挫折を経験したカメラマンの再起と教え子たちとともに成長する姿を描いた文化系部活マンガ。ラブコメもあるよ! あさのゆきこ『閃光少女』全3巻
職にあぶれていたプロカメラマンのハマノが昔なじみの伝手で高校の写真部で顧問をすることになる。そこでハマノはヒロインのヒカリを始めとした生徒たちと出会い、ともに成長し、写真に対する認識を新たにしてゆく。
写真とは何か。写真を撮るとはどういうことか。『閃光少女』はハマノやヒカリたち写真部員の高校生の成長を通じて写真を撮ること、ひいては人と向き合うことの楽しさとほろ苦さを描いた文化部マンガだ。
ここ数年、文化系の部活動を舞台にしたマンガの躍進がめざましいが、『閃光少女』の特徴は生徒ではなく顧問を主人公に据えていることだ。ガムテープでがんじがらめにしてまでカメラを一度封印した男が、高校の写真部の顧問として生徒たちに技術や心構えを教える。しかし、それが一方的な上から目線で、単に生徒たちの成長を見守るだけの話だったら、この物語はこれほどおもしろいものにはならなかっただろう。ハマノは写真の撮り方を教えはするが、生徒たちを導いているのではない。ハマノもまたヒカリを始めとした部員たちに教えられ、忘れていた感覚を呼び覚まされている。
はたして写真を撮るとはどういうことか。
料理をよりおいしそうに見せる撮り方、定点観測、ゴシップ写真、アナログとデジタルのそれぞれの良さ、風景、星空、人物などなど。どのように撮るかだけでなく、どう演出するか、どのタイミングでシャッターを切るか。ありのままを撮るか、狙った画にするか。ハマノは生徒に教えるのと同時に自分に問いかけ、読者にも問いかけてくる。いったいそのカメラで何を撮りたいのか。それで自分はどういう想いを抱くのか。
繰り返しになるが、ハマノは一度カメラを置いている。好きなこと、得意なことを仕事にできることは僥倖なように思える。ただ、どんな仕事もそうであるように、仕事は楽しいことばかりではない。特に、写真のようにその人の技術やセンスが問われる創作活動、芸術分野の仕事をしていれば、そのギャップは計り知れないだろう。
ハマノは、だが、部活動の顧問という仕事を通じて、未来に伸びゆく高校生たちの写真に取り組む姿勢、かける情熱、そして見せる感情に突き動かされた。あるときは生徒たちと大人げない喧嘩をし、あるときは生徒たちと同じ目線で部活動に入れ込み、あるときは悔しさをぶり返しそうになりながらも背負うものの大きさに気づいて自ら立ち上がり、またあるときは自分に恋心を寄せる少女の光を頼りに深海から浮上する。写真を撮ること、写真を見た人々が心動かされること、そんな彼らの笑顔がまぶしいこと、そしてそれらが写真にまつわる楽しさの源泉であることを思い出し、彼は再び歩き出した。
このマンガは第1話のエピソードを最終回で引き合いに出すという円環構造をしているが、ハマノが当初持っていた悩みは目下別の主のところにある。作中の言葉を借りれば、そんな愛しい人の悩みも苦しみもそして喜びも全部ひっくるめて、彼らは欲しいものや大好きなものをこれからも写真に撮り続けるのだろう。
写真は今でこそ携帯電話やスマホのカメラで気軽に撮ることができる。そこでは多くの場合、ただ単に記憶の代わりに今を記録し、メモ代わりに今を切り取って残すだけで、それ以上のことを考えてシャッターを切ってはいないとのではないかと思う。だが、大学によっては専門の学科があるように、写真は芸術の一分野であり、素人にはなにやら小難しいものでもある。それでもこのマンガを一度でも読むと、ハマノが写真にかける生き様に、ヒカリたちが写真にかける高校生らしい憧れに感化されずにはいられない。
書を捨てよ、カメラを携えて町へ出よう。
【出典】
・あさのゆきこ 『閃光少女』第1巻 メディアファクトリー<MFコミックスフラッパーシリーズ>、2012/10/23発行
・あさのゆきこ 『閃光少女』第2巻 メディアファクトリー<MFコミックスフラッパーシリーズ>、2013/2/23発行
・あさのゆきこ 『閃光少女』第3巻 メディアファクトリー<MFコミックスフラッパーシリーズ>、2013/9/21発行
・そんなつもりじゃなかったんです→作者のブログ。
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