『あの日見た花の名前を僕達はまだ知らない。』を見るのに適当な年齢
そんなことが気になったのは、近くのレンタルビデオ屋が旧作100円フェアをやっていて、『あの花』DVD全6巻をまとめて借りようとしたら1巻だけが貸出中だったからだ。そのときはそれほど気にもしなかったが、その翌日にレンタルビデオを訪ねると1巻は返却されていたものの今度は2巻だけが貸出中になっていた。『あの花』は6巻全て旧作に該当し、旧作DVDは10作までまとめてレンタルできるため、600円あれば全6巻まとめて借りることができる。それなのに一体何の目的があって1巻ずつ借りていくのか。
ふと、逆に『あの花』DVD全6巻を一気に借りることができない事情があるのではないかということに気づいた。自分が小学生の頃を思い返すと、学校から帰ってきて息つく暇もなく遊びに行こうと家を飛び出すとき、ランドセルと引き替えに100円玉を1枚貰っていた。もしかすると、その頃の自分と同じように今まさにおこづかいが1日100円の少年がいるのだろう。その少年は毎日小学校から帰ってきては与えられた100円玉を握りしめ、レンタルビデオ屋に駆け込んで『あの花』DVDを1作ずつ借りて見ているのかもしれない。
そして、『あの花』を見た少年は、じんたんのような遊び仲間のリーダーを目指したり、5年後10年後ぽっぽのように世界を見聞する旅に出たりするかもしれない。
小説やマンガを読んだりアニメや映画を見たりする。「そのとき」はもちろんそれらが単行本として発売されたり、映像として初めて映されたりした直後がもっとも多いだろう。しかしながら、その直後のタイミングも含め、物語にはそれらに触れる最適な時期というものがあると思う。それはその作品が登場して1ヶ月後か1年後か、あるいは10年後か100年後かもしれないし、10歳のときか高校生のときか、あるいは社会に出てからかご隠居になってからかもしれない。
とはいっても、実際は何をいつ見るかなんていうのは単なる偶然の産物で、その作品を見聞きした時機に意味を持たせたいだけかもしれない。それでも、今まで読んだり見たりしてきた作品の中には10年経って見返したら印象が違ったということがなかったわけではないし、名作は読んだ人見た人のそういう意味の探り合いの果てに生まれるものだと思う。今回『あの花』のマンガ版2巻を読み、1巻を読んだときにはしなかった原典に当たるということをした。アニメの完結から1年半、マンガ版の刊行開始から3ヶ月のこのタイミングでそれをしたのは何かしらの意味があったと思いたい。
『あの花』は、中学を卒業しそれぞれ別々の道を歩み始めた幼なじみ5人+1幽霊が、かつて秘密基地に集っていた頃に誰かが誰かと交わした約束を果たす物語である。関東の中でも山間の地方を舞台とし、その描かれたテーマの重さから登場人物と同年代の層を視聴者として想定したのではないことが伺える。そのため、冒頭で挙げたような小学生がおいそれといるとは思えない。それでも、秘密基地が秘密基地として機能していた頃のじんたんやめんまと同じ年頃の少年少女が『あの花』を見て、少し成長して高校に上がる頃に再度見て、また10年ぐらい経って当時の自分たちを思い出しながらもう一度見て、やがて今度はこどもを持った頃に自分のこどもと自身のこどもの頃を重ねながらこどもと一緒に見て欲しい。そういう願望を抱かずにはいられない。
と、ここまで書いておきながら、『あの花』を見るのに適した年齢がいくつか時期がいつかについて特に結論を出すことはしない。別にいくつで見たっていつ見たっていいじゃない、人間だもの。
最後にそのレンタルビデオ屋でのDVD2巻の顛末について付け加えておく。1日1巻ずつ借りられているため2巻が返却されるのは貸出の翌日である、という予想に反して2巻はその後1週間ずっと貸出中のままだった。そこで、こちらが先回りして3~6巻を借り、2巻相当のあらすじをマンガ版で補いつつ最後まで一度見て、さらに3~6巻をキープしている間に返却された2巻を追加で借りて2度目を見るという、非実在小学生に対して大人げない借り方をした。大人って! 大人って!
【出典】
・超平和バスターズ 『あの日見た花の名前を僕達はまだ知らない。[DVD] 』第1~6巻 アニプレックス、2011年
・あの日見た花の名前を僕達はまだ知らない。|アニメ公式サイト
・幼い恋と後悔、贖罪と再生、そして忘却の物語。『劇場版 あの日見た花の名前を僕達はまだ知らない。』→劇場版の感想。(2013/9/7追記)
以下は雑感というよりメモ。
・めんまにボディペインティングを施せば最初からみんなにも見えるのでは?
・じんたんのTシャツでいちばんヒドイと思ったのは「白ネギ」。
・じんたんの左利きは遺伝? 利き手って遺伝するの?
・めんまが素足なのは制作者の趣味…、もとい、生前履いていたサンダルを川に落としてきてしまったまま化けて出たことを象徴しているのか。この辺だけ本物の幽霊っぽい。
・右手から消え始めたのは生の象徴たる心臓からもっとも血液が届きにくいから?
・なんだかんだでぽっぽの行動がいちばん地縛霊っぽい。
・じんたんだけが視覚と聴覚と触覚でめんまと対話することができ、じんたん以外の人が触覚でしかめんまとふれあうことができない中、めんまの弟だけがめんまの匂いを感じ取ったのはやはり血を分けた姉弟だから? 嗅覚についてはじんたんも特に触れていないと思った。
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