「世界は善意で保たれてる」人と機械、お茶の間と宇宙、中学校生活と並行世界、家族と恋、そしてぱんつを描いて13年半、『成恵の世界』が13巻で完結!
人と、その代理戦争を行うために生み出された兵器である機族。
地球人と宇宙人のハーフとして生まれた成恵と、その父親の日本での2人暮らしとその隣り合わせの深宇宙。
成恵や和人ら中学生たちの日々とそれに背中合わせの無数の並行世界。
父と娘、人である育ての親と機族の娘、人の娘と育ての親たる機族など様々な形を為す家族の姿と中学生同士、地球人と宇宙人、人と機族など様々な関係で紡がれる恋愛模様。
そして「ぱんちら」なんてかわいいものじゃない、まんま「ぱんつ」。
そんな男子中学生の妄想のような、おっさんの見果てぬ夢のような世界を描いて『成恵の世界』が13巻で完結した。毎回巻末にあった「本作品は、作者の妄想を毎月新鮮なまま御提供する、ストックなしの綱渡り無計画マンガです」というコメントが、13巻では「作者の妄想を毎月新鮮なまま御提供した」となっているのを見てこの物語が完結したことを嫌でも実感させる。
それはまた、マジ天使である鈴ちゃんの新たな活躍がもう見られないということを意味する。鈴ちゃんマジ天使。『成恵の世界』の登場人物では監察庁に所属する鈴、蘭、麗の機族3人娘がお気に入りだが、特に鈴ちゃんはマジ天使だと思う。大事なことなので3回言いました。
話が逸れた。確かに「妄想を無計画に提供する」だけあって探せばきっとところどころ辻褄が合わなかったり、唐突だったり、ご都合主義だったりするところがあるのかもしれない。幸いにして、というべきか、単行本の刊行は平均すれば1年に1冊というスローペースであり、新刊を読む頃にはそれまでの細かい設定や話を忘れているという逆ご都合主義に陥っていたため、全く気にならなかった。ただ、「無計画」と称しながらも、幾層もの並行世界に渡って広げた風呂敷をこれまででもっとも絶望的で、もっとも愛と友情に溢れた「さいごのたたかい」を通じて折り畳み一気に大団円へと導いた、和人と成恵の世界という手のひらの上で読者をまんまと遊ばせたその手腕は本物だと思う。とてもおもしろい、いい話だった。
ところで、何巻だったか作中で『成恵の世界』がサザエさん時空であることが示されていたが、最後の最後で7年後に時間を飛ばしている。それは絡まっていた糸を解いたことにより矛盾が解消されたため時間が進むようになったことをほのめかしているのだろうか、などと思うと存外楽しい。忘れてしまった細部を思い出すためにはもう一度最初から読み直す必要もあるし、そういう意味では『成恵の世界』は終わっていないとも言える。『成恵の世界』はまだ始まったばかりだ!(13巻を一度読み通した後に冒頭第89話見開きのバラ撒かれた写真を見ると涙が出てくる)
【出典】
・丸川トモヒロ 『成恵の世界』第13巻、角川書店<角川コミックス・エース>、2013年
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エログロテロ、つまりセックス、怪奇、殺人のテーマーにうんざりし、久々に愛情が描かれたアニメかなと思い12全話見ました。初めの頃の秘密基地の話までは良い漫画と思いましたが、12全て見たあと、「おいおい、これで終わりかい!」と物足りなさを感じました。改めて、美や愛情の美しさを描いたアニメでは昭和の「リボンの騎士」や「魔法使いサリー」に並ぶものはないと思いました。失礼ですが絵も色もあちらと比較すると雑ですね。アニメはともかく漫画の方はどうでしょうか?
投稿: k | 2013/09/07 15:44
1巻出た頃から、忘れた頃に新刊出てましたね。
(今頃気付いて、今読み終わった)
色々無理矢理な所もあったけれど、程よくラブコメで、
程よくギャグで、毒気もあまりなく、とても良い話だったように思います。
アニメは、原作好きな自分としては、かなり残念だったのを覚えています。
本当にこの漫画読んで作ったのかな?と……。
なにはともあれ、無事、しっかりと完結して良かったです。
投稿: 通りすがり成恵の世界ファン | 2014/04/12 03:40