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2013/12/08

大切なものは目に見えないんだよ――近すぎて見えない一番星。 仙石寛子『一番星のそばで』

『一番星のそばで』

 『一番星のそばで』は中学生の明日花と双子の弟であるゆずると、ある日突然現れた幽霊の物語だ。

 仙石寛子という作家は文学的なまでに叙情的な物語を4コママンガの形式で描くことで(自分の中では)定評がある。
 誤解を恐れずに言えば、この作者のマンガの多くは4コママンガの体裁を取ってはいるものの明確な起承転結はないため、厳密には4コママンガではないのだろう。逆に言うと、作者は4コマという複雑な表現の難しい定型的な枠組みの連鎖の中ではっとするような物語を描く。作者の手にかかれば、どんな恋の形、想いの形も自由自在に4コマの中に描かれ、その相手も異性はもちろん、同性、近親と問うことはなく、時に人外生物だったりすることもある。
 だから、作者のマンガは最後のコマにたどり着くまで気が抜けない。だから、仙石寛子のマンガはおもしろい。

 『一番星のそばで』もそんな作者の特色がよく現れた4コママンガになっている。
 明日花は毎朝一緒に登校しようとするゆずるをうっとうしいと思うようなお年頃で、それでも彼が泣いていれば心配せずにはいられないような素直な女の子だ。そんな明日花の下へ、家族で行った水族館で撮った写真に写り込んだことをきっかけに青年の幽霊が現れるようになる。なにやら言いしれぬ悲しみを背負った彼はいったい誰で、何のために明日花の前に現れたのか。

 マンガを読み進めると少しずつ明らかになること、それは。募る不安、駆り立てられるような焦燥感。すれ違う想い。弟が他人を傷付け、姉が弟を傷付けたそのとき、中学生である双子よりもずっと大人である幽霊は言う。
「傷付くのも傷付けるのも生きてれば普通のことだよ」(p.19)
 大切な人だから、いつも一緒にいるから、衝突もするし、ときには傷付けることもあるだろう。相手を傷付けることで逆説的に生を実感する。既にこの世の者でない幽霊にはできないことが双子にはできる。これは幽霊が双子に対して抱く憧憬であり、人生の先輩として生き、そして死んだ幽霊がこれから大人になる双子の姉弟へ贈る餞だ。
 この物語を最後まで読み通すともう一度読み返したくなること必定だ。そうして読み返すことで、ようやく幽霊が抱えていた悲しみの大きさを知り、その幽霊としての生(?)がどれだけ満たされたものだったかを思い知ることになる。

 一番星とは本来日の沈む夕闇の中で真っ先に輝き始める星のことだが、いつも一番星のそばにいるとその輝きに慣れてしまい、その大切さを忘れてしまう。サン=テグジュペリの『星の王子さま』で恐らくもっとも有名な「大切なものは目に見えないんだよ」という言葉、『一番星のそばで』はその言葉に1つの解釈を与えているように思った。

【出典】
・仙石寛子 『一番星のそばで』 芳文社<まんがタイムコミックス>、2013/12/22発行
空豆人間→作者のサイト

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