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2015/03/14

不思議でかわいい! 気になる存在の亜人(デミ)ちゃんと語りたい。 ペトス『亜人ちゃんは語りたい』第1巻

『亜人ちゃんは語りたい』第1巻

 人懐っこいお年頃のバンパイアちゃん、寂しがり屋で甘えたがりなデュラハンちゃん、その体質に思い悩む雪女ちゃん、そして淫靡な夢を地味な現実で覆い隠すサキュバス先生。人と同じ姿形をしながら少しだけ変わった個性を持つ存在の「亜人」。「あじん」は響きがかわいくないからと最近の若者の間では「デミ」と呼ばれている彼女たちは、不思議でかわいい、とても気になる存在なのです。

 主人公の高橋鉄男は高校の生物教師として働いている。学生時代に生理学を専攻し「亜人」の研究を志しながらも数々の障壁に阻まれて成し得なかった高橋に、だが突然その機会はやって来た。4月の新年度開始に合わせて着任した数学教師の佐藤早紀絵はそれと想像しがたい地味なジャージ姿のサキュバス。新1年生として入学してきた小鳥遊ひかり、町京子、日下部雪はそれぞれお年頃のバンパイア、甘えたがりなデュラハン、亜人であることに悩む雪女。それまで亜人に縁のなかった高橋に舞い降りた4人の亜人。彼女たちは高橋に何をもたらすのか、高橋は彼女たちにどう関わるのか。かわいくて個性豊かな亜人ちゃんとの出会いを経て、それまでとはひと味もふた味も違う教師生活が始まる――。

 亜人。人外。人と近しい存在でありながら人とは違う存在。自分も亜人(デミ)ちゃんと語ってみたい(以降「亜人」にはすべて「デミ」という見えないルビがあります)。今で言う亜人ちゃんを自分が初めて意識したのは『猫でごめん!』(永野あかね)のネコ耳少女だったように思う。主人公であり、ネコと合体したことでネコ耳少女となった白石やよい。元々人間で常時ネコ耳が出ているわけではないやよいを亜人ちゃんと言い切っていいかはともかく、女子高生(かわいい)+ネコ(かわいい)=ネコ耳少女(すごくかわいい)という図式を見て「ネコ耳少女! そういうのもあるのか」と思ったものだった。それ以来ネコ耳少女や亜人ちゃんは自分を魅了して止まず、いつかネコ耳少女や亜人ちゃんに出会う日を夢見ながら自分は生きているのです。なので、『亜人ちゃんは語りたい』の高橋先生がぶっちゃけすごく羨ましい。

 『亜人ちゃんは語りたい』における亜人は「かつては迫害の歴史もあったが近年では差別もなくなり個性として認められるようになった」(p.5)存在であり、「日常生活に不利な点を持つ亜人に対する生活保障制度も存在する」(同)など限りなく人と同じ営みを送れるようになっている。だがそれ故に亜人ちゃんの生態が人とあまり変わりがなかったり、普通の女子高生のそれと同じだったりすることが、長年亜人に憧れてきた高橋をしてある意味拍子抜けさせ、ある意味別の興味を抱かせるに至ることになる。そう、亜人ちゃんたちは恋もするし自分の存在に悩んだりもする、ちょっとだけ変わったごく普通の女の子なのだ。

 『亜人ちゃんは語りたい』で面白いところは、頭と胴体が離れているというインパクトの大きいデュラハンちゃんの見た目以外は、登場する亜人ちゃんたちが突飛な姿もしていなければ派手な能力も持っていないことだろう。例えばバンパイアちゃんは常に貧血気味で鋭い牙を持ち色素の薄そうな外見をしている以外は、吸血した人間を眷属として使役したりコウモリに変身したりはできず、ニンニクや十字架が苦手だったり日光で溶けてしまったりといった弱点もない。また、人から直接血を吸ってみたいとは思うけれども「嫌われちゃうからやらない」(p.30)と言うように理性で衝動を抑えている。バンパイアちゃんの持つ特徴はあくまで生理学的に説明が付きそうな範囲であり(ホントか?)、バンパイアちゃんに限って言えば非科学的な特殊技能は持ち合わせていないのだ。
 このことはバンパイアバンパイアしたバンパイアが好きな人から見れば何を甘っちょろいことを、と思わせることだろう。だが、それこそがこのマンガを際立たせる要因の1つである。『亜人ちゃんは語りたい』の世界では亜人を徹底して人として扱っている。亜人が不自由なく生きるための施策が設けられていたり、亜人として差別することに繋がるという理由で高橋が亜人の研究をできなかったりしたのもそのためだ。そして、何よりも亜人でない人々が亜人を色眼鏡で見ない。高橋のように一部の人は亜人に興味津々だったり、淫夢を誘うサキュバス先生のように住処を制限せざるを得なかったりという例はあるが、多くの人は亜人を亜人だからと差別したりせず、そもそもその発想がないようにも見える。作中に雪女ちゃんの陰口を言う女子生徒が登場するが、彼女たちがあげつらっていたのは雪女ちゃんが特定の人に対してとった態度についてであり、雪女ちゃんが亜人であることについてではなかった。だから読者は高橋のように「この世に亜人として生を受けた者たちがどう生き他人とどう接し何を思うか」(p.8)興味を掻き立てられるし、高橋を通じて亜人ちゃんたちの実際を目の当たりにすることで彼女たちをさらに知りたいと思うことだろう。

 もう1つ『亜人ちゃんは語りたい』で面白いのは「亜人の体質は遺伝より突然変異によって生じる事が多い」(p.41)という設定だ。例えばバンパイアの小鳥遊ひかりは小鳥遊家で唯一の亜人であり、ひかりとは同じタイミングで生を受けた双子なのに妹のひまりは亜人ではなく普通の人である。この設定があるが故に亜人が極めて少ないことに説明が付き、亜人が差別されることなく人として生きることの根拠となり、亜人が人と恋に落ち人の子を成すことの由縁となる。
 そして亜人ちゃんの突然変異設定はまた読者の好奇心を刺激する。
 亜人の体質は優性遺伝なのか劣性遺伝なのか。優性遺伝だったら亜人と非亜人の子は2分の1の確率で亜人になるため、恐らく亜人は劣性遺伝なのでしょう。
 亜人の遺伝子はどの染色体にあるのか。作中に登場する亜人は今のところ女性ばかりだが、それを以て亜人の遺伝に性染色体が関係していると考えるのは早急か。
 亜人が母親の胎内にいるとき、その子が雪女やサキュバスだったら母親に影響はないのか。
 生まれてくる子がデュラハンだったらエコーで検知して予め心構えを作っておくのか。
 他にも。まだ見ぬ身体的な特徴は? 運動能力に優劣はないのか? 血液型に特徴は? 雪女も血は赤いの? 亜人であることを活かした仕事や役割って何? 嗜好に違いはあるのか? 好きな食べ物は? 趣味は? 好きな異性のタイプは? それともひかりが雪とイチャイチャしていたようにやっぱり百合なんですか?(キマシタワー) 好きな体位は何ですか?(セクハラです)
 ヤバい。すごい気になる。すごく気になる。亜人ちゃんと語りたい。高橋先生のように亜人ちゃんを質問攻めにしたいし、亜人ちゃんのご家庭に突撃したいし、亜人ちゃんをハグしたい(重要)。
 高橋は学究的なアプローチだけではなく、生徒を守り育てる教師としての責任感と同じ時間を生きる人としての好奇心を以て亜人ちゃんに接している。もし高橋が亜人ちゃんを単に学問の対象とだけ見てドライに対応していたら、亜人ちゃんたちがここまで懐いたり好意を抱いたりすることはなかっただろう。高橋は亜人ちゃんへの好奇心以上に亜人ちゃんへの愛で溢れている。

 『亜人ちゃんは語りたい』を読むと、バンパイアのひかりは友達想いで「カワイイ」が好きなイマドキのJKで、雪女の雪は他の人より少しだけ病弱(?)で他の人より少しだけ自分の存在に悩みやすい多感な女子高生だ。作中で描かれる亜人ちゃんはあまりにも普通の子で、現実にもその辺に紛れていているのではないかと錯覚させる(デュラハン以外は……)。「もし、この中にバンパイア、雪女、デュラハン、サキュバスがいたらあたしのところに来なさい」と町中で叫んだら1人や2人は名乗り出るのではないか。そう思わせるところがこのマンガの魅力であり、このマンガの面白さだ。亜人亜人した亜人は出ないけれど亜人という存在がごく普通の人として生きる世界。○○平等やダイバーシティなどの標語や施策を掲げ続けざるを得ない現実より一歩も二歩も先行く世界。神話や伝承にあるバンパイアのイメージに反して「ひかり」という名前をバンパイアである娘に付け、その幸先に願いを掛ける親がいる世界。そんな『亜人ちゃんは語りたい』の世界を覗き見ることには筆舌に尽くせない楽しさがある。

【出典】
・ペトス 『亜人ちゃんは語りたい』第1巻、講談社<ヤンマガKCスペシャル>、2015/3/6発行
亜人ちゃんは語りたい|ヤングマガジン公式サイト|WEBヤンマガ→試し読みあり

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