« そう言えば「大長編ドラえもん」でもドラえもんの秘密道具は便利すぎると言われていたっけ。想像力を奪う小さな魔女たちと想像を意のままに具現化する紗名の出会い。 今井哲也『アリスと蔵六』第4巻 | トップページ | このもどかしさがたまらない! 「かわいい」がいっぱいの百合同人誌をまとめた珠玉の短編集。 野中友『ハミングガール』 »

2014/10/13

初風は過去の記憶に苦しむ雪風のために言葉を紡ぎ、雪風は初風のぬくもりを確かめるために体を求める。 茶々畑。『虚空に吹くは初風』『君はそれを何と呼ぶ?』(艦隊これくしょん~艦これ~二次創作)

『君はそれを何と呼ぶ?』(手前)と『虚空に吹くは初風』

 ともに陽炎型駆逐艦である初風と雪風を描いた『虚空に吹くは初風』と『君はそれを何と呼ぶ?』。前者は艦娘として生まれ変わったばかりの初風と過去のできごとに負い目を感じて素直になれない雪風のちわちわした喧嘩の話であり、後者は本来の意味での「このあと滅茶苦茶」的な展開の話となっている。両者が続いた物語かどうか特に触れられてはいないけれど、続いていると思って読むとよりいっそう滾るので是非一気読みをおすすめしたい。

 数々の死線をかいくぐり、終戦後は復員船としての任に当たった後、賠償艦として中華民国に引き渡された駆逐艦「雪風」。あまりの強運から「奇跡の駆逐艦」と呼ばれたが、同時に僚艦が次々と沈没する中ほぼ無傷で生還したことから「死神」として畏怖の対象にもなっていた。そんな雪風のまるでフィクションのような幸運ぶりはWikipedia艦これまとめwikiなどを参照されたい。
 一方の駆逐艦「初風」は雪風とは時津風、天津風とともに第16駆逐隊を構成していたときの僚艦だった。重巡洋艦「妙高」と衝突して艦首を切断されたことが遠因となって沈没した史実があり(Wikipedia)、艦これのゲーム内でも台詞の端々に「妙高お姉さん」が登場している。
 その初風と雪風の姉妹艦2隻、艦娘として転生した初風と雪風の姉妹2人が本2作の主人公である。

 艦娘がなぜ戦艦だった頃の記憶を持って生まれてくるのか。ただ戦いに明け暮れるだけの存在であれば記憶など必要はなく深海棲艦と戦うための機械に徹すればいい。記憶を持っているから厄介なことになる。

 『虚空に吹くは初風』では、雪風は僚艦が次々に沈んでいったことを嘆き、自分だけが戦後まで生き残ったことを悔やみながら、それを笑顔で覆い隠し誰にも本心を見せない艦娘として描かれている。そこには外見や提督を「しれえ!」と呼ぶことから感じられるような幼さは微塵も見られない。多くの死を目の当たりにして大きな悲しみを背負った存在、自分だけが生き延びたことを責め続ける存在、過去をどうすることもできずその心を幼い外見と笑顔で取り繕う存在である。そして、かつて16駆で戦場をともにした初風に対してはわずかばかりの笑顔さえ見せることのない存在である。
 そんな雪風に、言ってしまえば若干面倒くさい子である雪風に、初風は笑顔を見せて欲しいと望む。受肉したことの意味を贖罪ではなく再び出会えたことの喜びに見出して欲しいと願う。でも初風の言葉は雪風には届かない。初風が雪風とともに深海棲艦との戦いに赴いた際に初風が大破したことも自分のせいと思い込む雪風には初風の想いは届かない。どうすれば初風は雪風に笑いかけてくれるのか。
 陽炎型駆逐艦である初風と雪風には姉妹艦がいる。初風、雪風はそれぞれ7番艦、8番艦なので上には6人も姉がいる(その内3人は艦これ未実装だけど)。2人には陽炎と黒潮という心配性でお節介な姉がいる。初風と雪風はひとりぼっちでもふたりっきりでもない。ここでは細かくは触れないが、『虚空に吹くは初風』という物語は初風と雪風の再会の話であると同時に陽炎型駆逐艦の姉妹愛の話でもあるのだ。

 『君はそれを何と呼ぶ?』は初風が一緒に寝て欲しいという雪風を寝床に招き入れるところから始まる。前世の記憶を残してこの世に転生したことを雪風が小難しく考え込んでしまい、そんな雪風を初風が受け入れようとするのは『虚空に吹くは初風』と同様であるが、『君はそれを何と呼ぶ?』では戦艦という鉄の体ではなく艦娘という生身の体を持って誕生したことを初風と雪風の生と性に焦点を当て、より深く突っ込んだ形で描いている。まあ女の子同士なので突っ込んでいるのはお互いの指ですが。本当にありがとうございました。

「感情が芽生えると言えば近いだろうか」「ある者は記憶を憂い」「またある者は記憶を誇る」(『虚空に吹くは初風』p.3)
 深海棲艦と戦う宿命を背負った艦娘は過去の記憶を受け継いでいる。そればかりか、少女のような感情を持つ。それは一見すると戦いには必要のない、機械としては無駄な機能だ。だが、そのことが艦娘を艦娘たらしめている。
 初風が雪風に会いたいと思ったのも、雪風が初風を傷つけたくないがために初風を拒絶したのも、過去の記憶を持っていたからだった。初風が雪風のために言葉を紡ぎ喜びを分かち合いたいと願い、雪風が初風の存在を確かめるために初風の体を求めぬくもりに触れたいと望んだのも、2人が感情を持って生まれてきたからだ。そのことが今日の初風と雪風をお互いにかけがえのない大切な存在にしている。そして、明日の初風と雪風の強さの源となっている。

【出典】
・茶々畑あたる 『虚空に吹くは初風』 茶々畑。、2014/6/1発行
・茶々畑あたる 『君はそれを何と呼ぶ?』 茶々畑。、2014/10/13発行 ※R-18
虚空に吹くは初風→サンプル
君はそれを何と呼ぶ?→サンプル ※R-18
茶々畑。→サークル「茶々畑。」のブログ

【関連記事】
駆逐艦「雷」とともに生きた男たちの魂を見よ。 茶々畑。『少女が見たモノ』(艦隊これくしょん~艦これ~二次創作)
陽炎型であること、ネームシップであること、陽炎の存在理由――それは貴女が陽炎だから。 茶々畑。『其の名に意志を』(艦隊これくしょん~艦これ~二次創作)
圧倒的な熱量とページ数で綴られる初風と雪風の願いの物語 茶々畑。『風は願う』(艦隊これくしょん~艦これ~二次創作)(2015/1/2追記)
変わりゆく2人、変わらない絆――初風と雪風の物語の掉尾を飾る至高の1冊 茶々畑。『ミチヲユク』(艦隊これくしょん~艦これ~二次創作)(2015/2/24追記)

« そう言えば「大長編ドラえもん」でもドラえもんの秘密道具は便利すぎると言われていたっけ。想像力を奪う小さな魔女たちと想像を意のままに具現化する紗名の出会い。 今井哲也『アリスと蔵六』第4巻 | トップページ | このもどかしさがたまらない! 「かわいい」がいっぱいの百合同人誌をまとめた珠玉の短編集。 野中友『ハミングガール』 »

マンガ」カテゴリの記事

同人誌」カテゴリの記事

感想」カテゴリの記事

艦これ」カテゴリの記事

コメント

コメントを書く

(ウェブ上には掲載しません)

« そう言えば「大長編ドラえもん」でもドラえもんの秘密道具は便利すぎると言われていたっけ。想像力を奪う小さな魔女たちと想像を意のままに具現化する紗名の出会い。 今井哲也『アリスと蔵六』第4巻 | トップページ | このもどかしさがたまらない! 「かわいい」がいっぱいの百合同人誌をまとめた珠玉の短編集。 野中友『ハミングガール』 »

最近の記事

twitter

無料ブログはココログ