« クロが見せる猫っぽい仕草のかわいさとココが見せるさりげないちらりズムの妙――大きなお屋敷に住む幼い少女と黒い猫の物語 ソウマトウ『黒』第1巻 | トップページ | ゆうべはおたのしみでしたね!(もふもふ的な意味で) 吉元ますめ『くまみこ』第2巻 »

2014/05/21

ひとりみカザマさんのはつきあいから紺野さんとのせなかぐらしまでを描いたせきららステップ! カザマアヤミ『恋愛3次元デビュー~30歳オタク漫画家、結婚への道。~』

『恋愛3次元デビュー~30歳オタク漫画家、結婚への道。~』

 『恋愛3次元デビュー~30歳オタク漫画家、結婚への道。~』はマンガ家であるカザマアヤミさんが2次元ラブの引きこもりマンガ生活から脱却し、同じマンガ家の紺野あずれさんと出会い結婚に至るまでの道のりを赤裸々に綴ったエッセイマンガである。

 マンガ家・カザマアヤミを知ったのは発売されたばかりの『せなかぐらし』第1巻(芳文社刊、全3巻)をたまたま本屋の店頭で見かけたことがきっかけだった。すりガラス1枚で仕切られたアパートの隣り合った部屋に、見知らぬ高校生の男女が住むという斬新なボーイ・ミーツ・ガールから始まる物語を描いたそのマンガは、その作者が描いた他のマンガを開拓させるのに十分なラブコメ力を放っていた。そうして次に手を出した『はつきあい』(スクウェア・エニックス刊、全2巻)は、タイトルどおり初めてのお付き合いをする彼氏彼女を描いたオムニバス・ラブコメだったが、何度読んで何度萌え死んだかわからない。砂糖のように甘くてほろ苦いところがほとんどない、まさにシュガー・オン・シュガーで甘ったるくてもうおなかいっぱい、なのにそれでも読む手を止められない。ラブコメマンガ家・カザマアヤミが描くラブコメは甘くておいしい!
 そんな脅威のラブコメ力に悶えていた読者に向け、ラブコメマンガ家・カザマアヤミは新たな矢を放ってくる。新書館から発行されているピュア百合アンソロジー『ひらり、』。そのアンソロジーを舞台に『星の王子様』や『銀河鉄道の夜』などの文学作品をモチーフとしたピュアピュアな百合マンガを矢継ぎ早に発表したのである。ラブコメの名手であるカザマ先生が! 甘ったるい百合マンガを! 百合マンガ家・カザマアヤミここに爆誕せり!

 ところがどっこい。ラブコメマンガ家にして百合マンガ家でもあるカザマさんはその実3次元での恋愛経験がなかった。恋に恋する小学生時代を恋愛マンガのヒロインになりきって過ごし、その反動で中学生から大学生までの青春時代を女子校で送り、社会に出てからもマンガやアニメなどの2次元キャラを脳内でカップリングしてはラブがコメる妄想に浸るという非生産的な恋愛活動に勤しみ、その結果ぼっちをこじらせて奇行に走る。超絶あまあまな恋愛マンガを描くマンガ家が! 実生活はあまあまどころかぼっちを極めていたなんて!
 いや、わかっている。あくまで作家と作品は切り離して考えるべきだ。かわいい女の子がわんさか登場するハーレムものを描くマンガ家が本当にかわいい女の子に囲まれた生活を送っているとは限らないし、極悪非道で残虐で無慈悲な物語を描くマンガ家が実際は絵に描いたような紳士であることもあるだろう。作品はすなわち作家そのものではない。作家には作風や持ち味というものはあっても、作品に作家の考えや人生が色濃く反映されていたとしても、作家が生み出す作品と作家自身は全くの別の存在である。

 それでも。まさかあんなぴあぴあなラブコメを描いている裏で作者の実生活があんな荒んだことになっていたとは思いたくないわけだよ。まさかあんな胸がぎゅーっとなるような恋愛物語を描いている裏で作者が人としての品性を疑われるような質問を交際相手にぶつけていたとは考えたくないわけだよ。
 いや、嘘。なにそれ超萌える。あんなぴあぴあなラブコメを描く裏で「コミケのコの字も知らない人とできる話なんてないです!!」と豪語しているとか! あんな胸がぎゅーっとなるような恋愛物語を描く裏で「男性の皮ってどうなっているんですか?」と男体の神秘に迫っているとか! そりゃあカザマ先生は誰かの想像の産物で本当は2次元のフィクションの世界の住人なのではないかと思いたくもなってくるというもの。ここに今、エッセイマンガ家・カザマアヤミは「恋愛3次元デビュー」を謳いつつ自分自身を2次元に昇華することに成功したのだ。

『恋愛3次元デビュー~30歳オタク漫画家、結婚への道。~』裏表紙より

 ということで、『恋愛3次元デビュー~30歳オタク漫画家、結婚への道。~』は「30歳オタク漫画家」であるカザマさんが担当のS尾さんをツッコミ役に迎え、「エロ漫画でお尻のネタばっか描いたり一般誌で女子高生にエロいこと言わせて喜ぶセクハラ漫画」家である紺野さんと出会うに至った経緯から結婚に至るまでのあれこれをマンガ形式で描いたエッセイである(引用はp.73より)。それは小学生の頃を描いた初っ端からしてツッコミどころのオンパレード、紺野さんが登場する中盤以降はいくらツッコんでもツッコみ足りない怒濤のボケが雨あられ、「大人の階段をエレベーターで」(p.126)一気に登った初Hから結婚まではいちいちツッコまなくても旦那がツッコんだからもういっかなーとツッコミを諦めるほどネタと笑いに満ちている。このエッセイに描かれたカザマさんは、天然のなせる業か常人の想像する斜め上の言動に走り、経験不足がそうさせるのか本来あるべき段階を次々に飛び越えては爆走する。その姿はさながらラブコメマンガのヒロインだ。そしてまたこのエッセイに描かれた紺野さんはカザマさんのフィルターを通しているとはいえ、とても人間のできた好人物であることがひしひしと伝わってくる。そんな2人を見ていると収まるべき2人が収まったというか、紺野さんあってのカザマさんなんだなというか、まあなんというかごちそうさまという感じになる。そうか、このマンガは壮大なのろけだったのだ。べ、別に羨ましくなんてないんだからね!
 ぼっち暮らしから一念発起し、3次元恋愛経験ゼロからの「はつきあい」を経て、生涯の伴侶である紺野さんとの「せなかぐらし」へと辿り着いたカザマさん。この恋愛エッセイがはたして同じような境遇の読者にとって直接的な参考書になるかどうかはわからない。だが、少なくとも「同じような境遇だった仲間が1人、あちら側の世界へ旅立った」ログとしては機能する。このエッセイを読んでカザマさんと紺野さんに当てられたことをきっかけに3次元の恋愛にデビューしようとするかもしれない。何よりも単純に読み物としておもしろい。
 作家と作品が別物であるように、ラブがコメった人生を歩んだカザマさんと今後描かれるであろうラブコメや百合マンガも別物であるが、そのどこかにカザマさんとそして紺野さんの片鱗を感じずにはいられないだろう。なぜなら、こんなにもおもしろい2人が描いたマンガがおもしろくないわけがないではないか。末永くお幸せに。

『恋愛3次元デビュー~30歳オタク漫画家、結婚への道。~』p.121より

 それにしても、「普段は主にキラキラふわふわした清純な感じの恋愛漫画を描いてい」(p.5)るカザマ先生の手によるアヘ顔ダブルピースを、ご自身が主役のエッセイマンガで初めて拝見することになるとは思いもしなかった。

【出典】
・カザマアヤミ 『恋愛3次元デビュー~30歳オタク漫画家、結婚への道。~』  双葉社、2014/5/25発行
ザマログ→作者のサイト

【関連記事】
文学作品をモチーフにした女の子同士の心のふれあいがすばらしい、世界名作百合劇場! カザマアヤミ『星をふたりで』&「ひらり、vorl.14」より『真夜中のマーメイド』(2014/7/31)

« クロが見せる猫っぽい仕草のかわいさとココが見せるさりげないちらりズムの妙――大きなお屋敷に住む幼い少女と黒い猫の物語 ソウマトウ『黒』第1巻 | トップページ | ゆうべはおたのしみでしたね!(もふもふ的な意味で) 吉元ますめ『くまみこ』第2巻 »

マンガ」カテゴリの記事

商業誌」カテゴリの記事

感想」カテゴリの記事

コメント

コメントを書く

(ウェブ上には掲載しません)

トラックバック

« クロが見せる猫っぽい仕草のかわいさとココが見せるさりげないちらりズムの妙――大きなお屋敷に住む幼い少女と黒い猫の物語 ソウマトウ『黒』第1巻 | トップページ | ゆうべはおたのしみでしたね!(もふもふ的な意味で) 吉元ますめ『くまみこ』第2巻 »

最近の記事

twitter

無料ブログはココログ