豊満な胸も露わなパツンパツンの衣装で戦う出戻り魔法少女の成長と姉妹愛の物語 しよたこん『Re:魔法少女』第1巻
妹を救うため7年ぶりに魔法少女として立ち上がった女子高生が主人公の『Re:魔法少女』は、魔法少女の衣装がデザインもサイズも小学生当時のままのため魔法少女に変身すると胸もパンツも露出した際どい格好になってしまったり、愛らしい子犬だったはずのマスコットキャラが見事なおっさん犬になっていたりと、いい意味で従来の魔法少女の概念をぶち壊してくれる。
最近の魔女っ娘ものには少女たちが過酷な運命を背負っていたり、少女たちに夢と希望を与えるはずのマスコットキャラが悪徳業者顔負けの契約を迫ったり、主要キャラの1人が3話目で凄惨な最期を遂げたり、主人公が最終話まで魔法少女にならなかったりと、従来の枠に収まらないような設定やストーリーを持つ作品が見られる。この『Re:魔法少女』も昔ながらの魔女っ娘ものとは一線を画する物語の1つだ。
魔法少女クラン・ランジュとして戦いに明け暮れ、平和の訪れとともに引退してから7年、今では普通の女子高生として過ごす栗野リンの下へかつての盟友であるいぬたろうさんが現れる。当初リンの妹であるランが拾ってきた体で登場したいぬたろうさんをリンは認識できなかったが、それも無理からぬこと。7年前は小学生だったリンがあらゆる運動部の助っ人として八面六臂の活躍を見せる快活な女子高生になっていたように、7年前は愛くるしい子犬だったいぬたろうさんも今では太ましいおっさん犬に成長していたからだ。そんな再会から紆余曲折を経てピンチに陥ったランを助けるため、リンは7年の時を経て再び魔法少女になることを決意する。だが、いざ変身すると魔法少女の衣装は往時の姿を留めていて、胸は収まらないわ丈が短くてミニスカート状態どころかパンツ丸見えだわで、さながら痴女の様相を呈することになる。それでもリンは形振り構わず妹の救出へ向かい――。
マスコットキャラが老けるとか魔法少女の服が小さすぎて露出狂になるとか、一見すると出オチ感満載に思えるこのマンガが決してそれだけに留まらないのは、ひとえに妹の存在のおかげだろう。リンが以前魔法少女だったときとほぼ同じ年齢のランがリンの代わりに魔法少女になっていれば、老け顔のマスコットはどうにもならないとしても魔法少女服が小さくて困ることはない。それをさせないのはリンがランを戦いに巻き込ませたくないからだ。リンは魔法少女としての戦いを通じて多くの人を助ける一方で自らの人生に関しては大切なことをいくつも失っていることが語られている。妹には自分と同じ気持ちを味わわせたくない。その一心でリンは再び魔法少女の衣装をまとうことを決心する。それはとても孤独な戦いだ。誰かを助けることで感謝もされるだろうが、魔法少女の生き方を選ぶことは再び何かを失うことを意味している。それは女子高生としての青春かもしれないし、もっと大きなもの、リン自身の命かもしれない。それでもリンは何の見返りがなくても魔法少女に戻った。ただ妹を守るため。ただ妹の笑顔を守るため。そこにはリンがランに対して抱く、ある後ろめたい想いがあるからでもあるが、ただ純粋に妹を守りたい。ありし日の魔法少女クラン・ランジュを知る者が今のリンが変身した魔法少女を見て彼女と認めてくれなくてもいい。ただ妹が姉である自分を認めてくれさえすれば、人を守るために、人の笑顔を守るために自分が傷つくことを厭わない。それはとても孤独な戦いだが、ランがリンに笑いかけてくれる限り、リンは孤独ではない。リンが傷つけばランが悲しむことにも、リンは気づいている。かつて強大な敵と孤独に戦っていた魔法少女の姿は今はもう、ない。そうそう、すっかりメタボないぬたろうさんもいるし。
いつか小学生だった魔法少女は7年の時を経てすっかり女子高生になり、妹を守るため、人々を守るため、パツンパツンの衣装に身を包み豊満な乳を振りかざして敵と戦う。いつか子犬だったマスコットは7年の時を経てすっかり成犬になり、まるで我が子の成長に寄り添う父親のように相棒の魔法少女の力となる。このマンガは露出過剰な出戻り魔法少女の話であり、少女の成長譚であり、姉妹愛の物語だ。
といった感じにぐだぐだと綴ってきたが、やはり魔法少女と言えば女子小学生か、せいぜい女子中学生がいいのではないかと思うんだけどね。女子高生では薹が立ちすぎているのではないかと思うんだけどね。そういう意味で『Re:魔法少女』は世に登場するのが7年遅かったのではないかと思うんだけどね。まあ、それはそれで。
【出典】
・しよたこん 『Re:魔法少女』第1巻、アスキー・メディアワークス<電撃コミックスNEXT>、2013/12/21発行
・電撃D-MANGAオンライン | Re:魔法少女→連載中。
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