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2013/03/31

鎖責めやくすぐり責めでおいたする幼女たちをアラ環の頑固爺が折檻する健全マンガ『アリスと蔵六』第1巻

『アリスと蔵六』第1巻

 『アリスと蔵六』は、超能力で鎖責めやくすぐり責めなどのおいたをする幼女たちを、アラ環の頑固爺が「おれは曲がったことが大嫌いなんだ」というお題目の下に折檻する実に健全なマンガである。

 超高層タワーの外郭から東京の夜景を見下ろす少女・紗名と、誰もが生き馬の目を抜いて生きる新宿で堅気でない者との商談をする初老の男・蔵六。冒頭で描かれているのはまずこの2人の主人公の対比だ。普通の人間であれば登れないような場所にいることによって特殊な力を持つことが示唆される紗名、一方でヤのつく自由業と相対しながらも地に足のついた堅実な生活をしているであろう蔵六。少女と、一方で初老の男。接点の全くなかった2人がひょんなことから出会い、あっという間にB級映画のような少女同士の超能力バトルに巻き込まれる。そのバトルに終止符を打つ意外な行動。そして残る謎。研究所とは何か? 超能力とは何か? 紗名は何と戦っているのか? そんな物語の幕開けの後を温かい料理や蔵六が営む花屋、本当に蔵六の血を引いているのかと疑いたくなるようなぽわぽわした孫娘の早苗が引き継ぎ、次の展開へと繋げていく。この話の緩急がとても自然で、シリアスな場面とコミカルな場面もくるくると転換し、さながら映画やアニメを見ているようでもある。そんなマンガがおもしろくないはずがない。

 また、ルイス・キャロルの名作に手本を得たであろうこのマンガが描いているのは超能力という不思議な力がもたらす四方山話だけではない。作中で明確に表現されているとおり、彼我の境界を見つけること、つまり紗名の成長譚であり、また家族を知らずに育った紗名が蔵六や早苗と家族になる物語である。きちんと叱って叱られて、一緒にごはんを食べる。たとえその能力が手助け、あるいは障害となろうとも、そこには超能力の有無など関係ない。ちょっと変わった力を持つやんちゃ娘がどのように育っていくのか、手のかかるわがまま娘をどのように育てていくのか。そういう意味でも今後の展開から目が離せない。

 ところで、蔵六が新宿での一件の後に歌舞伎町の中華料理屋を訪ねる場面があるが、店内の雰囲気や次々に出されるおいしそうな料理に見覚えがあると思って読み進めていたら。

1巻p.64 2コマ目

上海小吃

 携帯電話で過去に撮った上海料理屋と完全に一致。

【出典】
・今井哲也 『アリスと蔵六』第1巻、徳間書店<RYU COMICS>、2013年
・上海家庭料理『上海小吃(シャンハイシャオツー)

【関連記事】
アリスの夢は人間として生きること。頑固ジジイと出会った超能力少女の行く末は―― 『アリスと蔵六』第2巻(2013/9/16追記)
瓜二つな双子の雛霧姉妹がかわいい服をお揃いで着ているとかわいさ4倍な感じでぐうかわなのです。 今井哲也『アリスと蔵六』第3巻(2014/3/30追記)
そう言えば「大長編ドラえもん」でもドラえもんの秘密道具は便利すぎると言われていたっけ。想像力を奪う小さな魔女たちと想像を意のままに具現化する紗名の出会い。 今井哲也『アリスと蔵六』第4巻(2014/10/12追記)
ハンカチの用意はいいかい? 紗名と羽鳥と歩、3人の少女が親友になる。それが、とても嬉しい。 今井哲也『アリスと蔵六』第5巻(2015/4/14追記)

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