フランス×金髪JK×鎌倉×和菓子=『さえずり少女、しんしん鎌倉』
『さえずり少女、しんしん鎌倉』はフランスから鎌倉へやってきた、見た目小学生のようなちっこい金髪の女子高生コズリ=ビュシェルベルジェール(発音できない)が、下宿先の隣人やクラスメイトを通じて日本のわび・さび・萌えを体感する4コママンガだ。もっとも、「萌え」はコズリが体感するというよりは、何に対しても感動感激するコズリに対して読者が体感するという意味だけれども。
おじいちゃんからひなぎくを象ったお守りを託されて単身フランスから鎌倉の女子校へ留学してきたコズリ。コズリはおじいちゃんから聞かされた話の中だけの存在だった鎌倉で、下宿先であり高校の担任でもある五月先生、下宿先の隣にある和菓子店・ひなぎく堂の孫で1つ年上の高校生男子である静、編入先のクラスメイトであるちひろ、さほ、てての3人と出会い、持ち前の好奇心と行動力を発揮して日本の文化や鎌倉の名所旧跡、高校生活や季節のイベントあれこれを経験していく。よほど思い入れがあったのだろう、コズリは見るもの・聞くもの・触れるものにことごとく大はしゃぎし、体力を使い切ってはしばしばお腹の虫を鳴らし、急激に電池が切れることもままある。そういうコズリを愛でているだけで読者は鎌倉や馴染みのある日本文化を再体験あるいは追体験できる。
また、どうしてコズリが鎌倉にこだわるのか、どうやってコズリの縁が鎌倉と結ばれたのかを知るにつけ、そしてあとがきを読むことで、この物語が祖父の世代とコズリの世代とに渡って2組の想いを描いた円環構造をしていることに気づく。一見、好奇心の赴くまま天真爛漫に行動しているコズリを脳天気に描いた萌えマンガのような体裁をしていながらなかなかどうして奥が深い。
鎌倉を舞台にしたマンガやアニメや小説は名作が多いように思う。もちろんそれは鎌倉を舞台にすれば成功を約束されるということではなく、作者や制作者が作品をよいものにしようと尽力した結果であるのだろう。『さえずり少女、しんしん鎌倉』は単巻ながら過去の名作に勝るとも劣らない、さえずりかわいく、しんしんやさしい鎌倉マンガだった。
【出典】
・matoba 『さえずり少女、しんしん鎌倉』 芳文社<まんがタイムコミックス>、2013年
・『まんがホーム』2013年5月号、芳文社、2013年 →単行本未収録の最終回の後日談が載っている。
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