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2013/09/06

創造主の原稿用紙に自由に描かれた感がある脇役たちの物語がいい! 『恋愛ラボ』第9巻

『恋愛ラボ』第7~9巻を並べると一枚のイラストに

 サヨ先輩には彼氏がいる。そんな設定もありました。

 3ヶ月連続刊行の3冊目である『恋愛ラボ』第9巻に収録のマンガは、4コマ形式で進行する本筋の物語とは異なり、ほぼすべてがストーリー形式の番外短編になっている。それらは、初めて面が割れたサヨの彼氏が主人公になっていたり、スズと仲のよいクラスメイトが語り手となってスズへの気持ちを吐露したり、南中学校の名もなきモブ男子たちが漫才のようにナギやヤンを評していたりと、普段とは違った趣になっている。

 中でも、エノとサヨの担任である杉原先生を主人公に据えた話とリコとリコの祖父を描いた話に共感を覚えた辺りに自分がどのような視点からマキやリコたちを見ているかがわかる。
 名門女子中学校の教師でありながらどこか肩の力が抜けた、教師然としていない杉原先生は、マキやリコたち生徒会の面々に対して積極的に関与することもない。だが、ここぞというときには彼女たちを援護するなど、よく言えば生徒の自主性を重んじ成長を陰ながら手助けするような教師として描かれている。その視線は客観的であり、それは特にマキやリコとは年齢の離れた大人である読者の視点に重なるものがある。マキとリコが出会い、恋愛研究と称してはイタい行動を繰り広げ、やがて後輩のスズや先輩のエノとサヨを巻き込み、そして新聞同好会、南中の男子たちと輪を少しずつ広げていき、ともに成長していく、そんな彼女たちの姿を見守るという立場。杉原先生はマキやリコの世界の住人であるため彼女たちに干渉することができるというただ一点の違いを除けば、大人読者を代表していると言えるのではないかと思う。
 また、リコの祖父話では、彼がどういう風に孫娘を見守っていたかが、リコの視点を通じて語られている。そこで描かれるリコの祖父は飄々としたエロじじいである一方、ひたむきな姿勢とぶれない信念、そして孫娘をどれだけ大切に想っているかが凝縮された存在となっており、リコの目というフィルターを通っていることを差し引いても最高にカッコいい。これもまた年齢にもよるのだろうけれど、リコ祖父の方に自身を重ねたがる読者も少なくないのではないだろうか。

 自分はだいたい杉原先生やリコのじいちゃんのようなマキやリコを生暖かく見守る大人という視座からこのマンガを読んでいる。いつもはメインを張らない人物たちが短編では主役となって『恋愛ラボ』を語る様子は、自分も『恋愛ラボ』の登場人物の1人になったように感じられて興味深い。それは『恋愛ラボ』というマンガの間口の広さを端的に表しているし、誰でも物語の主役になれるという作者からのメッセージであるようにも感じられる。
 もっとも、自分が実際に『恋愛ラボ』に出るとしたら、教室にいても髪の毛の先すらも描かれないようなモブの中のモブ、The king of モブか、某兄貴のようにスズをストーキ…物陰に隠れて愛でていたら本当に通報されるような役どころだろうけれど。おいやめろ。

【出典】
・宮原るり 『恋愛ラボ』第9巻、芳文社<まんがタイムコミックス>、2013年
ヘッポコロジー→作者のサイト
家に帰るまで待ちきれなくて電車の中でついうっかり本を開いてしまいニヤニヤが止められなかったけれど、『恋愛ラボ』第8巻を読んでいただけなんだからね!→8巻の感想。

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