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2013/09/20

(主に)大学生たちの等身大の恋愛を描いた『恋愛ディストーション』が第8巻で完結。14年間追い続けてきて本当によかった。

『恋愛ディストーション』第8巻

 すばらしい最終回だった。

 振り返ると少年画報社から旧版1巻が出たのはまだギリギリ20世紀の2000年5月だった。当時は恋ディスの登場人物たちと自分の年齢が近かったこともあり、「こんなリア充な大学生がいるわけがない!」(※1)と憤りながらも恋人たちのたわいのないイチャイチャや夜の営み(※2)をちゃんと描く生活臭のするラブコメとして、ある意味バイブルのように何度も繰り返し読んだことを覚えている(※3)。
 ※1:当時はリア充などという言葉はなかった。
 ※2:もちろん話によっては昼の営みということもある。
 ※3:バイブルとして役に立ったかどうかはまた別の物語。……。……。おい、涙拭けよ。

 旧版の最終巻となる5巻が登場したのはそれから6年後の2006年9月、4巻が発売されてから実に4年の歳月が経っていた。なつめからお預けを食らった大前田のごとく行儀よく続巻の登場を待っていた我々は、ようやく手にした5巻に大前田やなつめ、江戸川やまほ先生の変わらぬ姿を見つけ歓喜したものである。

 だからこそ、旧版5巻からさらに5年の月日が流れ、2011年、小学館から新装版として1巻2巻と順次発刊されたとき、よく訓練された恋ディス読者は目を疑ったものだ。これは幻の6巻が発売される兆しか? それとも単に旧版が絶版になったから再発売されただけなのか? 待て。まだ慌てるような時間じゃない。もし前者なら新版の5巻で何か発表があるはず――。
 そうして恋ディス読者の期待を一身に受けて発売された新版5巻で「短期集中連載開始!」の文字を見たとき、我々は大地に平伏してマンガの神様に感謝の祈りを捧げたものだった。犬上宿禰ありがとう! 火の鳥ありがとう! と。

 それから1年後の2012年7月、遂に幻の6巻が我々の目の前に顕現した。恋ディス読者の誰もが永遠のDT山野辺に春が来るかどうかをそれとなく気にかけながらも、その実、同士・山野辺が我々の仲間から外れるのではないかとやきもきしていたことだろう。その続きが読める! これ以上の奇跡があるだろうか、いや、ない。そのときは確かにそう思っていたのだ。そのときは。

 そう。我々は素直に彼を祝福しなければならない。2013年2月に登場した7巻で山野辺はEDT48から脱退した(EDT=永遠のDT)。よく訓練された恋ディス読者は6巻発売以上の奇跡を呼び起こした元同士・山野辺を勇者と讃え、山野辺の彼女となった包容力溢るる里中を女神と崇め奉った。しかし、その反面、我々はひとつ大きな事実を見落としていた。主要な男キャラクターが3人全員彼女持ちになったという事実を。

 既定路線だったのだろうか。7巻から半年が経った2013年9月、『恋愛ディストーション』8巻が発売され、物語は同名サブタイトルの最終回をもって幕を下ろした。恋ディスは初々しい彼らの初めての喧嘩といつもの彼らの犬も食わないいつもの喧嘩とを見せて、彼らの物語に終止符を打った。
 単行本派であるため読み初めたのは2000年からになるが、足かけ14年、遂に彼らの物語を見届けることができた。よく訓練された恋ディス読者の自分には感想はもう次の一言しかない。
「ありがとう! そして、ありがとう!!」

 という前振りはさておき、以下では恋ディスの好きなエピソードを3つ選んでみたい。(巻数・話数は新版基準)

・女教師はSSMGの妄想(ユメ)を見るか?(第4巻27話)
 SSMGの存在はこのマンガで初めて知った。

・イヌニンゲンだもの。――インテグラル――(第4巻31話)
 墓まで持って行く2人だけの秘密というものにはささやかな憧れがある。

・翔べ!山野辺(第7巻47話)
 他2組ができあいカップルなので、始まったばかりのカップルが初めて体を重ねるというこのマンガでは非常に希有な場面が描かれた47話は恋ディスを読み続けてきてよかったともっとも強く感じた話だった。

 恋ディスで描かれてきた3組のカップルを筆頭に、どのカップルやキャラクターも日本中探せばどこかにはいそうと思える現実感がこのマンガの魅力のひとつだと思う。ラブコメにありがちな浮き世離れした設定もなければ突飛な展開や劇的な盛り上がりもそれほどない。しかしだからこそ、どの話を取ってみても友だちから聞いた世間話のような親近感があるし、マンガとして完結した今となっても彼らの物語がこの空の下のどこかで続いているのではないかという錯覚に陥ることができる。大前田となつめは原因も忘れるようなつまらない喧嘩をしては今日で何日目かを指折り数えつつお互いに引き際を探り合っているだろうし、江戸川は年上お姉さんのまほ先生にダメな部分を見つけてはひとり悦に入ってニヤニヤしているだろうし、山野辺は自分を卑下しては里中に手を引かれて舞い上がるという懲りない自虐遊びを繰り返していることだろう。だが、彼らは決して同じ場所をぐるぐる回っているのではない。今日の彼らは昨日の彼らよりもひとつ上の段(もしかすると下の段?)にいる。彼らは今日も日本のどこかで2人並んで歩いていることだろう。
 恋ディスは終わったが、彼らの物語は終わらない。本当にいいマンガは終わらない。

【出典】
・犬上すくね 『恋愛ディストーション』第8巻 小学館<サンデーGXコミックス>、2013/9/24発行

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