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2013/10/20

すこし・ふしぎなマンガが奏でるオルゴールの音色に郷愁の念を感じずにはいられない。 すこやかペンギン『蒼海ドロップス』

『蒼海ドロップス』

 『蒼海ドロップス』はなんとも不思議なマンガだ。なにしろ手でオルゴールの金具を回さないと話が進まない。逆に金具を回すとマンガに穿たれた穴に合わせてオルゴールが台詞を奏でる。『蒼海ドロップス』はそんなマンガだ。

 同人マンガとして描かれた『蒼海ドロップス』は本の形状をしたマンガと異なり細長い短冊を連ねた形をしている。ところどころに穴の開けられたそれをオルゴールに仕掛けた後、金具を手で回すことで物語が進む。それと同時に穴に合わせてオルゴールの音色が響き渡る。マンガの台詞のある部分は印刷されているため、もちろんそれ単体でマンガとして読めないことはない。ただ、それでは『蒼海ドロップス』は半分しか読むことができない。
 そもそも『蒼海ドロップス』は縦に数コマ並んだ短冊が横に繋がった厚紙として頒布される。『蒼海ドロップス』をちゃんと読もうと思ったらオルゴールにかける必要があるだけでなく、『蒼海ドロップス』を読もうと思ったらまず短冊をミシン目で切り離した後、縦に繋いで一綴りにする必要がある。読者にマンガの最終工程とオルゴールでの演奏を委ねるマンガ、それが『蒼海ドロップス』の際立った特徴の1つだろう。

『蒼海ドロップス』

 そして、その手間をかける甲斐が『蒼海ドロップス』にはある。
 話はある女の子が空から落ちてきた蒼い色のドロップを拾うところから始まる。そしてもう1人、言葉の通じない女の子が現れる。ドロップを拾った女の子がかつてどこかで会った感じのする不思議な女の子と繰り広げる、すこし・ふしぎな冒険譚。『蒼海ドロップス』はそんな物語だ。
 ページを繰っていくと(オルゴールを回すと?)2人の冒険は進む。2人に合わせてオルゴールが鳴る。『蒼海ドロップス』の紙面にある穴はオルゴールのための楽譜であり、絵の一部でもあり、また、不思議な少女が操る言葉であり、2人の少女が共有したいつかの記憶でもある。

 『蒼海ドロップス』はなんとも不思議なマンガだ。オルゴールを回すか回さないかだけでなく、早く回すか遅く回すかによっても印象が変わってくる。物語の形成だけでなく、ページをめくる(という言い方が正しいかどうかはさておき)方法も読者に託されている。
 少女2人の小さな冒険が懐かしい。オルゴールというローテクの音色が懐かしい。そして、その懐かしさを感じさせる源が物語だけでもオルゴールだけでもないことは金具を手回ししないと気づかない。『蒼海ドロップス』はそんなマンガだ。

【出典】
・ふかさくえみ 『蒼海ドロップス』 すこやかペンギン、2013年発行
すこやかペンギン→作者のサイト。

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