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2013/09/16

アリスの夢は人間として生きること。頑固ジジイと出会った超能力少女の行く末は―― 『アリスと蔵六』第2巻

『アリスと蔵六』第2巻

 1巻のときに「鎖責めやくすぐり責めでおいたする幼女たちをアラ環の頑固爺が折檻する健全マンガ」と称した『アリスと蔵六』。その続きとなる2巻が今般発刊されたが、ヒロインの幼女が拷問に合い血と涙と糞尿に塗れながら筋骨逞しい腕で無理矢理押さえつけられるなど、見所たっぷりの健全な少年マンガとなっている。

 改めて、『アリスと蔵六』はジジイ・ミーツ・ガールのSFマンガである。
 1巻は、曲がったことが大嫌いな頑固ジジイ・蔵六と、「アリスの夢」と呼ばれる超能者の中でもひときわ強大な力を持つことから「赤の女王」の名を持つ少女・紗名、その2人の出会いから紗名が何者かにさらわれるまでの話だったが、2巻ではさまざまな思惑に駆られる人々と組織が紗名というたった1人の少女を巡って争奪戦を繰り広げるさまを描いている。
 一進一退を繰り返す息も吐かせぬその展開には各登場人物たちの見せ場がふんだんに盛り込まれている。前述の拷問シーンしかり、紗名の誕生にまつわる昔話しかり、異能力系中二病罹患者の憧れを体現したかのような肉弾対兵器、和服未亡人対コスプレ国家公務員の銃火器湧き肉躍る超能力バトルしかり。特に蔵六が紗名との関係に一歩踏み込む一連の対話は涙なくしては読めなかった。

 蔵六とその孫娘である早苗が紗名を家族として迎えるとはどういうことか。見ず知らずで得体の知れない紗名を家族にする。それを可能にするのは「一緒に帰るぞ」という蔵六のたった一言だ。その言葉は紗名の出自であるとか、蔵六と早苗の関係であるとか、そういったことをすべて飛び越えて一緒に家に帰る、いや、それらをすべて持って一緒に家に帰ることを意味している。紗名の望む人間ごっこを叶えるためではない。蔵六と早苗と紗名で家族ごっこをするためでもない。共に生きること。恐らく他の者であればさんざん逡巡するような決断を、蔵六は「一緒に帰るぞ」というただの一言で成し遂げる。いや、それも正確ではないのかもしれない。きっと蔵六もそれまでの長い人生でさんざん悩み、さんざん迷い、さんざん後悔してきているだろうし、紗名に対してもどれだけ苦悩したかわからない。だがそれを見せない。それは頑固一徹に生きる、とても蔵六らしい姿だ。

 一度知ってしまった人の温かみは容易く手放せるものではない。他人を思いやることを知り、失敗したら次は失敗しないようにすることを知り、人の社会で生きるための術を知っていく。「赤の女王」と呼ばれ、あらゆる事象を改変するというチート能力を持つ「アリスの夢」最強の存在である紗名は、蔵六と出会い、今やちょっと常識知らずなただの少女になろうとしている。蔵六という頑固ジジイの背中を見て育つ、紗名というちょっと変わった少女の成長譚。『アリスと蔵六』はそんなマンガだ。

【出典】
・今井哲也 『アリスと蔵六』第2巻、徳間書店<RYU COMICS>、2013年

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瓜二つな双子の雛霧姉妹がかわいい服をお揃いで着ているとかわいさ4倍な感じでぐうかわなのです。 今井哲也『アリスと蔵六』第3巻(2014/3/30追記)
そう言えば「大長編ドラえもん」でもドラえもんの秘密道具は便利すぎると言われていたっけ。想像力を奪う小さな魔女たちと想像を意のままに具現化する紗名の出会い。 今井哲也『アリスと蔵六』第4巻(2014/10/12追記)
ハンカチの用意はいいかい? 紗名と羽鳥と歩、3人の少女が親友になる。それが、とても嬉しい。 今井哲也『アリスと蔵六』第5巻(2015/4/14追記)

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