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2014/09/07

青春という名の魔物に再び巡り会ったエロ漫画家の「せんせー」と今まさに青春を迎えようとする女子中学生の道ならぬ「こい」の物語 緑のルーペ『こいのことば』

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 『こいのことば』は30歳を前にしたエロ漫画家の「せんせー」と中学3年生の悠里による道ならぬ「こい」の物語である。

 主人公の「せんせー」こと藤之助はエロマンガを描くことで生計を立てている。20代も半ばを越えたが(作中での説明曰く)職業柄人と会うことが少なく、恋人もなければ友達もなく家族ともほとんど連絡を取っていない。それこそ「『死ぬまでの時間を逃げ切る』ためだけに仕事してるような気になってただ生きるってことだけに精一杯になっ」(p.134)た生活をしていて、悠里と初めて言葉を交わしたあの夜も仕事をするためにファミレスにいた。
 一方の悠里はセーラー服にポニーテールのよく似合う中学3年生で、家庭に悩みを抱えていた悠里は夜ごとファミレスを訪れては時間を潰していた。中学生なれば世界は家族や友達、学校などごく狭い範囲に限られるのがほとんどだろう。悠里もおそらく行き場のない自分の世界を少しでも広げるためにファミレスを活用していたに違いない。
 そんな2人が単なるファミレスでの顔見知りから、悠里がせんせーの自宅兼仕事場へ入り浸るようになり、やがて体を重ねる関係になる。分別のある大人であるせんせーが15歳の少女に手を出すとはどういうことか。その背景から一足飛びに大人への階段を駆け上がった悠里が一回り以上も年の離れた男に求めるものは何か。この話は、「汚い性欲」(p.35)をむき出しにし「どこが好きか」「よく分からない」(p.70)と思っている2人の、「好き」という言葉を隠れ蓑にした恋の物語である。

 このマンガで唸らされた点は2つあった。
 1つはタイトルにもある「ことば」の使い方。「こいのことば」というタイトルがなぜ平仮名で書かれているのか。「こいのことば」は何を指しているのか。
 前者については作中で明かされているためここでは触れないが、後者は悠里がせんせーに言付けとして書いているメモのことだろう。ときに悠里の行き先を示し、ときに悠里の感情を表し、ときにせんせーの仕事を応援するそのメモは、それこそ本当に「どうでもいいこと」(p.175)ばかり書かれていて艶っぽいことは欠片もない。ただ、その宛名も差出人もないメモはそれらを書く必要がないこと、それが特別なものであることを意味しているし、そのメモを書いている間は悠里がせんせーのことを想っている特別な時間であることを表現している。はたしてこれ以上のラブレター、これ以上の「こいのことば」があるだろうか。
 2つ目はふくろうの貯金箱がせんせーに語りかける場面。ふくろうの貯金箱はあとがきによると悠里がせんせーに贈ったもので、ふくろう自体も悠里のオリジナルキャラクターとなっている(悠里のメモにもふくろうがしばしば描かれている)。そのふくろうが15歳の少女を手籠めにした大人げない大人の男に向かって言う。「エロ漫画やケータイ小説に出てきそうな悪役のキモいオッサンそのもの」(p.11)だと。「誰も幸せにはならない」「誰も救われたりなんかしない」(p.101)と。
 しかし、せんせーはそんなことはわかっている。なにしろふくろうはせんせーそのものなのだから。せんせーは常に自分を客観視している。自分が今どういう状況にあるか、どういう感情を抱いているか、少女に何をしているか、冷静に自分を観察している。理性のたがを外し獣のように悠里を求めればいいのにそうできない。小難しいことを考えてしまい、悠里との行為の最中に萎えてしまうことすらある。せんせーが悠里との一線を越えてしまった後も自らの定めた一線は越えないようにするために、作家としての自分の性質を利用して作った安全装置。ふくろうはせんせーを何よりも漫画家たらしめている。

 せんせーにとって悠里は単なる慰み者だったのか。悠里にとってせんせーは単なる「現実逃避」(p.118)だったのか。2人はなぜ「好きだよ」とは言っても「愛してる」とは一度も言わなかったのか。これは青春という名の魔物に再び巡り会うことになった男と今まさに青春を迎えようとする少女の「こい」の物語だ。

【出典】
・緑のルーペ 『こいのことば』 太田出版、2014/8/28発行
こいのことば - コミック | ぽこぽこ→試し読み
青人草の日曜日→作者のサイト

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