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2015/01/24

天使の妹を持つ小百合さんは天使。「月刊コミックフラッパー」に燦然と輝く極上の年の差姉妹百合マンガ! 伊藤ハチ『小百合さんの妹は天使』第1巻

『小百合さんの妹は天使』第1巻

 「天使のようにかわいい」。とても愛らしい女の子を目にしたとき人はそう喩えることがある。ところが『小百合さんの妹は天使』で描かれる小百合さんの妹はただかわいいだけではなく、その背中に白い羽を持ち、その頭上に光の輪を浮かべた本物の天使なのだった。

 作者の伊藤ハチ氏は獣のような耳を持つ人々が生き、同性婚が合法になっている世界を舞台にした創作同人誌をここ1年ほど矢継ぎ早に発表している。男装の小説家と行き遅r……結婚に興味のなかったお嬢さんのお見合いから始まる夫婦愛を描いた『合法百合夫婦本』や、病床に伏せるお嬢様と愛想のない家政婦の主従を超えた愛を描いた『主従百合本』など、どストレートなタイトルを持つそれらの作品は、タイトルから想像する以上に萌え萌えで転げ回るような恋をやわらかなタッチで描くという傑出した百合マンガだ。
 その作者が「月刊コミックフラッパー」で『小百合さんの妹は天使』なる作品を連載するという話に触れたとき、これまた直球なそのタイトルに上質な姉妹百合の予感を抱かずにいられた者がはたしていただろうか。いや、いない。そうして世の百合スキーの注目を一身に集めて始まった『小百合さんの妹は天使』は紛う方なき姉妹百合、しかも推定10歳以上も年の差がある姉妹の百合だった。これを極上と言わずに何と言おう。

 「天使のようにかわいい」。とても愛らしい女の子を目にしたとき人はそう喩えることがある。また、かわいさと性格のよさを兼ね備えた女の子に対して「○○ちゃんマジ天使」という表現することもある。ここで言う「天使」は多くの場合は比喩として使われているに過ぎないが、『小百合さんの妹は天使』では主人公である小百合の妹・美琴は本当の意味での「天使」だ。
 町の小さな花屋で働く小百合は地味を体現したかのようなメガネっ娘である。女の子が将来なりたい職業で上位にランキングされる憧れの的でありながら、地味で根暗で卑屈な小百合は誰にも愛されないと思い込み、何にも期待を抱かずに生きてきた。
 小百合をそうさせたのは13年前の両親の離婚がきっかけだった。誰もが天使のようにかわいいと褒め称え、誰からも愛される年の離れた妹が小百合にはいたが、かわいい妹を父親が、地味な小百合を母親がそれぞれ引き取ったことから、小百合はどんな人、どんな男にとっても特別な存在にはなれないと思うようになったのだ。
 そんなある日の帰り道、たまたま仕事中に妹の話が出たことから小百合はかつて妹とよく遊びに来た公園へ立ち寄る。そして、別れたその日と同じように桜が舞い散るその公園で、小百合は天使になった妹と再会を果たす。

『小百合さんの妹は天使』第1巻p.76よりマジ天使な小百合さんの妹

 小百合の妹・美琴は文字どおり天使である。その背には白い翼を持ち、その頭には光環を掲げている。美琴によれば「神様に」「おねえちゃんに会いたいよーってお願いしたら生えてきた」(p.19)ものであり、小百合の下へ「ひとっ飛び来ちゃ」(同)うなど実用性もある。だがそれらは一部の人間を除いて見ることはできず、よって美琴は多くの人にとっては比喩の意味での天使にしか見えない。また服に羽を通すための穴を開けている様子もないことからそれらは非現実的な存在であると考えられる。小百合さんの妹はマジ天使。
 一方で美琴は天使らしからぬ側面を持っている。13年前の4歳だった頃に姉である小百合と交わした「おねえちゃんのコイビトになる」(p.12)という約束に固執し、天使になってまで小百合の前に現れたこと。「おねえちゃんの脱いだパジャマ抱きしめながら寝るの♥」(1巻帯、p.111)と豪語するなど自らの欲望に忠実であること。小百合が働く花屋にバイトとして入ってきた王子系イケメン大学生の「男鹿くん」に嫉妬と敵意をむき出しにすること。ただ、それらはすべて美琴が小百合を想うがゆえの言動であり、そういう意味では天使のようなかわいさの一環であるとも言える。小百合さんの妹はマジ天使。

『小百合さんの妹は天使』第1巻p.47より王子系イケメン大学生の男鹿くん

 そんな天使のようにかわいい天使の美琴が愛して止まない小百合はすぐに卑屈の虫が頭をもたげるような女性である。小百合は恐らく学生時代をクラス内カーストの最底辺として過ごし、キラキラしたまさに青春という言葉が相応しい一群を羨望と諦念が入り交じった視線で眺めてきたであろう人物である。それ何て俺ら?
 その小百合が天使である美琴から好意を寄せられる。美琴から見れば人生の4分の1しか一緒に過ごしていないのに、幼い頃の約束を片時も忘れることなく生きてきた美琴にコイビトになって欲しいと焦がれる。愛することとも愛されることとも無関係を決め込んで生きてきた小百合が実の妹である美琴から特別な存在になって欲しいと乞われる。作中で小百合が見せる変化は美琴に懐柔された部分ももちろんあるだろうけれど、何よりも美琴の存在そのものが引き金となって自ら引き起こしたものだろう。小百合は今まさに天使になろうとしている。

 『小百合さんの妹は天使』が描いているのは小百合と天使の妹の姉妹百合だけではない。小百合と家族の話でもあり、小百合が壁を作ってきた外の世界と再び向き合う話でもあることが作中では示唆されている。ただその一方で、そもそもなぜ美琴が天使になったのかについては明確ではない。父親と一緒に住んでいるはずの美琴がなぜ天使になって小百合の前に現れたのか。なぜ父親は美琴が姿を消しても平気でいられるのか(「お父さんにはないしょで来ちゃった」(p.21)という美琴の台詞があるが、小百合が父親に連絡を取った様子はない)。美琴は小百合と再会してすぐにごはんを要求し、夏の寝床で小百合に抱きついては暑苦しいと文句を言われるなど、天使の姿をしてはいるものの人間をやめてはいない。だが、天使という言葉と父親の動向からはある答えが導かれることもまた否めない。なぜ美琴は天使になったのか。物語が核心に迫ったそのとき、その理由は明らかになるのだろう。
 『小百合さんの妹は天使』は百合専門ではないマンガ誌である「月刊コミックフラッパー」に舞い降りた極上の年の差姉妹百合マンガであり、小百合の心の変化を描く再成長の物語でもあり、恐らく天使の謎解きの物語でもある。単行本1巻は描き下ろしの壁ドンも必見。

【出典】
・伊藤ハチ 『小百合さんの妹は天使』第1巻 メディアファクトリー<MFコミックスフラッパーシリーズ>、2014/1/31発行
小百合さんの妹は天使 - pixivコミック→試し読みあり
はちしろ→作者のサイト

【関連記事】
我々は今、ひとりのおねえちゃんとひとりの女子高生がそれぞれの百合恋に落ちる瞬間の目撃者になる。 伊藤ハチ『小百合さんの妹は天使』第2巻(2015/6/24追記)
キラキラした毎日をただふたりで過ごしたいと願う姉妹を嘲笑うかのように物語は波乱含みの様相を見せ始める。 伊藤ハチ『小百合さんの妹は天使』第3巻(2015/12/23追記)

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