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2015/06/22

どんどんドーナツどーんと行こう! アニメ業界で働く社会人提督が見た胡蝶の夢の物語。 盛岡社中『「提督」が「加賀」さんと入れ替わる話』(艦隊これくしょん~艦これ~二次創作)

『「提督」が「加賀」さんと入れ替わる話』

 アニメ業界で働く社会人の「提督」が電車でうたた寝して気づくと正規空母の「加賀」になっていた。それは夢かうつつか。『「提督」が「加賀」さんと入れ替わる話』はいつかどこかで何かになることを夢に見た、すべての働く提督にエールを送る物語である。

 アニメ業界で働くことが夢だった。でもその夢を叶えたら待ち受けていたのははたして夢ばかりの世界ではなかった。そんな想いを抱きつつ日々仕事に邁進する若手社会人の「宮森」は原画回収に向かう電車の中でうっかりうたた寝をしてしまう。ところが目を覚ますとそこは電車ではなく彼女が半年以上もほったらかしにしていたゲーム「艦これ」の中、他ならぬ彼女の鎮守府だった。しかも彼女はプレイヤーたる提督ではなく艦娘のひとり、正規空母の加賀になっていて――。
 これは加賀になった宮森が秘書鑑の吹雪や他の艦娘との邂逅を通じて自分を見つめ直す物語だ。

 「東方ファンが作中のキャラクターと入れ替わったら」というifを描いた東方二次創作『「ここに幻想郷があります」』に着想を得たという本作は、タイトルが示すとおりどこかにいるプレイヤー=提督が艦これ世界の住人になってしまう話である。主人公である提督はアニメ業界で働き始めてまだ日が浅く、けれども夢を抱き、夢を叶えて入ったはずの業界が必ずしも望んだことばかりでないことに落胆している人物として描かれている。

『「提督」が「加賀」さんと入れ替わる話』p.10

 そんな宮森がたまさか訪れた自身の鎮守府で加賀にその身を宿し、吹雪を始めとする彼女が育てた艦娘たちと交流を持つ。提督が半年着任しない鎮守府は平和そのもの。なにしろゲームの仕様上、提督が指示しなければ艦娘は戦闘に出なくていいし、深海棲艦も鎮守府を襲いに来たりはしない。そこは朝霜や天龍が野球に興じ、夕張や天津風が釣り竿を垂れる日々を過ごす、まるで夢のような場所だ。宮森はそこで翔鶴や瑞鶴とほんのり百合風味のふれあいをしたり、第六駆逐隊の小ささを実感したりする。

『「提督」が「加賀」さんと入れ替わる話』p.21

 一方の艦娘たちには加賀があの加賀さんでなくなるという驚きを宮森はもたらす。宮森が加賀になる直前、加賀には朝霜たちが打った野球のボールが直撃しているが、当たり所が悪かったのか何なのか、加賀がまるで記憶を失ったかのような振る舞いをする。それは半年間変化のなかったであろう暮らしをしてきた艦娘たちにとってどれだけ大きな事件だったことか。
 と、ここまで書いていまさら気づくのは、このマンガが両者の側面をとても丁寧に描いていることだ。宮森が行った世界はあくまでゲームの中の作られた世界である。だがプレイヤーである提督がログインしていない間、その世界は時を止めているのでもましてや存在していないのでもない。艦これの世界は艦娘たちにとっての現実そのものとしてあり続けている。そう信じたくなるほど、このマンガで描かれた鎮守府や艦娘は現実感を持っている。だからこそ宮森は夢かどうかわからないながらもその現実を受け入れ、羽を伸ばすことができたのだろう。

 けれども夢はいつか覚めるものであり、あるいは現実になるものだ。夢は叶えたら終わるものではなく、そこからようやく始まるものだ。宮森には(まだ見たことはないけれど)某アニメで恐らく描かれたであろう夢があり、加賀には艦娘としての夢がある。それは宮森本人でなければ、加賀本人でなければ果たすことはできない。宮森提督と加賀が入れ替わったことが胡蝶の夢であったとしても、ふたりがそれぞれ夢見たことを忘れなければそれぞれの道を見失うことはないだろう。そういう意味で、やや飛躍しているかもしれないが、本作はいつかどこかで何かになることを夢に見た、すべての働く提督にエールを送る物語である。本作の冒頭に「奇蹟は誰にでも一度おきる だがおきたことには誰も気づかない」という楳図かずお作品からの一節があるが、もしかするとこの本を今このタイミングで読めたことこそが奇蹟だったということに、いつか気づくときが来るかもしれない。

【出典】
・星ナオスケ 『「提督」が「加賀」さんと入れ替わる話』 盛岡社中、2015/6/14発行
「提督」が「加賀」さんと入れ替わる話→本文サンプル
盛岡社中→サークルのサイト

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