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2015/04/26

例えば今年に入ってから単行本が出版された『小百合さんの妹は天使』や『ふたりべや』のように、専門誌ではなく一般誌で連載される百合マンガが増えてきたのはこの流れが定着してきた証拠じゃないかと思うので、少し考えてみた。

最近、一般マンガ誌で連載される百合マンガが増えていていいよね。

 最近、「百合姫」(一迅社)のような百合マンガ専門誌ではなく、ラブコメや格闘ものにファンタジーまで幅広く揃えた一般マンガ誌で連載される百合マンガが目立つ。例えば今年に入ってから単行本が出版された『小百合さんの妹は天使』(伊藤ハチ)は「月刊コミックフラッパー」(メディアファクトリー)で、『ふたりべや』(雪子)は「月刊コミックバーズ」(幻冬舎)で連載されている。これはもしかしなくても百合マンガが一般マンガ誌で連載される流れが定着してきたのではないだろうか。

 百合マンガとは何か。本来の意味での百合ジャンルは女性同士の恋愛を描いたものになるが、最近では女の子が2人いれば百合という風潮もあり、その解釈はかなり受け手に依存しているように思われる。ただ、きっかけは何であれ百合マンガが読まれるようになるのはよいことであり、百合マンガの一般化が進んで一般マンガ誌で読める機会が増えればこれほど喜ばしいことはない。
 そういう観点から最近読んだ百合マンガを振り返ってみると、確かに一般マンガ誌で連載されている作品が多いことに気づく。これは思った以上に百合マンガの一般化が進んでいて、百合マンガが一般マンガ誌で連載される流れが定着しているのではないか。そこで、その背景について考察し、4つの理由にまとめてみた。

 1つ目の理由は百合マンガのみを掲載した雑誌やアンソロジーシリーズなどの専門誌が次々と休刊になってしまったこと。
 安定して上質な百合マンガを供給していた「ひらり、」(新書館)も昨年7月発行のvol.14で休刊になった。これで今百合マンガのみを掲載した定期刊行の専門誌は「百合姫」(一迅社)と「メバエ」(少年画報社)ぐらいと思われる。マンガはラブコメと百合を主食にする自分にとっては大変由々しき自体だ。
 だが、それが逆に百合マンガが専門誌以外に活躍の場を求めるきっかけとなり、一般マンガ誌に連載されるに至ったと考えられる。

 2つ目は百合ジャンルそのものに対する世間の認識が変化したこと。
 元々百合マンガは少女マンガに源流を持っている。ジャンルとしての「百合」を広めた『マリア様がみてる』(今野緒雪)は少女小説だし、『少女革命ウテナ』(ビーパパス、さいとうちほ)は少女向けアニメに分類されている。コミケではジャンルとしての百合は「創作少女」に包含されている(コミティアでは「百合・GL」として「少女まんが」とは別になっている)。百合マンガにいわゆる少女マンガ的な絵柄の作品が多いのもその名残だろう。
 それが2000年代前半になると出版各社から百合マンガ専門誌が続々と登場し、百合マンガに対する認知度が急上昇する。時を同じくして現れた「まんがタイムきらら」などの萌え系4コマ誌が百合とはいかないまでも女の子同士がきゃっきゃうふふする様子を描いた影響も大きい。
 そして2010年代に入ると『魔法少女まどか☆マギカ』(Magica Quartet)や『ゆるゆり』(なもり)のアニメ版が放映される。これらが女の子同士の友情とも恋ともつかない関係を描いたことで、百合というジャンルを広く知らしめ、アニメからマンガへの流入を促すことに役立ったと思われる。

 3つ目の理由として挙げられるのが、一般誌連載の百合マンガで成功例が現れたこと。
 2000年代半ばに『青い花』(志村貴子)と『GIRL FRIENDS』(森永みるく)が一般マンガ誌に連載された。両者はそれぞれ「マンガ・エロティクス・エフ」(太田出版)、「コミックハイ!」(双葉社)で9年と5年に渡る長期連載となったが、いずれもただ付き合うだけでなくキスシーンからベッドシーンまであるなど百合度はかなり高かった。
 また、2000年代末になると『ひまわりさん』(菅野マナミ)の連載が「月刊コミックアライブ」(メディアファクトリー)で始まる。『ひまわりさん』の連載は開始から6年目の現在も続いているが、単行本1巻に巻数表記のなかったことが今では信じられないほどだ。
 これらは連載期間から見ても話題になることが多いことから見ても、百合マンガとして成功したと言い切っていいだろう。

 そして4つ目は百合マンガ、特に百合コメマンガが常に一定の人気を誇るラブコメの延長線上にある(または隣接した)ジャンルとして見られるようになったこと。
 度々言及しているが、よい百合ップルはその2人の外見や性格が離れていれば離れているほど見ている方は滾るものだ。カップルはお互いにないものを求めるのが物語の基本。あの子は自分にはないものを持っている→気になる→友達になりたい→あの子の一番になりたい→これってもしかして恋?→でも女の子同士だし→でも好きだし→ぐるぐる、といった具合に、起点となる違いが大きいほどその後の振り幅も大きくなり、物語としての面白さも幅の大きいものとなる。
 その点ラブコメの場合はまず男女の性別という絶対的な違いがあるため、似た者同士のカップルでも比較的成立させやすい。だが百合ップルの場合は女性同士だ。性別が同じである以上、外見や性格、趣味嗜好や思想で違いを出すことになるだろう。彼女たちはその違いを求めて右往左往し、時には違いを受け入れられずに喧嘩し、時には違いの中にも類似点を見つけて歩み寄る。そららはしばしばコメディと親和性が高く、百合マンガとしてのラブコメ=百合コメとなる。すると、かなり乱暴な議論になるが、百合マンガとラブコメの違いは性別が違うか同じかぐらいになり、つまるところ百合マンガはラブコメ好きな読者にも受け入れやすいものとなる。
 なお、ラブコメの中でもハーレム系と呼ばれる主人公の男1人に対してヒロインが複数いるようなマンガやラノベ(またはそのアニメ化)がある。そこではヒロインたちが主人公そっちのけできゃっきゃうふふする様子が描かれることがあるが、それらが百合マンガへのハードルを下げる要因になっていることも無視できない。

 以上4つの理由により百合マンガはラブコメやSFと並ぶジャンルの1つとして一般誌で連載される流れが定着したと考えられる。もちろんちゃんと調査したわけではないので推測や誤解もかなり混じっているし、上記以外の大きな要因を見落としている可能性も多分にある。そのため、認識齟齬や解釈相違についてはご容赦いただきたい。ただ、一般誌で百合マンガを読んで「百合! そういうのもあるのか!」という読者が増え、ジャンルとしての百合が不動のものになればいいなと思う次第だ。

 ところで、百合マンガはかなり一般化が進んでいることをここでは言ってきたが、ある意味で百合の対極に位置する、男性同士の関係を描いたBLは一般マンガ誌で見ることがほとんどないように思う。自分があまり気にして見ていないということもあるけれど、知っている限りでは「月刊ガンガンJOKER」(スクウェア・エニックス)に連載されていた『プラナス・ガール』(松本トモキ)ぐらいしかない(もっとも、『プラナス・ガール』では男子高校生である主人公の相手は男の娘なので、BLに分類してよいかどうかは悩ましいところ)。これはどういうことだろうか。
 結論から言うと、需要が少ないからではないかと思われる。自分はBLについては完全に門外漢であるためこれ以上云々することは困難だ。これを拡大すると、男性読者の方が多い傾向のある一般マンガ誌では、百合を嗜む男性読者はそこそこいてもBLを嗜む男性読者はあまりいない、ということに繋がる。これはもうあまりにも短絡的だし、完全に推測の域を出ていないけれど……。
 あと、百合マンガには女性作家が多いことも関係しているように思う。何にしても、ここでは「百合マンガはかなり一般化が進んでいるが、BLマンガはそれほど一般化が進んでいないように見える」ということだけを指摘しておく。

 ここまでいろいろと書いてきたが、百合マンガの一般化、一般マンガ誌での連載が少し前よりもかなり進んだことは事実だろう。ただ、百合マンガが女性同士の恋愛を描いていることで抵抗感を抱く読者がいることもまた事実だ。また、性別やジェンダーを巡る学問や活動とも密接に関連している(18歳になると自由意志で性別を変更することのできる近未来の世界を描いたマンガ『境界のないセカイ』(幾夜大黒堂)が、単行本発売中止を受けて別の出版社へ移籍になった話は記憶に新しい)。
 だからこそ今百合マンガを読む必要がある。百合マンガを描く作家と出版社を応援する必要がある。百合マンガは今確実にマンガ界の一角を占めている。百合マンガはジャンルとして成熟し、名作と言われる作品も生まれるようになった。マンガを豊富に扱う書店の中には百合マンガコーナーを常設するところも増えてきた。その中にあって百合マンガが一般マンガ誌に連載されることはごく自然な流れにも見える。だが、その裏には作家や出版社のたゆみなき努力、血の滲むような奮闘があったに違いない。それを読者である我々は敬意を払って厳粛に受け止め、今こそ流れが本流となるよう働きかけなければならない。「あぁ^~心がぴょんぴょんするんじゃぁ^~」とか「みくり○な尊い……」とか言っている場合じゃないぞ! そうだ! 俺が!! 俺達が百合マンガだ!!!

 最後に、今後のために(?)以下では一般マンガ誌で連載中の百合マンガを5つほど紹介したい(順不同)。

★伊藤ハチ『小百合さんの妹は天使』

 「月刊コミックフラッパー」(メディアファクトリー)にて連載中。姉妹百合の筆頭株で、姉は地味が服を着ているような社会人、妹は誰もがかわいいと褒め称える天使のような女子高生という、素敵百合ップルの法則を満たしている素敵百合マンガ。直近の連載では妹ちゃんが姉に対して露骨に関係を迫ったり、もう1組百合ップルが誕生しそうになったりと、ますます目が離せない作品となっている。
 また、作者は獣のような耳を持つ人々が生き、同性婚が合法になっている世界を舞台にした創作百合同人も描いている。というか、むしろそっちで知った。

 【出典】
 ・伊藤ハチ 『小百合さんの妹は天使』第1巻 メディアファクトリー<MFコミックスフラッパーシリーズ>、2014/1/31発行
 【感想】
 ・天使の妹を持つ小百合さんは天使。「月刊コミックフラッパー」に燦然と輝く極上の年の差姉妹百合マンガ! 伊藤ハチ『小百合さんの妹は天使』第1巻

 

★雪子『ふたりべや』

 「月刊コミックバーズ」(幻冬舎)にて連載中(4/30以降は同社の「デンシバーズ」へ移籍)。物語は黒髪おさげの優等生と大食らいの残念美人が高校入学を機に入った下宿でたまたま同室となったことから始まる。4コママンガであり一見すると百合には見えないが、よくよく読むと随所に大変百合百合しい描写や展開が施されており、その読解が楽しい百合マンガとなっている。

 【出典】
 ・雪子 『ふたりべや』 幻冬舎<バーズコミックス>、2015/3/24発行
 【感想】
 ・超絶美少女と見せかけて実は残念美人? 優等生と見せかけて実は腹黒い? 百合百合しくないと見せかけて実は百合百合しい? 対照的な女子高生2人の同居から始まるガール・ミーツ・ガールの決定版! 雪子『ふたりべや』

 

 「月刊コミックバーズ」は他にも『このはな綺譚』(天乃咲哉)(感想)や『ユリ熊嵐』(森島明子、イクニゴマキナコ)も連載しており、百合マンガが熱い一般マンガ誌の1つとなっている。

★缶乃『あの娘にキスと白百合を』

 『ひまわりさん』(菅野マナミ)を生んだ「月刊コミックアライブ」(メディアファクトリー)にて連載中。女子高の生徒たちが寄宿舎で百合百合しているというだけでもうおなかいっぱい夢いっぱいです(実家通いの子もいるけれど)。作者は創作百合同人サークルの一員としても活動している。

 【出典】
 ・缶乃 『あの娘にキスと白百合を』第1巻、メディアファクトリー<MFコミックス アライブシリーズ>、2014/5/31発行
 ・缶乃 『あの娘にキスと白百合を』第2巻、メディアファクトリー<MFコミックス アライブシリーズ>、2014/12/31発行
 【感想】
 ・その物語の広がりようは百合とコメディという2軸だけでは測れない、女子高生たちの恋や友情や青春や恋を描いた連作短編集 缶乃『あの娘にキスと白百合を』第1巻

 

★やまもとまも『小杉センセイはコドモ好き』

 変態ロリコン女性保育士が主人公の4コママンガ。もうそれだけでヤバい臭いしかしないが、これがいわゆる萌え系4コマ誌ではない「まんがくらぶ」(竹書房)で連載されているというのだから驚く。いいぞ、もっとやれ。
 また、作者は『後藤さんと岸田さん』という連作や短編の創作百合同人も描いている。というか、むしろそっちで知った。

 【出典】
 ・やまもとまも 『小杉センセイはコドモ好き』第1巻、竹書房<バンブーコミックス>、2014/7/28発行
 【感想】
 ・女同士で幼女だけど愛さえあれば関係ないよねっ!? ギリギリどころか完全アウトな保育士さん4コマ。 やまもとまも『小杉センセイはコドモ好き』第1巻

 

★めの『ちぐはぐ少女のダイアログ』

 「コミック電撃だいおうじ」(アスキー・メディアワークス)にて連載中の、元不良と元優等生が入れ替わった双子の姉妹が主人公の4コママンガ。ここに挙げた5つの中では百合度は低めであるものの、作者が創作百合同人や『ラブライブ!』(矢立肇、公野櫻子他)の二次創作を手がけていることからも今後の百合百合しい展開を心待ちにせずにはいられない。

 【出典】
 ・めの 『ちぐはぐ少女のダイアログ』第1巻、アスキー・メディアワークス<電撃コミックスNEXT>、2014/11/27発行
 【関連記事】
 ・今年読んだ4コママンガもおもしろいものばかりだったと「4コマオブザイヤー2014」に投票して改めて思った。

 

 「コミック電撃だいおうじ」には他にも妖怪あかなめの少女が人目もはばからずに女子高生をぺろぺろする『あやかしぃのに』(乃花タツ)(感想)がある。また、「だいおうじ」の本家に相当する「月刊コミック電撃大王」(アスキー・メディアワークス)では以前『世界で一番正しい吸血鬼の飼い方』(まいたけ)や『リコとハルと温泉とイルカ』(ヒジキ)といった百合度の高いマンガが連載されていた。前者『吸血鬼』の作者は『魔法少女まどか☆マギカ』(Magica Quartet)の二次創作でかなりヒドい(褒め言葉)まどほむの百合同人(感想)を描いているし、後者『リコハル』はもう完全なガチ百合マンガだ。それゆえ、両者の連載が終わってしまったときは「みんな死ぬしかないじゃない!」とマミさんのように絶望したものだった。だが、最近はラブコメの『俺のぱんつが狙われていた。』(深山おから)(感想)にガチ百合キャラが登場したり(余談だが、作者は最近頭のネジが飛んでいるとしか思えない(褒め言葉)百合同人誌(感想)を描くなど百合マンガに精力的に取り組んでいる)、4/27発売の6月号から始まる新連載ラッシュの中に百合マンガと思しき作品があるなど、「電撃大王」は雑誌として百合マンガへ回帰しているように見受けられる。同誌の今後の展開に注目していきたい。

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