合わせてくるくる変わるから。このみちゃんが好きなのは決してぱんつだけではないと思い知ったから。このみちゃんとなら自分が想像しているような理想の恋をすることができるのではないかと思わせられてしまったから。このマンガ随一の乙女キャラである村上くんの琴線にこのみちゃんが触れてしまったから。村上くんと普通の恋愛をしたいがために性癖の発現を必死に押さえ、あくまで普通に接しようとするこのみちゃんの姿を村上くんがいじらしいと思ってしまったとして誰が責められようか。
そんな村上くんだから、このみちゃんも、そしておそらくひいろちゃんも村上くんのことを好きになったのだ。
それにしても、こんなに男物のぱんつが大量に描かれたマンガも珍しい。ページを捲ればぱんつぱんつの大嵐。それが全部男物。全部村上くんのぱんつ。しかもブリーフでもなければ今をときめくボクサーパンツでもなくトランクス的なぱんつ。マンガの中でこんなにトランクスを見るのはボールを7つ集めるとドラゴンが現れて願いを叶えてくれちゃう某バトルマンガ以来ではないだろうか(注・あちらのトランクスは非ぱんつです)。
物語が進むにつれて男物のぱんつの露出が増える。
物語が進むにつれて少しずつこのみちゃんが村上くんを好きになったきっかけが明らかになる。
物語が進むにつれてもう1人のヒロインであるひいろちゃんが2人に対して複雑な感情を抱くようになる。
このみちゃんの普通の恋に焦がれるぱんつな恋を応援しても、ひいろちゃんとの少女マンガの王道のようなキラキラした恋を応援してもどちらかが泣くことになるのなら、いっそぱんつの応援でもした方がいいのだろうか。そう思わなくもないけれど「ぱんつを応援」の意味がわからないので、ひいろちゃんのお友達でなにかとひいろちゃんと一緒にいるツインテちゃんの百合恋を応援しようと思う。
あれ? もしかして『俺ぱん』って村上くん、このみちゃん、ひいろちゃん、ツインテちゃんの四角関係なのでは?
【出典】
・深山おから 『俺のぱんつが狙われていた。』第1巻、アスキー・メディアワークス<電撃コミックスNEXT>、2014/1/27発行
・kirazu→作者のサイト。
【関連記事】
・ぎにゅうは必要悪! ちっぱいは正義! kirazu『ぎにゅうのあの子はちっぱいがーる』『ぎにゅうのあのこはちっぱいがーる2』
・ちっぱいあの子はぎにゅうがーる再び! kirazu『ぎにゅうのあの子はちっぱいがーるのまとめ』(2014/5/6追記)
・俺ぱんの原点を見よ! ぱんつを巡るもう1つの物語。 kirazu『俺のぱんつが狙われていた~村田くんと柚子ちゃん~』(2014/5/6追記)
・ぱんつ娘の悲痛な決意とガチ百合っ娘の遠大な野望に僕らは悶える。 深山おから『俺のぱんつが狙われていた。』第2巻 (2014/10/26追記)
・私のちくびが狙われていた。チョロい後輩と頭のおかしい先輩の乳首を巡る抱腹絶倒の百合コメディ! kirazu『センパイ、おかしなこと言わないで!』(2014/11/24追記)
・心が洗われるような素晴らしさ! 「10秒見つめ合えれば恋人になれる」という説を信じた猫目の女の子と憧れの委員長との百合コメ4コマ kirazu『君を10秒見つめたい』(2015/5/6追記)
« 今年読んだマンガもおもしろいものばかりだったと「今年のマンガの話をしよう #俺マン2013 」に投票して改めて思った。 | トップページ | 艦これのマップには本当にあった思い出がたくさん詰まっているのです。 ナノハチ『うんちくかんこれ2 マップ解釈っぽい?』(艦隊これくしょん~艦これ~二次創作) »
「マンガ」カテゴリの記事
- 【アイうたBD発売アドカレ】タターン! AIやロボットが登場するマンガを紹介します♪ その2 #アイの歌声を聴かせて(2022.07.26)
- 【アイうたBD発売アドカレ】タターン! AIやロボットが登場するマンガを紹介します♪ その1 #アイの歌声を聴かせて(2022.07.21)
- 時に生々しく、時にフェティッシュに。アパートの一室で育まれた恋や禁断の恋などを描いた珠玉の短編集! 時計『AV女優とAV男優が同居する話。』(2016.10.11)
- 恋する乙女はめんどくさいの! 宇佐美さん安定の片想いに部長の幼なじみ登場と、美術部は今日も平和です。 いみぎむる『この美術部には問題がある!』第6巻(2016.06.25)
- 誰が敵で誰が味方なのか。誰が悪で誰が正義なのか。劇場版『[新編]叛逆の物語』を初めて見たときのドキワクを思い出させてくれる物語。 ハノカゲ『魔法少女まどか☆マギカ[魔獣編]』第2巻(2016.06.16)
「感想」カテゴリの記事
- 【アイうた感想】劇場アニメ『アイの歌声を聴かせて』がどうして刺さったのかを5つの要素で考えてみた #アイの歌声を聴かせて(2022.02.28)
- 時に生々しく、時にフェティッシュに。アパートの一室で育まれた恋や禁断の恋などを描いた珠玉の短編集! 時計『AV女優とAV男優が同居する話。』(2016.10.11)
- 恋する乙女はめんどくさいの! 宇佐美さん安定の片想いに部長の幼なじみ登場と、美術部は今日も平和です。 いみぎむる『この美術部には問題がある!』第6巻(2016.06.25)
- 誰が敵で誰が味方なのか。誰が悪で誰が正義なのか。劇場版『[新編]叛逆の物語』を初めて見たときのドキワクを思い出させてくれる物語。 ハノカゲ『魔法少女まどか☆マギカ[魔獣編]』第2巻(2016.06.16)
- IT系ブラック企業の社畜がこんなに可愛いわけがない。読むと「今日も一日がんばるぞい!」という気力がもりもり湧いてくる(かもしれない)、すべての働く人への応援マンガ! ビタワン、結うき。『いきのこれ! 社畜ちゃん』第1巻(2016.05.31)
「商業誌」カテゴリの記事
- 時に生々しく、時にフェティッシュに。アパートの一室で育まれた恋や禁断の恋などを描いた珠玉の短編集! 時計『AV女優とAV男優が同居する話。』(2016.10.11)
- 恋する乙女はめんどくさいの! 宇佐美さん安定の片想いに部長の幼なじみ登場と、美術部は今日も平和です。 いみぎむる『この美術部には問題がある!』第6巻(2016.06.25)
- 誰が敵で誰が味方なのか。誰が悪で誰が正義なのか。劇場版『[新編]叛逆の物語』を初めて見たときのドキワクを思い出させてくれる物語。 ハノカゲ『魔法少女まどか☆マギカ[魔獣編]』第2巻(2016.06.16)
- IT系ブラック企業の社畜がこんなに可愛いわけがない。読むと「今日も一日がんばるぞい!」という気力がもりもり湧いてくる(かもしれない)、すべての働く人への応援マンガ! ビタワン、結うき。『いきのこれ! 社畜ちゃん』第1巻(2016.05.31)
- 現在進行形の青春と過去の青春が錯綜する高校生たちの物語 佐々木ミノル『中卒労働者(ワーカー)から始める高校生活』第6巻(2016.06.01)
この記事へのコメントは終了しました。
« 今年読んだマンガもおもしろいものばかりだったと「今年のマンガの話をしよう #俺マン2013 」に投票して改めて思った。 | トップページ | 艦これのマップには本当にあった思い出がたくさん詰まっているのです。 ナノハチ『うんちくかんこれ2 マップ解釈っぽい?』(艦隊これくしょん~艦これ~二次創作) »
コメント