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2013/09/17

今日も明日も琴子とコトコト 『明日もコトコト』第1巻

『明日もコトコト』第1巻

 もう書名からして負けフラグ漂う美羽ちゃんが不憫すぎてつらいので全力で応援していきたい。

 マンガやドラマで昔から憧れているもののひとつに行きつけの喫茶店がある。
 その喫茶店はできれば家の隣か、または肉じゃが(ロールキャベツでも可)が冷めない距離にあることが好ましい。喫茶店には同い年か年の近い異性の幼なじみがいて、親御さんともども家族ぐるみの付き合いがある。幼なじみが同い年か年齢がきわめて近い場合は中学生ぐらいでいったんちょっとだけ距離ができるが、定期試験の出来が悪かったから勉強を見てやって、といったようなことを親御さんに頼まれ、そのついでにごはん(もちろんカフェごはん)を厄介になったりするうちにいつの間にか元鞘に収まり、再び一緒に学校へ通うようになる。幼なじみは放課後や休日に喫茶店を手伝っているが、高校に上がると社会勉強などと理由をつけ、親もあの店ならということで喫茶店でバイトするようになり、幼なじみとは別々の高校へ進学したものの喫茶店で顔を合わせる機会ができる――。
 とまあ、ここまでは行かなくとも、その喫茶店は扉を開けると何も言わなくてもいつものコーヒーとサンドウィッチが出てきたり、新メニューの実験台にされたり、学校から帰ってきて店を通り抜ける幼なじみにまた今日も来ているの? 的な顔で見られたりしたい。そういう「気心の知れた店員がいる個人経営の喫茶店」には今も昔も心惹かれるものがある。マンガやドラマではときどき見かける設定だが、実際に幼なじみのいる喫茶店、行きつけの喫茶店があるという人は日本にどれだけいるだろうか。

 『明日もコトコト』の主人公・真部学(まなべがく)は母親を亡くし、父親と妹の3人で暮らす高校生。その自宅の真裏にはメガネの似合うお姉さん・聿島琴子(いつしまことこ)が亡き両親の後を継いで切り盛りする喫茶店「カフェいつしま」がある。真部家と聿島家は元々家族ぐるみの付き合いがあったが、母親を失って以来、真部家の食卓は「カフェいつしま」のカフェごはんが飾るようになり、その対価の足りない分を真部兄妹(のもっぱら兄の方)が喫茶店を手伝うことで補っている。
 うん、何という羨ましいシチュエーション。まさに真部学こそ我々が子どもの頃から焦がれ、夢にまで見た立場ではないか。朝は出がけに「カフェいつしま」で朝ごはんをもらって腹を満たし、放課後になれば部活にも行かずに「カフェいつしま」へ直行し労働にいそしむ。読めば読むほど、学が理想の「喫茶店を営むお姉さんとの幼なじみポジション」にいることがわかる。これが羨ましがらずにいられようか。

 そしてこのマンガはラブコメだ。少し前にファストフードの対極に位置する概念としてスローフードという言葉がはやったが、『明日もコトコト』で描かれる恋愛はそのタイトルが示すとおりじっくりことこと煮込むように長い時間をかけて醸成される類いのものだ。最初は学も琴子も全くといっていいほどお互いを異性として意識していない。だが、ほんの些細な気づきやちょっとしたお節介の帰結が隠し味のように効いてきて、学を琴子をお互いの方に少しずつ少しずつ向けさせる。2人の間にはもはや何人たりとも入れる余地はない。大人メガネ男子が仕事にかこつけて琴子にちょっかいをかけようが、健気なショートカットの同級生女子が手作り料理で学をストマックキャッチしようとしようが、それすらも2人にとっては薬味にしかすぎない。学がブルースメルぷんぷんのやきもちを焼こうが、琴子が大人の対応で身を引くような姿勢を見せようが、それすらも2人にとっては刺身のつまにしかすぎない。学と琴子は今日も明日も喫茶店の厨房でドライカレーの具をコトコトコトコト煮込みながら、学と琴子との2人の関係をコトコトコトコト煮染めているのである。
 と、まだ1巻なのでこの先どういう大どんでん返しが待ち受けているかわからないが、幼なじみ原理主義の自分としては学と琴子がいつかそうなると思っていたい。

 幼なじみ不遇の時代と言われて久しい(そうなの?)。ぽっと出の年上宇宙人に青髪ショートカットの幼なじみが完敗したり、フェイク彼女と犬チック幼なじみが修羅場になったりと、不遇をかこつ幼なじみは枚挙に暇がない。そんな時代にあって、『明日もコトコト』の学と琴子は綺羅星のように現れた幼なじみ界の希望である。幼なじみ至上主義の自分は琴子と学という「年上彼女×年下彼氏」(帯まま)の始まったばかりの恋を全力で応援していきたい。
 なお、冒頭で触れた美羽は学に想いを寄せる同級生女子である。つまり、美羽と琴子は両方を応援してもどちらか一方は必ず負ける。あっちを立てればこっちが立たずとはまさにこのことだね!

【出典】
・犬上すくね 『明日もコトコト』第1巻 竹書房<バンブーコミックス>、2013/9/17発行

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