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2014/04/05

SF・ファンタジーからラブコメまで、「今」の片鱗が窺える短編集。 古味直志『恋の神様 古味直志短編集』

『恋の神様 古味直志短編集』

 SF・ファンタジーからラブコメまで様々なジャンルの短編を収めた『恋の神様 古味直志短編集』は、作者が描く「今」の片鱗を窺える短編集となっている。

 嘘から出たまこと、『ニセコイ』で描かれるフェイクから始まった高校生の恋模様には悶絶する者が後を絶たない。数ヶ月前に台湾へ行ったときなどは台北にあるマンガ専門店で中文訳のノベライズが積まれているのを見かけたので、今やその犠牲者は日本だけでなく全地球的規模にまで広がっているのではないかと思われる。
 この短編集にはその『ニセコイ』の読み切り版となる作品(同名の『ニセコイ』)と作者初のラブコメ作品となる表題作の『恋の神様』を含め6つの物語が収められているが、ここでは作者のデビュー作である『island(アイランド)』についての話をしたい。

 「私には夢があります」(p.5)

 「私には夢がある」という言葉がある。特に歴史に詳しいわけではない自分でも知っているそれは、かつてアメリカで人種差別からの解放を主導した牧師の演説にある一節だそうだ。そんな有名な言葉を彷彿とさせるモノローグで『island』の物語は幕を開ける。
 語り部は13歳の女の子マルー。唯一無二のとある能力を持つ彼女は本や物語が大好きで、山積みの本に囲まれた部屋にこもっては夢のために研鑽を続けている。そしてもう1人の主人公となるアイラ。夢の片棒を担ぐアイラはマルーと同じ年頃の男勝りの少女で、「偉大な実験」と称してはトラブルを起こし日々大人たちに追い回されている。
 そんな2人の夢。彼女たちが暮らすのは大きな壁に囲まれ、外界から閉ざされた世界だ。壁の中にある猫の額のような土地とわずかばかりの資源で先祖代々400年を生きてきた。マルーとアイラの夢は壁の外側にあるはずの広い世界へ2人で一緒に行くことだ。
 外には何があるのか。壁は何のために作られ、どうして彼女たちは狭苦しい土地に縛り付けられているのか。それについてはここでは触れないが、作者の術中にまんまとはめられてしまったことだけは書いておきたい。話し手はマルーだったはずなのにいつのまにか視点がアイラに変わっていたのはそういうことだったのか、ということにはマンガを読み終わってしばらく経ってから気づいた。

 ところで、『island』は少年誌では珍しく主役が2人とも女の子だ。少年誌のこの手のマンガで主役級の人物が2人いたら1人は少年、もう1人は少女と相場が決まっている。実際、アイラの役回りが少年だったとしてもそれほど違和感はないのではないかと思う。
 その理由の1つは、5つ目の短編としてこの本に収録されている『APLLE(アップル)』のあとがきにあるように、「デビュー作の『island』もそうですが、僕は何故か女の子の視点で漫画を書くクセがありまして」(p.258)が当てはまるのだろう。だが、それだけではない。そう思ったのはこの物語で描かれた壁に囲まれた閉鎖空間がゆりかごのように思えたからだ。「女の子」はいつか母になるかもしれない存在だ。まったくの子どもでもなく、かといってすっかり大人になりきったとも言えない年頃のマルーとアイラ。その2人が外の世界を目指し、いつか壁の住人にとって母なる海となる。そう言えば最近の『ニセコイ』でも百合チックな女の子が出てきたなと思いながらも、前述のようなことを想像した。

 そんな『island』を始めとした、SFあり、超常バトルあり、ファンタジーあり、そしてラブコメありの物語たち。人間離れした能力を持った人が続々現れ、ある意味おとぎ話のような恋愛を描いたラブコメである『ニセコイ』の源流がこの短編集には確実にある。

【出典】
・古味直志 『恋の神様 古味直志短編集』、集英社<ジャンプコミックス>、2014/4/9発行

【関連記事】
ユリコイ ~古味直志『ニセコイ』に見る百合恋模様~(2015/5/18追記)

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