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2013/12/09

並行世界から来た幼なじみは空飛ぶくじらの夢を見るか? 群青ピズ『くじらジュブナイル』全2巻

『くじらジュブナイル』第1巻と第2巻

 『くじらジュブナイル』は並行世界、ドッペルゲンガー、幼なじみ、背伸びしたいお年頃など、心躍るようなキーワードを軸に、高校生たちの恋と友情と冒険と実験を描いた4コママンガだ。

 長らく新聞の社会面左上隅を彩る存在だった4コママンガが2000年前後に起こった萌え系4コマ誌の創刊ラッシュを経て独自の文化圏を築くようになったことは記憶に新しい。当初は『サザエさん』や『コボちゃん』を筆頭にファミリーもので時事ネタを扱うものが多かったが、今日ではその裾野も広がり、およそ4コママンガが進出していないジャンルはないのではないかとさえ思わせる。
 ただ、やはりメジャーなジャンルというのはあって、別に統計を取ったわけではないがいわゆる萌え系4コマには女子中高生を主人公としてその日常を描いたものが多いように思う。

 『くじらジュブナイル』は女子高生を主人公としているが、ジャンルとしては少数派のSFに位置付けられる。本作が扱っているのは並行世界で、某魔法少女アニメでその概念は以前よりもずいぶん広く浸透したように思うが、4コママンガでは他に知る限り1作しか思い当たらないほどマイナーだ。
 その本作での並行世界は「地球の裏側にあるもう一つの地球」で「気候や文化レベルの差異はあるが存在する人間は同一」だが、「その二人が出会うと」「ドッペルゲンガー現象と呼」ばれる現象により「なぜか消滅してしまう」世界として描かれている(1巻p.47)。そんな並行世界を背景に、同一人物であるはずの幼なじみ2人組の交錯する関係性が本作の焦点になっている。

 主人公の城戸枝里菜は高校デビューに成功した大人っぽい巨乳の女子高生だが、根は絵本やぬいぐるみなどのかわいいものが大好きな女の子だ。その枝里菜の下へ海外に行っていた幼なじみの大間歩が転校してくるが、過去の記憶に食い違いが見られた彼は実は並行世界からの来訪者だった。幼なじみの面影を残すが思い出を共有していない枝里菜と歩は、だが、接していく内にお互いに段々惹かれていることに気づく。そんな2人のところへ枝里菜の本来の幼なじみであるこちら側の大間歩、“黒野架”が戻ってきて――。
 『くじらジュブナイル』の主な登場人物は、枝里菜と歩と架の他には枝里菜の友人である別役玲奈、歩と同じくあちら側の人間であり怪しげな科学者であり歩の叔父でもあるドク、架とともにやってきて何かを企む謎の女性であるオルハ、そして並行世界の枝里菜と、並行世界というスケールの大きな話を2巻に渡って展開しているわりにその数は驚くほど少ない。これは単に4コママンガだから人物が多いと収拾がつかなくなるということではなく、枝里菜や歩の世界の狭さを表しているように思う。並行世界やドッペルゲンガー現象の謎という大きな秘密の解明に否応なく巻き込まれたとはいえ、彼らはまだ未成年で、これからどんどん世界を広げてゆく存在だ。それこそ並行世界から来た人でなくとも、この先いくらでも出会いがあり、同じ数だけ別れがあるだろう。
 若い彼らは変化する。枝里菜がかつて幼なじみの歩に抱いていた想いはいつしか並行世界からやってきた似て非なる歩に対するものとなり、あちらの世界で枝里菜と恋人同士だった過去を持つ歩の思慕は些細な相違点に対する気づきからこちら側の枝里菜に対して向けられるものとなる。それは彼らが生きていること、決して思い出の中に留まってはいないことの証左であり、ジュブナイルの時間が終わりを迎えようとしていることを示しているのではないか。空飛ぶくじらの夢は心地よいが、いつかその夢からは覚めなければならない。

 最後に別役玲奈について触れておきたい。玲奈は枝里菜のクラスメイトであり、枝里菜の高校デビューした仮初めの姿を何か隠していると知りつつ尊敬を抱いている人物だ。並行世界のあれこれとは直接関係のない存在でありながら、ドクの実験やらなにやらでいつの間にか物語に深く関わっていくことになる玲奈。ただ、玲奈自身「一番キャラが濃い」と言い切り、トリックスターと言っても過言ではないようなその立ち振る舞いは、読む者をして玲奈に対する疑念を抱かせずにはいられない。アホの子っぽい言動に隠されてはいるが、彼女こそ並行世界に精通し、すべてを見通す存在なのではないか、と。
 ……。そんなことはなくて、ただのアホの子か? イヤ、騙サレナイヨ?

【出典】
・群青ピズ 『くじらジュブナイル』第1巻、芳文社<まんがタイムKRコミックス>、2013/1/10発行
・群青ピズ 『くじらジュブナイル』第2巻、芳文社<まんがタイムKRコミックス>、2013/11/10発行
みぎなナメシタ→作者のサイト

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